
一本杉通り商店街にともる希望の和蝋燭(和ろうそく)──“高澤ろうそく店”の挑戦
株式会社高澤商店
更新日:2025年7月22日
作ることが、まず希望だった

2025年6月7日 七尾市・高澤そうそく店内の様子 (お香)
2024年1月1日の能登半島地震で、私、高澤 久(たかざわ・ひさし)が営んでいる和ろうそく店“高澤ろうそく店”は、築100年を超える本店店舗が事実上の全壊とも言えるほどの損傷を受けました。店舗の奥に住む両親は避難所に身を寄せ、水道も2ヶ月間止まりました。暮らしも仕事も、何もかもが一変しました。
地震後に最初に手がけたことは、和ろうそく作りの再開です。幸い、工場と倉庫が別の場所にあり、2024年1月末には製造を再開できました。
店舗は、近所の物件を借りることができたため、2024年3月14日に仮店舗として、営業を再開しました。
被災した本店は修復という道を選びました。解体して再建となると、建築基準法上「新築」扱いとなります。そうなると法的にさまざまな制約を受けることになり、昔の店のたたずまいを残せないと考えたためです。
建築の専門家たちとも相談しながら、ようやく再建のプロジェクトが動き始めたところです。再建に向けて、いちばんの課題は資金の確保でした。
そのため、経済産業省の補助金制度である「なりわい再建支援補助金」を活用することに決めました。また、銀行から融資を受けることで資金の確保を行っています。
つながりが生んだ、初の復興イベント

2025年6月7日 七尾市・高澤ろうそく店内の様子(和そうそく)
地震後に一本杉通り商店街では、9割以上のお店で建物被害があり、営業ができない状態が続いていました。私は、商店街の会長を務めているため、商店街の再建のために、さまざまな取り組みを行ってきました。
最初に行ったことは、東日本大震災から商店街の復興を果たした、宮城県南三陸町の商店街の方々から、復興に向けてやるべきことのヒアリングでした。地震からまだ間もない、2024年1月末にヒアリングを行っています。
南三陸町の方々からは、「まずは商売ができる機会をつくる」ことが大切だとアドバイスを受けました。商売を再開することによってその楽しさを思い出し、商店街復興に向けて前向きに取り組むエネルギーとなるためです。
アドバイスを受け、一本杉通り商店街では地震からわずか1カ月後の2024年2月11日に「復興マルシェ」を開催しました。このイベントは、地震後に能登半島で行われた初めての復興イベントとなりました。
復興マルシェに出店してもらうために、一店一店に足を運び出店の要請をしました。誰も店を開けてくれないのでは……という不安もありましたが、ある店舗から「ぜひ出店したい」という連絡を受けたときには、とてもありがたかったです。
復興マルシェ当日には、9店舗が参加してくれました。お寿司屋さんはお弁当を、喫茶店の方は温かいコーヒーを販売してくれました。また、県外からは南三陸町の海産物や横浜の企業からはチョコレートなどのお菓子、名古屋の企業からはランタンなどのアウトドア用品などをいただき、売上金はすべて寄付に回してくださいと申し出てくれました。このような皆さんからの協力をいただき、とてもありがたかったです。
止まった時間を動かすチャレンジショップと「一人一花」
復興マルシェを継続的に開催することで、出店してくれる店も増え、店舗の再建に取り組む方々も増えてきました。商店街としても、2024年夏から半年ほどかけて「一本杉通りの復興方針」を検討してきました。
一本杉通り商店街の店舗のなかには大きな被害を受けた建物もあり、解体作業が進んでいます。そのため、空き地も目立ちはじめてきました。空き地が増えると、人の流れも止まってしまいます。
そのため、空き地を増えないようにすることが、商店街全体としての課題であると気づきました。これらの課題への対策として、新しい事業者が低コストで出店できる「チャレンジショップ」を設けたり、店舗を貸したい人と借りたい人をつなぐマッチング組織の立ち上げを準備しています。
また、空き地化を防ぐための暫定対策として、空き地に花を植える「一人一花 in 能登半島」プロジェクトなども推進しています。
あなたの来訪が、商店街に希望をもたらす

2025年6月7日 七尾市・高澤ろうそく店に灯る和ろうそく
2024年1月1日の地震から1年半が経過し、仮店舗や仮設商店街を活用することで、商店街の約8割の店舗が営業再開を果たしています。
地元の方々は変わらずに商店街に足を運び、買い物に来てくれます。とてもありがたいことだと思っています。
しかし、観光客は激減しました。その要因の一つが、七尾を代表する温泉地である和倉温泉の旅館の多くが、いまだに休業しているからだと考えています。また、地震の爪痕が残っており、今能登に行っても復興の邪魔になると考えている方もいるかもしれません。でも、私たちは「来てもらうこと」そのものが大きな支援になると感じています。
ぜひ、七尾市に足を運んでみてください。そして、一本杉通り商店街にも訪れていただければと思っています。
事業者プロフィール
取材後記
高澤そうそく店の仮店舗に伺うと、多くの種類の和ろうそくが迎えてくれました。和ろうそくの原料は植物由来とのこと。中でも、特に目をひかれたものは、黄色の色味が鮮やかな「菜の花ろうそく」でした。 高澤さんは、高澤ろうそく店を経営しながら、一本杉通り商店街の会長という重責も担っています。復興に向けて、さまざまなご苦労があったともお聞きしました。 復興には、まだまだ時間がかかるかと思いますが、今後も応援していきたいと思います。
三枝 徹(さえぐさ・とおる、ライター)
東京都出身、千葉県在住。 システムエンジニアの経験を経て、現在はWebメディアの取材ライター、NPO法人の広報を行っています。