
“カタリバ”代表今村久美さんが思い描く災害支援の新しいかたち【後編】──地域の力を育て、分断を乗り越える社会を目指して
認定NPO法人カタリバ(認定特定非営利活動法人カタリバ)
更新日:2025年10月6日
「外からの支援の限界」を痛感した東北での経験を踏まえ、カタリバ代表の今村久美さんが大切にしているのは「地域住民が主体の支援」だ。緊急期から復興期へと移行する今、カタリバが力を入れているのは、高校生の「マイプロジェクト」と、地域団体への伴走支援、コミュニティハウスの建設という3つの柱。これらの取り組みを通じて、今村さんが見据えるのは災害復旧を超える社会変革への道筋だ。
後編では、現在進行中の具体的な取り組みと、この支援活動を通じてカタリバが目指す日本社会の未来について聞く。
カタリバの設立から東日本大震災での学び、そして能登半島地震での緊急支援について紹介する前編「発災4日後から始まった「避難所」で生活を共にする子ども支援──カタリバ代表今村久美さん語が思い描く災害支援の新しいかたち【前編】」(https://www.sirosiru.jp/articles/ne3d97f233998)もお読みください。
現在進行中の三つの取り組み
今、力を入れているのは大きく三つです。

支援活動を安定的に継続していくための運営ノウハウを届ける(写真提供:カタリバ)
高校生が中心の「マイプロジェクト」支援
一つ目は高校生を中心とする「マイプロジェクト」。創造的な学びを地域に根付かせ持続可能なものにするために、地域の未来を担う高校生たちが挑戦する場の創出を支援します。彼ら自身が、今の能登に対して問題だと思うこと、やってみたいことをテーマに設定してチャレンジ。地域の大人たちがネットワークを作って活動を支えるために伴走します。
この取り組みは、東日本大震災のときに生まれました。震災に携わる大人たちを見て、自分たちもこの機会を学びに変えていきたいという声が多くあがりました。その後、東日本大震災当時に支援を受けた多くの子どもたちが大人になって、今回の能登半島地震にも支援に入ってくれました。
子どもたちのために活動する地域団体を支援
二つ目は、能登の子どもたちのために、地域で活動する団体自体を、カタリバが支援するというもの。実は、能登半島地震時に立ち上げた団体が、緊急時を脱した今、だんだん息切れしてきています。これらの地域団体を協力企業のプロボノとカタリバがチームを作って伴走支援、助成金の支援のほか、活動を安定的に継続していくための運営ノウハウを届けています。また外から参加する人、関係人口を増やすことにも力を入れています。
住民拠点となるコミュニティハウス建設を支援
三つ目は、国の休眠預金の制度を活用して、地域に住民の拠点となるコミュニティハウスを作ることです。この取り組みで大切にしているのは、「みんなで作る」こと。建築費が高騰する今、できれば地元の資材を使って、プロに入ってもらいつつ、できる限りみんなで手を動かして作る。そんな団体を応援しています。
穴水町の廃駅舎を地域コミュニティにする取り組み、輪島市町野町の地域住民や支援者が協働で「コミュニティハウス」を建設する計画。七尾市中島町の住まいと地域を一体で再生する計画。能登町小木地区の廃業した銭湯を子どもたちの学びと交流の場としてリノベーションする計画の4件が採択され、計画や建設が進んでいます。
カタリバが目指す災害支援のかたち

地域でイキイキと輝く大人たちの姿や背中を見せたい(写真提供:カタリバ)
「大人」を支援する理由
私たちカタリバの主な取り組みは、もちろん子どもを応援することが目的です。そのなかで、地域でイキイキと生きている大人たちの姿や背中を子どもたちに見せることがとても大切です。
「地元側に情熱をもった人たちがいて、そこに外から来た人が参加していくというやり方が重要」だということに東日本大震災以降の復興支援を通じて学びました。結局その形の方がコミュニティとして持続していくと思います。
能登の文化や自然、人から学び、楽しみながら関わっていく
「被災してかわいそうだから支援する」という一方向的な支援のあり方は、そろそろ見直してもよい時期かもしれません。しかし、実際に家がなくなってがらんとした街を見るのはとても寂しい。実際に能登を訪れると、人通りがほとんどないというエリアも増えています。住んでいる人にとっても、孤独を感じやすい状況になっていると思います。
今、能登の支援を考えている人ができることといえば、例えば、能登を知るために訪ねる。伝統的で豊かなお祭りを観に行く。豊かな自然を感じに行く。被災してもなお、今そこで頑張っているカレー屋さんでカレーを食べたり、酒屋さんでお酒を買ったりする。そういう文化や自然、人から学び・楽しみながら能登との関わりどころを見つけてもらえたらいいなと思っています。
そのなかで、現地の人たちと心地よい関係性を築けたら、また能登を訪れればいいと思います。古くからの農法で米作りをする千枚田をはじめ、企業の研修の場としても能登は宝庫です。
私としては、関わってみたい、行ってみたいなと思う大人と、地元のコミュニティを繋いで、その地域の子どもたちの想像力を膨らませていきたいですし、外から来た人たちにも能登はいいところだと感じてもらえればいいなと思っています。
もちろん、地元の能登の子どもたちに対するカタリバの活動へのご寄付も引き続き受け付けていますので、関心を持っていただければうれしいです。
排除ではなくお互いを認め合いながら
私はカタリバ設立時に、自分の経験に基づく想像力しかもてないということが世の中の分断を生んでいるという問題意識がありました。それは今も同じで分断が広がり続けていることを大変危惧しています。大切なのは多様な人たちと繋がり経験を増やしていくことです。
人口減少社会の最先端にある能登を、都市に住む人こそ経験することにとても価値があると思いますし、一方で人口減少社会のど真ん中にいる能登の人たちが都市住民との関わりのなかで学ぶこともあるでしょう。
お互いの想像力を膨らませることができる機会の先には、この社会がもっと優しくなるようなリーダーシップが生まれてくると思っています。排除ではなく、みんながお互いの自由やありたい姿を認め合える日本にしていくきっかけになるといいなと思っています。
今村久美さんプロフィール
認定NPO法人カタリバ代表理事。1979年岐阜県生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2001年にカタリバを設立し、高校生へのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。東日本大震災後は被災地の放課後学校「コラボ・スクール」を展開。現在は、すべての10代が意欲と創造性を育める社会を目指して活動している。
事業者プロフィール
取材後記
今村さんのお話から見えてきたことは、災害支援における従来の「外から与える支援」から「地域と共に歩む支援」への転換でした。能登半島地震から1年半。豪雨から6カ月。能登は今、復旧から復興への転換期にあります。その転換期を、カタリバ設立以来、今村さんがこだわり続けてきた「ナナメの関係」をベースに、地域の力を信じ、育み、共に歩むカタリバの支援は、これからも多くの子どもたちと彼らを取り巻く大人たちに、大きな力と勇気を与え続けていくはずです。とはいえ、その結果が見えるのは、まだまだずっと先のこと。それでも、今村さんたちが種を蒔き耕し続けている支援は、少しずつ実を結んでいると感じました。
米谷美恵(よねや・みえ、インタビューライター)
インタビューライターとして20年以上にわたり、メディアや企業、自治体など、さまざまなジャンル、媒体で2,000人以上の方々にお話を聞いてきました。好物は「人の話」。人、場所、物、想い。そのすべてに寄り添ったコンテンツ作成を心がけています。話し手の言葉に耳を傾け、ことばを整え、読んだ人の心に届くように形にしていく──。「対話から生まれる想い」を大切にしています。