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“松波酒造”Vol.3 仮設店舗オープン! みんなが集まる、賑わいの拠点に

松波酒造株式会社

更新日:2025年10月4日

松波酒造の取材を続けているライターの井上です。Vol.2でご紹介したトレーラーハウスを活用した仮設店舗がオープンしました。オープニングに駆けつけ、社長・金七政彦(きんしち・まさひこ)さん、蔵人・美貴子さん、若女将・聖子さんに、ここに至るまでの思いやここから目指すものなどを伺ったので、第3弾はライター目線の記事として公開します。  引き続き「トレーラーハウス店舗による営業再開プロジェクト」 (https://camp-fire.jp/projects/851911/view)と題したクラウドファンディングにも挑戦中です。ぜひご協力をお願いします。(取材ライター 井上みゆき) 2025年4月18日公開 “松波酒造” Vol.1はこちら↓です 能登うまれ能登そだち。“松波酒造”の日本酒で乾杯! https://note.com/notonokuni100/n/n479adeca5752 2025年8月27日公開 Vol.2はこちら↓です “松波酒造”Vol.2 仮設店舗オープン!人が集まる場所に https://note.com/notonokuni100/n/n0fe8ef8e3e11 「トレーラーハウス店舗による営業再開プロジェクト」 https://camp-fire.jp/projects/851911/view

仮設店舗であっても「カッコいい!」ことが大事

 仮設店舗の建設計画を牽引した若女将・金七聖子さんのコンセプトは「カッコいい!」。そのこだわりが詰まったトレーラーハウスは、確かに「仮設=安っぽいプレハブ」という思い込みを吹き飛ばす、スタイリッシュなデザインが光ります。  入口横には倒壊した旧店舗からレスキューした「大江山」の暖簾を掛け、外壁には今回新たに制作した「松波」の看板を掲げました。
 店内は往時の酒蔵を彷彿とさせる落ち着いたグレーを基調とし、カウンター後ろの大きな窓からは松波の風景がよく見えます。店内にイスはありませんが、試飲しながらお客様と談笑できる、ほどよい高さのカウンターを設置。ご近所の方はもちろん、県外からのお客様も気軽に立ち寄れる場所であってほしい、という思いが伝わります。  トレーラーハウスを選んだ最大のポイントは、デザイン性の高さだけでなく、他所で建設してから松波に移設できることにありました。奥能登で建設する場合と比べると時間もコストも大幅に軽減でき、仮設なので大規模な地盤改良も必要ありません。将来新たな施設を建てる場合は、移動して別用途で活用することも可能です。
 2025年9月14日午後1時。ご近所はもとより、遠方から駆けつけたお客様やメディア各社の取材陣が見守るなか、「大江山」の暖簾を掛け、いよいよ仮設店舗のオープンです。
 オープンから2日間は店舗前に特設ブースを設置し、振る舞い酒のサービスがありました。人気のイカ煎餅や蔵人・美貴子さんデザインによるTシャツなどのグッズは、引き続きトレーラーハウスで販売中です。 ※当面の営業日は、木・金・土の週3日を予定。詳しくは公式Webサイト(https://www.o-eyama.com/)またはInstagram(https://www.instagram.com/matsunami_sakebrewery/)などでご確認ください。

お客様の声を直接聞けるお店は、酒蔵にとって大切な場所

──社長・金七政彦さん 「みなさんに助けていただきながら、なんとかここまで来られました。『腹を立てるほど簡単にモノは建たない』と言いますが、まったくその通りです。数カ月で竣工できるトレーラーハウスをご提案いただいたのもご縁ですし、本当に「おかげさまで」としか言いようがありません。  お酒はお客様の好みに合わせて造ることが大切だと思っているので、お客様と対面で販売できる店舗は欠かせません。ここを足がかりとして、皆さんのお口に合う大江山のお酒を造っていきたいですね。酒造りは一人でできるものではありませんから、私もまだまだ頑張らないと。ここでお酒を醸せるのはまだ先のことだと思いますが、松波のお酒を飲みたいので、150歳までは頑張るつもりです(笑)」

松波酒造社長・金七政彦さん

いろんな人が交流する、ワクワクする酒造会社に

──蔵人・金七美貴子さん 「酒蔵の再建はハードルが高いので、まずは全国の酒蔵さんご協力のもとで醸した『大江山』のお酒を、能登で売ることが第一歩。そこから少しずつ発想を広げていけたら、と思っています。先のことはまだ漠然としか考えられていませんが、ここをいろんな人が交流する場所にして、ワクワクする酒造会社を目指したいですね。  能登半島地震では私自身大怪我を負いましたし、言葉にできないほど辛い経験でした。一方で、避難先の金沢で暮らし始め、加越酒造(小松市)さんで酒造りに参加させていただいたことで視野が広がり、これまでと違う発想で酒造りに向き合えるようになりました。小さな規模で日本酒を醸す東京港醸造(東京都)など、新しい日本酒造りに挑戦する酒蔵さんを訪れ、知見をいただいたことも、前を向く力になっています。  酒造りは気力・体力を使う重労働です。休みも自由に取れないので、正直に言えば『もうやめたい』と思ったこともありました。けれど、自分でコントロールできる小さな設備で日本酒が醸せるなら、ぜひ造り続けたい。越えなければいけないハードルはまだいくつもありますが、もっともっと勉強して、自分らしいお酒を造ってみたいと思っています」

蔵人・金七美貴子さん

人が集まる場をつくり、新しい松波の風景に

──若女将・金七聖子さん 「更地になった蔵の跡地を見てもそれほど悲しくはありませんでしたが、『拠点』を失ったことに凄まじい寂しさを感じていました。だからといってここにダサい建物が建つのは絶対にイヤ。安易に建てるくらいなら何もしない方がいい、とすら思っていました。  そんなときに出会ったのがトレーラーハウスです。第一印象は『カッコいい!』。新しい松波の風景にマッチすると直感しました。酒蔵はおろか住む家すらどうしていいかわからない状況なのに、とにかく『やってみたい』と思ったんです。  設計・デザインの方々に松波酒造のかつての映像を見ていただき、風景を受け継ぎながらも新しくてカッコいいデザイン、使いやすい設計をみんなでを模索しました。予算はもちろん、何もかも手探り状態でのスタートでしたが、動き出してみるとたくさんの方がアイデアをくださり、協力してくださり、完成にこぎ着けました。本当に感謝しています。  具体的な姿が立ち上がってくるとワクワク感が高まり、8月にシャーシ(土台)が到着した頃には、ご近所から『本当にやる気なんだね』という声が聞かれるようになりました。私は好きなことをやっているだけですが、それが地元の活気に結びつくのは嬉しいことです。  やっと拠点ができたところで、まだ次のビジョンは描けていませんが、町に賑わいを取り戻すためにも、ここを人が集まる場として育てたいと思っています」

若女将・金七聖子さん

子どもたちの遊び場から人が集まる場に

 松波酒造の敷地は、酒蔵・店舗・事務所・自宅などを含め約1,000坪。酒蔵や自宅の再建はまだまだ先のことなので、トレーラーハウスを設置した一部を除いて敷地は公費解体されたままの状態です。  そんな中、聖子さんが構想しているのは、地域の人が集まる「場」づくりです。学校の校庭が仮設住宅に活用されていることもあり、「子どもたちが遊ぶ場所がない」という声が多く聞かれます。それなら空いている敷地を子どもたちの遊び場にできないか。子どもたちがいる場所には自然と人が集まるので、地域の活性化につながるのでは、という思いもあるようです。  ただ、残念ながら今は店舗の運営に手一杯で、瓦礫を撤去して整地する余裕すらありません。素敵なアイデアがあれば、ぜひ松波酒造のSNSなどを通じてお聞かせください。

仮設店舗の裏に広がる空間を活用できないか?(撮影:2025年9月)

引き続きクラウドファンディング実施中!

 松波酒造では、松波酒造のお客様をつなぎ止めつつ、活動を発信して新たなファンを獲得することを目的に、クラウドファンディングに挑戦中です。  販売できるお酒に限りがあるため、実施をためらっていたそうですが、これも動いてみたらさまざまな提案・支援が寄せられ、ガンダムやゴジラのイラストレーターとして有名な開田裕治先生のご協力による「鬼神の太刀ご芳名プレート」など、多彩な返礼品が用意されています。  2025年10月中旬終了、11月以降の発送予定ですので、お早めに!  そしてこれを機に、ぜひ能登町の松波酒造へも遊びに来てください。 【震災復興】能登の酒蔵「松波酒造」トレーラーバウス店舗による営業再開プロジェクト- CAMPFIRE (キャンプファイヤー) https://camp-fire.jp/projects/851911/view

奥能登の酒・大江山を醸す“松波酒造”

 松波酒造の創業は明治元年(1868年)。初代の金七與十郎が銘柄「大江山 おおえやま」と名付け、明治36年(1903年)に法人を立ち上げました。以来、先人が残した伝統を守りつつ、近年は能登の食材を使った日本酒のリキュールを生みだすなど、能登の風土と日本酒の魅力を伝えることにも注力してきました。

酒蔵の仕込み風景(撮影:2017年)

 詳しくは “松波酒造” Vol.1↓もご一読ください。 https://note.com/notonokuni100/n/n479adeca5752

松波酒造の店頭(撮影:2017年)

事業者プロフィール

松波酒造株式会社

代表者:金七聖子(若女将) 所在地:石川県鳳珠郡能登町松波30-114

取材後記

 仮設店舗オープン翌日の9月15日は松波神社の秋祭りだったので、町内を神輿が巡行する風景に出会えました。7月のキリコ祭りのような派手さはありませんが、能登の「ヨバレ」文化に従い、天狗様に導かれた一行は松波酒造になだれ込んでお酒を所望。それはどこか懐かしくホッとする風景で、酒蔵が町の賑わいと共にある存在であることを再確認しました。  醸造技術や冷蔵設備が発達した今日、和釜や甑(こしき)、フネを用いた伝統的な酒造りを行う酒蔵は希少です。私が松波酒造に惹かれたのは、築100年を超える酒蔵の佇まいへのノスタルジーだったのかな、と思ったこともあります。  では、もう「大江山」に興味がなくなったかというとそんなことはなくて、相変わらず愛し、飲み続けています。日本酒の味わいは、酒造りに携わる人、酒蔵を訪れるお客様、ともに楽しむ食、気候風土など、酒蔵を取り巻く風景が醸し出すもの──そんな思いを新たにしました。  地元の方々はもちろん、国内外から能登を訪れるお客様が集まり、気軽に言葉を交わせる「場」をつくることは、町の賑わいが戻ることにつながります。この地で日本酒を醸すには越えなければならないハードルが山ほどあるようですが、まずは能登の風景の中で乾杯しましょう!

松波の風景(撮影:2025年9月)

井上 みゆき(コピーライター)

 メーカー宣伝部を経てフリー。本業の傍ら、酒・食・エンタメを求めて47都道府県全てを飲み歩く。関越自動車道が全線開通したころ「海沿いをロング・ドライブしたら楽しそう」という単純な動機から初めて能登の土を踏む。その後インターネットやらSNSの時代に入り、酒蔵を中心に友人が増え、さらに奥能登国際芸術祭にハマり、能登通いが加速している。

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