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「この地で必ず酒造りを再開させる」輪島朝市通り“日吉酒造店”杜氏の決意

日吉酒造店

更新日:2025年5月29日

朝市通りの店が、小道を挟んで隣りまで焼失

 日吉酒造店は1912(大正元)年から石川県輪島市の朝市通りで営業してきた酒蔵です。創業者が夢で金の瓢箪を付けた白馬に「酒造りを始めよ」と告げられたことから酒造りを始めたという逸話があります。蔵の地下から湧き出る井戸水を使用し、「日本海に近い井戸水で仕込んだ日本酒」として知られています。  私、日吉 智(ひよし・あきら)は5代目蔵元兼杜氏です。代表銘柄は「金瓢白駒(きんぴょうしらこま)」「ささのつゆ」「おれの酒」などで、キリッとした辛口の味わいが特徴です。店頭では試飲も行っており、観光客にも人気のスポットとしてにぎわっていました。

日吉酒造店の店頭(2025年5月3日撮影)

 しかし、2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震により、酒蔵は全壊し、貯蔵タンクも使用不能となるなど甚大な被害を受けました。井戸も砂や泥が混じり、水位が低下して汲み上げが困難な状態となりました。蔵での酒造りはできない状態です。蔵の建物は2025年中に解体し、生き残った酒造りの道具や機械は、新たに借りる倉庫に移動させる予定です。

倒壊した製品置き場の土蔵(2025年5月3日撮影、日吉酒造店にて)

井戸は砂や泥が混じり“スコスコ”と空気が混ざる音がします(2025年5月3日撮影)

蒸し窯(2025年5月3日撮影)

倒壊した仕込蔵(2025年5月3日撮影)

浮いてしまったコンクリートの土間(2025年5月3日撮影)

小道を挟んで隣りの家まで火災で焼失

 残念ながら朝市通りのお店は地震後の火災で、小道を挟んで隣りのお店まで焼失してしまいました。輪島朝市通りと酒蔵を再建させるという強い想いで、店舗の営業を再開しました。

日吉酒造店からは焼失してしまった輪島朝市通りの敷地が広がります。夜は敷地を囲う太陽光ライトが朝市通りを照らします。(2025年5月2日撮影)

写真の奥には朝市通りの商店が立ち並んでいました。(2025年5月3日撮影)

 また、県内外の酒蔵や支援者のご協力のもと「能登の酒を止めるな」というクラウドファンディングも行われており、県内外の酒蔵での共同醸造も行っています。できたお酒は寄付者の方に返礼品としてお送りしたり、店頭で販売したりしています。「能登の酒を止めるな」第4弾(https://www.makuake.com/project/noto_sake4/)は、6月9日まで開催されています。第5弾の開催も予定されています。

お酒の販売を開始しています。(2025年5月3日撮影)

共同醸造で醸したお酒も店頭で販売しています。(2025年5月3日撮影)

外部の人に関わり続けてもらうことが重要

 日吉酒造店は輪島朝市通りと共に営んできました。地域の復興と蔵の再建は一対の関係にあります。この地で必ず酒造りを再開させると決めていますが、地域の復興は時間がかかるので、蔵の再建も急がずじっくり考えながら次の在り方を考えたいと思っています。  地域の復興に関わりたいとの想いから、「輪島市本町周辺地区まちづくり協議会」の代表を務めています。震災で過疎がさらに進んだこの街を、外部の方の意見も取り入れながら再建していきたいと考えています。輪島のこと、能登のことを思う方々に関わり続けていただき、新たな血や外部の視点を取り入れ、次の世代につないでいきたいと思います。ぜひ輪島に足を運んだり輪島の人々と交流したりと、私たちとつながりつづけていただきたいと思います。

輪島朝市通りの入り口(2025年5月2日撮影)

“日吉酒造店”について

 石川県輪島市の朝市通りにある大正元年(1912)創業の造り酒屋です。創業者が夢で金の瓢箪を付けた白馬に「酒造りを始めよ」と告げられ始まりました。当蔵の代表銘柄は「金瓢白駒」。特徴は蔵の地下からくみ上げた井戸水で日本酒を仕込んでいます。「日本海に近い井戸水で仕込んだ日本酒」として、他にも「おれの酒」「能登の酒」といった銘柄を販売しております。キリッとした辛口が特徴で店頭では試飲も行っております。

事業者プロフィール

日吉酒造店

代表者:店主 日吉謙一 所在地:石川県輪島市河井町2部27の1 TEL:0768-22-0130 FAX:0768-22-9988 info@hiyoshisyuzou.com 平日9時~15時まで営業電話注文は受け付けており、全国への発送が可能です(インターネットでの注文は現在受け付けていません)

取材後記

 日吉 智さんは蔵のこと、そして街のことを幅広い視野で見てじっくり考える方。筆者が日吉さんと出会ったのは13年前。当時から日吉さんのスタンスはずっと変わりません。未曾有の災害から街を復活させていくのは、日吉さんのような多くの方々の気持ちをきちんと捉えて決断・実行できる方だと思います。とはいえ、将来を考えると課題は山積しています。どしっと構えながらもご負担が多いはず。輪島朝市通りを支えた多くの人々の遺志を継いで日々励む日吉さんを、これからも応援していきたいと思います。

取材者

白鳥淳子(しろとり・じゅんこ、能登応援部長)

 メディア企業に務めるかたわら、2006年からNPO法人「田舎時間」の活動で農作業や牡蠣の養殖の手伝いのために石川県穴水町に通ってきました。2012年には三菱地所が丸ビルほかで開講した“社会人向け朝活”「丸の内朝大学」で能登空港の利用者増を目的とした「能登プロデューサークラス」を石川県庁と企画。受講生の首都圏のビジネスパーソン40名と奥能登の事業者をつなぎ、両者が連携して奥能登の酒を東京でPRする「奥能登酒蔵学校」など数々の企画が生まれました。震災後は「能登応援部」の部長を務め、チャリティイベントなどを行っています。

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