
輪島の塩、出張輪島朝市、能登の伝統を新世代へつなぐ“美味と健康”の挑戦
株式会社 美味と健康
更新日:2025年6月20日
ITエンジニアから塩で起業の道へ転身
もともと私、橋本三奈子(はしもと・みなこ)は東京出身東京出身で大手IT企業のシステムエンジニアでした。
「ITはやる人がいっぱいいるけど、塩の魅力に気づいている人はいない」
2009年、そう考えて47歳で一念発起して会社を辞め、起業を決意しました。
「塩は儲からない」「安定した会社を辞めて起業なんて」と周りの反対もありましたが止まらず、退職金をはたき、2010年に輪島市内に製塩所を設立しました。
輪島市出身の製塩士・中道 肇さんの協力を得て作った塩を「わじまの海塩」と名付けて販売を始めました。
この塩の特徴は、窯で炊かずに低温で結晶させていることです。ほとんどの日本の天然塩は窯炊きをしていますが「わじまの海塩」は違います。
上から熱と風を当て、時間をかけて40度未満の低温で緩やかに結晶させます。でき上がった塩は素材に素早く浸透して発酵を促し、素材のうまみを引き出してくれます。
「わじまの海塩」は、飲食店で使えばすぐにお客様から美味しいと驚かれる“戦闘力の高い塩”としても有名で、麻布十番の塩専門店では、人気No.1に輝いたこともあります。

美味と健康「わじまの海塩」
2015年、塩と輪島の魚の魅力を伝えたいと、週末だけ東京郊外のカフェを借りて、輪島朝市で仕入れた魚定食を提供しました。
そのうち「自分でも飲食店をやってみたい」という想いが芽生え、能登の朝市通りに物件を見つけて、2016年、輪島市に移住し、食堂「のと×能登(のとのと)」を開店しました。
しかし、2024年元日、能登半島地震に見舞われ、火災で店舗兼住居が焼失してしまいます。私自身は年末年始に帰省して家族と共に東京で過ごしていたため無事でしたが、店と自宅が焼失していくのを、ただメディアで見ることしかできませんでした。
「出張輪島朝市」を企画
しかし立ち止まることなく、震災復興に向けて「出張輪島朝市」を企画します。輪島という場所で開催できなくても、出張という形で全国各地に出向く「出張型」の朝市に切り替えました。

出張輪島朝市公式サイトより
被災から1カ月足らずで開催された第1回「出張輪島朝市」には約1万人以上が訪れ、大盛況となりました。復興の第1歩の象徴として各メディアでも大々的に報道され、その後も石川県内や富山県や福井県などの北陸、さらには兵庫県、愛知県、宮城県等と全国各地に活動領域を広げています。
自社の「美味と健康」の今後の展望
現在「出張輪島朝市の事務関係の仕事」「輪島朝市の復興計画」「株式会社美味と健康の代表取締役」という3つの仕事に携わっています。
輪島朝市の魅力が各地を出張することで外にも伝わっていったと思います。おろそかになってしまっていた自社の「美味と健康」の活動にも、もう少し注力していきたいものです。
「能登の塩の美味しさ・素晴らしさを広めて、幅広い世代の方々に愛される商品として拡大していきたい」と目標を掲げています。
知名度が上がれば売れ行きも向上しますが、手の届かない場所では元値とは異なる価格で販売されてしまうトラブルも発生してしまいます。マーケットが広がるほど転売などのリスクも高まることを懸念しています。
人材募集について
「美味と健康」の商品をより多くの方々に安全にお届けするため、以下のような人材を募集しています。
ECコンサルタントとしてアドバイスができる方
企業に対してECサイトの運営効率化に関する専門的な戦略を練ることや、アドバイスできる方を求めています。
ECサイト上での販売戦略の立案経験がある方、他社プラットフォームとの販売の棲み分けに精通されている方やECサイト運営経験者、バイヤーとして幅広い知識をお持ちの方を歓迎します。
Webマーケター経験者でネット販売戦略に詳しい方
Webマーケターとしてネット販売における集客、販売促進の戦略立案・実行を行うことができる方や、SEO、Web広告、SNS活用などの知識をお持ちの方を求めています。
ECサイト運営経験者・PR業務経験者
サイト運営やPR業務としての経験、知識をお持ちの方はぜひ「美味と健康」を一緒に盛り上げてください。
県内・県外問わず、アドバイザーとして一度力になってくれるだけでも、もちろん継続してチームの一員として一緒に携わってくれる方も歓迎です。
募集詳細: https://talent.aw-anotherworks.com/projects/78734?code=undefined
塩作りをもっと身近に
いずれは「美味と健康」も娘に譲って次の代に繋げてもらえたらと思います。また今回の震災で、塩作りのためのかん水作りが大変なことにも着目し「コンソーシアム」のような方法も考えています。

塩製造のための製塩槽の様子と、橋本さんご本人。水槽には木製の棚が組んであり、その棚に吊り下げた特殊なライトでかん水を蒸発させ塩を作ります

かん水は一度にいっぺんに作るのではなく、一旦タンクにくみ上げて保管します(美味と健康Webサイトより)

タンクに貯めておいたかん水を製塩槽に移し、ライトをあてて結晶化させます
原料のかん水を、自社だけでなく他の製塩所に分け合うことができないかと考えています。
同じかん水を使っても同じ塩の味にはなりません。原料は同じでも作り手のやり方や気持ちが塩の結晶に反映されるんです。
塩作りは本当に魅力的です。
商品を売るだけではなく“塩作り”をやりやすく、続けやすい環境を整えることも視野に入れています。

(2025年6月4日撮影)
輪島朝市も輪島の塩作りも、素晴らしい文化です。守るためにこれからも貢献していきたいです。
事業者プロフィール
取材後記
橋本さんがもともと塩に注目したきっかけは、自身のお父さまの病がきっかけでした。そこから娘さんの健康に配慮するようになり、食べ物が体に及ぼす影響を理解していったそうです。 今では出張輪島朝市の方々を家族のように大切にしていらっしゃいます。 復興支援計画で飛び回るかたわらで「美味と健康」を娘さんのために残していくだけではなく、次世代のために“塩づくりを続けやすくするための新システム”まで考慮していらっしゃることには驚きました。 常に「人のために」と行動する愛情深い橋本さんだからこそ、なせる業かもしれません。
西田かおり(にしだかおり)
三重県在住のフリーランスライターをしています。 前職はバーテンダーですが、育児を機にWebライターに転身しました。 今後もシロシル能登で“関わりシロ”を見つけて活動していきます。