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能登全体の活力を取り戻したい“キャンピングスポットハマノ”の願い

CAMPING SPOT HAMANO(キャンピングスポット ハマノ)

更新日:2025年9月11日

能登半島地震、発災

 キャンピングスポットハマノの濱野葉子(はまの・ようこ)です。濱野家の家業は屋根瓦の敷設や葺き替えでしたが、2017年に復業としてキャンプ場の運営を始めました。最初は雑草が生い茂った荒地だった自宅の敷地を、少しずつ整備して、キャンプができる場所に開拓していきました。キャンピングスポットハマノは、能登半島の先端にあり、目の前には綺麗な海が広がり、そして天気が良ければ富山県の立山連邦が海の上に雄大に浮かびます。こうした立地の特徴や景色の良さが、口コミやSNSで広まり、沢山のお客さまにご来場いただけるようになり、遠方からのお客様も徐々に増えていました。  2024年1月1日、能登半島地震発災の当日、キャンプ場には年越しキャンプのお客様が5組滞在していらっしゃいました。朝は例年通りおせち料理を食べました。元日は夫の誕生日でもあり、お客様にも一緒にお祝いをしていただきました。いつも通りの、穏やかな元日でした。  16時10分、私たちは立っていられないほどの激しい揺れに襲われました。キャンプ場は海の目の前にあるため、「津波が来るかもしれない」とすぐに判断し、お客様と一緒に車で高台へ避難しました。  一晩を高台で過ごし、翌朝キャンプ場へ戻ると、にわかには信じられない目を疑う光景が広がっていました。案の定、キャンプ場には津波が押し寄せ、大量の漂着ごみが流れ着いていました。ほとんどの施設は傾き、地面には大きな地割れがありました。被害の大きさに言葉を失いました。  お客様たちはキャンプ道具を片付けて車で帰宅されようとしましたが、最初に出発した方がほんの10分ほどで戻ってきてしまわれました。聞けば「途中の道が寸断されていて帰れる状況にない」とのことでした。そこで、お客様たちには海から離れた場所にテントを張り直していただき、道路が開通するまで数日間、私たちと共にキャンプ場で一緒に過ごしていただくことにしました。

キャンプサイトの地割れ(クラウドファンディングのWebサイトより引用)

キャンプ場は継続できるか?

 私たちが住む珠洲市では2022年6月、2023年5月、そして2024年1月と、大きな地震が3年連続で起こりました。2回目の地震までは、自分たちでなんとか修繕できる程度の被害で済みましたが、2024年1月1日の地震はどうにも手に負えないほどの大きな被害でした。  キャンプ場を続けるか否か、継続するとしてもお客様に来ていただけるのか、家業である瓦屋はどうなるか、もしかしたら自分たちが能登を離れる選択をしなければならないのではないか……など、さまざまなことを考えました。地震発生直後にキャンプ場に来られるお客様はいらっしゃいませんでしたが、家業の瓦屋としてはやることが沢山ありました。地震で壊れてしまった屋根にブルーシートをかける作業です。変わり果ててしまった地元の景色をお客様の家の屋根から眺めながら、ずっと葛藤していました。  キャンプ場の常連のお客様たちは私たちに「キャンプ場を続けてほしい」と思ってくださっているようでした。しかし、その想いや気持ちが私たち夫婦にプレッシャーをかけてはいけないと、あえて言葉にして私たちに伝えることはなく、家財道具の片付を手伝ってくれたり支援物資を持ってきてくれたり、優しく見守っていただけました。  SNS等でキャンプ場の被害を知り「何かできることはないか?」と仕事の休みを取って来てくれる方もいらっしゃいました。道路状況があまりよくないなか、遠くから何時間もかけて来てくださった方もいらっしゃって、本当にありがたい思いでいっぱいでした。

トイレの建物の2階部分が傾きました(クラウドファンディングのWebサイトより引用)

母屋が倒壊、大きな被害がありました(キャンピングスポットハマノのInstagramより引用)

 特に印象的だったのは、お客様たちがキャンプ道具を使って挽きたてのコーヒーを淹れてくださったことです。別のお客様は餃子を作って振る舞ってくれました。コーヒーや餃子は、能登半島地震が起きる前までは当たり前にあった物ですが、そんな日常を持ってきてくださったことが、とても嬉しかったのです。 「これまでお世話になったお客様たちの気持ちに応えるためにも、やれるだけやってみよう。だめだったら、その時にまた考えればいい」。地震が起きてから1カ月が経過したころ、私たち夫婦はキャンプ場を継続することを決めました。

キャンプ場から観る景色、絶景でした

キャンプ場の再建に向けて

 こうして、キャンプ場の継続を決めた私たちでしたが、キャンプ場の再建に向けた現実的な課題が立ちはだかります。復旧や修繕のために必要な、お金の問題です。  私たちの状況をよく知るお客様からは「クラウドファンディングをしてみたら」とお勧めいただいていました。しかし、そもそも何から手をつければよいかわからず、クラウドファンディングを全国の皆さんに知ってもらう方法も見当がつきませんでした。  そんななか、私たちのキャンプ場を気に入ってYouTubeで紹介してくださったキャンプ系YouTuberさんからご連絡をいただいたことで、私たちのプロジェクトはようやく動き始めます。その方から、文章の書き方、掲載する写真の選び方、さらには返礼品のアイデアまで、具体的にアドバイスをいただき、2024年2月にクラウドファンディングを始めることができました。  こうして「キャンプ場を再建し、能登復興につなげたい」という思いを込めた私たちのプロジェクトは、わずか2カ月の間に本当にたくさんのご支援をいただききました。私たちはその資金をもとにキャンプ場を再開する活動ができるようになりました。  地震で建物が壊れたり、修復しないといけない場所が沢山あったりと、キャンプ場の再建は大変でした。防波堤の崩れや地盤沈下など、自分たちの手ではどうにもできない部分もありました。それでも、自分たちでできる方法を探し、できる限り直しました。お客さんは私たちのキャンプ場に、非日常を味わうために、のんびりするために来てくださいます。修繕や整備がしっかりされ、安全なキャンプ場でお客様をお迎えできるように、そして「景色がきれいだね」「ここに来たら癒されるね」と言ってもらえるように、頑張りました。皆さんの暖かいご支援に、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。  今では、リターン(返礼品)に設定したキャンプ場の利用チケットを持ってキャンプ場に来てくれる方も多くいらっしゃいます。このチケットを見るたびに、当時のことを思い出し、そしてご支援いただいたことへの感謝の気持ちをお伝えしています。多くのお客さまから「帰りに珠洲市のものを買って帰りますね」と言っていただけます。キャンプ場の再開が、私たちだけでなく、能登全体の活力を取り戻したいと願っている私たちにとって、とても嬉しいお言葉です。 

初夏のキャンプ場の様子、海がきれいです(キャンピングスポットハマノのInstagramより引用)

冬の季節も美しい景色のキャンプ場(キャンピングスポットハマノのInstagramより引用)

春は桜がきれいです。お客様のテントも可愛らしいです(キャンピングスポットハマノのInstagramより引用)

可愛い小物で飾られたこの建物の中には井戸があります。現在も使っています

能登全体の活力を取り戻したい

 能登以外に住んでいる方からすると「地震から随分と時間が経っているのだから、能登の復興はきっと進んでいるのだろう」と思って当然だと思います。最近では、被害の様子がテレビなどでもあまり取り上げられなくなりましたし、実際に復興が進んでいる地域もあるからです。  しかし、能登半島地震から1年半以上が経過した今も、土砂崩れなどで工事中の道路があったり、全壊してしまって家が解体されずそのまま残されていたりという地域も沢山あります。まだ復興の途上、というか、復興の前段階である復旧すら終わっていない状態です。  そんななか、いま私たちは、できるだけ多くの皆さんに、能登のことを忘れずにいてほしい、能登に来てほしいと思っています。もちろん、私たちのキャンプ場に来てくださるのはとても嬉しいです。でも、私たちのところだけが賑わうだけではなく、周辺地域も含めて賑わいを取り戻さなければいけないと考えています。  例えば、キャンプ場に足を運んでくれたお客さんは、周辺にあるスーパーで食材を買ったり、ホームセンターで消耗品を買ったりしながら私たちのキャンプ場に来てくださいますし、帰りがけにお土産屋さんで買い物をしたり飲食店で食事をしたりしてくださいます。こうした、途中の買い物や体験もキャンプの楽しみのひとつです。  また、スーパーや飲食店を経営している人も、そこで働いている人も、皆さん私たちと同じように能登半島地震で被害を受けた地元の住民です。地震で大きな被害を受け、それでも頑張ってお店を再開させた皆さんのところに徐々にお客さんが増えて、従来の活気を取り戻すことが大切だと思っています。このように、地域全体が少しずつ復興し、能登全体の復興につながっていくことを、私たちは願っています。  先日、キャンプ系YouTuberさんが、私たちのキャンプ場で「オフ会」を開いてくださいました。その際、私たちは珠洲市のお菓子屋さんのクッキーや、事業者さんの商品を、お土産用に販売いたしました。微力ではありますが、私たちもできる限りのことをして、少しでも能登全体の活力を取り戻したいと思っています。

キャンピングスポットハマノの代表・濱野達也さん

事業者プロフィール

CAMPING SPOT HAMANO(キャンピングスポット ハマノ)

代表者:濱野達也 所在地:石川県珠洲市三崎町雲津68

取材後記

 車で珠洲市のキャンプ場に向かっている途中、次第に斜めになっている電信柱や倒壊して黒瓦の屋根だけになっている家を目にするようになり、現実に驚きました。被害の大きさと、まだ復興の途上であるのを感じました。  キャンプ場は穏やかな海がどこまでも続く絶景地で、いつまでも見ていたくなる美しい場所です。  キャンプ場のおすすめの場所を葉子さんに聞くと、「ここから見える景色はもちろんおすすめなのだけど、この白い小さな花がかわいいんですよ」と教えてくれました。この花は地盤を強くする役割もあるそうです。可憐な小さい花と海と風を感じました。

葉子さんおすすめのかわいい白い花が広がる

東岡英里子(ひがしおか・えりこ)

 岡山県倉敷市在住です。偶然に「シロシル能登」を目にして、能登に行ってみたいと思い、プロボノライターに応募しました。 https://x.com/higashisan0055

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