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暮らしを耕し、日常に美意識を。能登の未来を再編集する”惚惚(horebore)”

合同会社惚惚

更新日:2025年6月19日

「旅する仕事人」が辿り着いた、能登で“暮らしを耕す”日々。

 自分(RIKU)のことを少し話すと、学生のころからノマドワーカーのように、いろいろな土地に旅をしながら仕事をしていました。大学1年生のときにベトナムへ行き、ゲストハウスの立ち上げに参加しました。その後も、まちのライフスタイルを創るようなホテルや飲食店の立ち上げなど、ずっとクリエイティブのプロジェクトに関わってきました。  カナダから仕事をいただき、移住をする予定だったのですが、コロナ禍で計画が頓挫してしまいました。その後、ノマド暮らしを続けているうちに、能登半島珠洲市の移住者の方と知り合い、気づくと能登・珠洲市に移住し、深く入ることになりました。  能登での主な活動は「惚惚(horebore)」というブランドを展開しています。「クリエイティブディレクター」という肩書を使うことが多いですが、具体的には「日常に美意識を」というテーマで、喫茶店をやったり、日用品を作ったり、デザインをしたり、地域で実験的なことを仕掛けたり。ひとことで言うと、「暮らしを耕す仕事」をしているつもりです。

惚惚(@hb_horebore)ブランドで喫茶店(喫茶惚惚)や日用品の商店(惚惚浪漫商店)を運営している(画像提供:Takumi Kawashima)

 あの日(2024年1月1日)、能登が大きく揺れたとき。珠洲市に事業も住まいもあり、自分も現地で被災しました。たくさんのものが崩れましたが、同時に「何かを新しく描き直す機会なんじゃないか」と感じた自分もいました。  もちろん被害は甚大だったし、いまも生活が元に戻っていない人がたくさんいます。でも「復興」という言葉だけにとらわれるよりも、能登という場所が持つ独特の面白さを、もっと自由にポジティブに伝えていきたい。そのような想いで、自分はこの土地と向き合っています。

珠洲市も甚大な被害がありRIKUさん自身も被災したが、前向きに能登の土地と向き合っている(画像提供:RIKU)

能登には、心が“惚れる”瞬間が満ちている。

 自分がこだわっているのは「惚惚」というブランドを通じて、「どんな暮らしをしたいか?」を自分自身に、そしてみんなに問い続けることです。  暮らしとは、突き詰めるとバランスだと思うのです。忙しい日々のなか、ふと心が動く瞬間。それこそが“惚れる”感覚なのかもしれません。能登にある日常の“惚れる瞬間”、それをどう伝えていくか。それが、自分にできることだと思います。

“惚惚”ブランドでどんな暮らしをしたいか、RIKUさん自身に問いかけをしている(画像提供:Takumi Kawashima)

能登という土地には、不思議な力があります。都会の洗練された美しさとはまったく違う、生活に根ざした“惚れる”瞬間がいたるところにあるのです。お祭り、農業、地元の人たちの手仕事……どれも「生きるために自然と生まれた美意識」なのだと感じています。  “惚れる”という言葉は、あまり日常では使われませんよね。だからこそ自分は、それをブランド名にしました。少しユーモアを込めて、惚れる感覚の価値を伝えたかったのです。そこに、自分たちの世代が共鳴できる「豊かに生きるヒント」があると感じています。  自分自身、体を壊したり、移動ばかりの生活に疲れた時期もありました。だからこそ、能登の暮らしに根ざした、静かでも豊かに生きることの価値に気づいたのだと思います。

日常生活の中に美意識を(画像提供:Takumi Kawashima)

ただの復興じゃない、“暮らしの再編集”という選択。

 震災以降、「復旧」と「復興」という言葉が使われていますが、自分にとって能登は、「やらなきゃ」ではなくて「やりたいからやってる」場所なのです。  震災をひとつの区切りにして、「復興」の先に、この土地の暮らしをもう一度「再編集」していくことが大切だと思うのです。被災前の状態に戻すだけではなく、この土地に根差す価値や人々の感覚を見つめなおしながら、新しい日常を編み直していく。  たとえば、失われたものをそのまま再現するのではなく、地域の人々と「今の私たちにとっての心地よさ」を再発見していく。そして、「能登って、面白いことやってるな」って思ってもらえるような発信や場づくりをやっていき、それを長期間にわたって世代を問わず、応援してもらえたらありがたいですね。  2025年は活動エリアを広げるために金沢市に活動拠点を移しました。秋には金沢市石引への店舗移転も準備中です。現在は能登に通いながら、珠洲市だけではなく、もっと広域に能登の魅力を広め、「暮らしの再編集」をしていくためにさまざまな活動を展開していこうとしています。  金沢市にはあえて大きな家を借りました。大きな家を借りた理由はシンプルで「人を呼びたかったから」です。「友人以上、恋人未満」ではないけれど、「ウェディングパーティー未満」の集まりを、もっと自由に日常的に開きたい。そんな人が集まる「間(ま)」をつくることが、いまの自分にとっては大事なことで、惚れる暮らしのひとつなのかも知れません。

RIKUさんと最高の仲間たち(画像提供:RIKU)

ローカルラボから「暮らしをもっと面白くする」を発信していく。

能登の復興とその先の「再編集」を考えた際に、もっと伝達手段も自由で広く、そして大手メディアにはできないリアルな本質を伝えていきたい。そのような思いから、新しく金沢・能登を拠点とするローカルライフスタイルメディア「Hygge Research Lab」(*)という取り組みを部分的にですがリリースしました。2025年5月現在は、能登にゆかりのあるメンバーと共に完全非営利で運営していて、Web記事やPodcastを媒体として能登の魅力を広く伝えようとしています。 * Hygge(ヒュッゲ):暮らしのなかにあるささやかな心地よさや、ほっとする関係性を大切にする北欧発の暮らしの知恵。  今後のさまざまな展開を見据えながらコンテンツ作りをしていて、とくに「Hygge Local Japan」として新しい切り口を模索中です。  これは地域のライフスタイルや防災の知恵を、学問と実践の中間領域でリサーチと仮説検証を行う場として、東京の大学で災害対策の授業も受けながら、リサーチなどを通じて得られたデータの社会実装も進めていけたらと考えています。たとえば、アウトドアを軸にした仮説を立ててみたり、プレイヤー目線で連載を企画したり。研究職じゃなくても「暮らしを面白くする仮説」に興味がある人と一緒にやっていけたら嬉しいです。 https://note.com/hygge_jp  それと並行して、ローカル目線のオウンドメディアも立ち上げ中です。能登の暮らしにフォーカスしたPodcastを発信していきます。いろんな人に関わってもらって、能登の“今”を、もっとラフに、でも深く伝えていきたいと思っています。 https://creators.spotify.com/pod/profile/HyggeLocalJapan/?fbclid=PAZXh0bgNhZW0CMTEAAadVmx8pnQMHefaKt-C7r6zBNeSkkJO0Xmz0RaOXZXEHteafVZMQmbiT3rqbSA_aem_KefsUyRRsKvpPXfMQduV0g

Podcastで能登の情報を発信。能登への運転中に楽しんでもらえたら……、を意識したコンテンツ。能登の若手プレーヤーもゲストに呼んでトークする内容になっている(画像提供:RIKUさん)

“惚れる未来”を一緒に育てていく仲間を募集しています。

 自分たちがやろうとしているのは、ただの商いでも、ただの復興でもない。暮らしのなかにある小さな「惚れ」を拾い上げて、きちんと人に伝えること。そして、文化として「再編集」して、未来につなげていくことです。そのための仲間を探しています。 ・地域や暮らしに根ざしたクリエイティブに関心のある人 ・デザインや編集、音声メディア(Podcastなど)での発信が好きな人 ・リサーチや仮説検証を通じて、社会に問いかけたい人 ・現地に飛び込んで、人と関わりながら何かを育てていきたい人 「学者でも活動家でもないけど、自分なりの問いを持っている」 「地域で生きるって、どこか面白そうだなって思っている」  そんなあなたに、ぜひ声をかけてほしいです。 肩書きとかスキルとかよりも、「惚れる瞬間を大切にできるか」が自分たちにとっては大事なことなのです。  ここ能登で。あるいはオンラインで。つながり方はいろいろあります。  一緒に「惚れる未来」をつくりませんか? 

事業者プロフィール

合同会社惚惚

代表者:畠山 陸 所在地:石川県珠洲市上戸町南方121-15

取材後記

 能登での取材最終日、空港施設内でRIKUさんと待ち合わせしていましたが、駐車場からこちらに向かってきたRIKUさんは、遠くから見ても、一目で「クリエイティブ系の人かな?」と思わせる方でした。  ベトナムでのゲストハウスをはじめ、さまざまな経験を積んできた彼ですが、現在の彼は、日常のなかに美意識を取り入れて幸福な生活を追求するために、自分と仲間が好きな活動を進めている。  そこには震災から立ち直るという悲壮感なようなものではなく、能登の土地の魅力を引き出しながら、楽しんでいこうと、新しい能登をつくっていこうと、そのような前向き感を強く感じることができました。そんなRIKUさんのこれからの活動に注目しています。

和(ひとし)

青森県出身。千葉大学卒業後、金融機関に勤めるかたわら、ソーシャルフリーランスとして活動。プロボノとしてさいたま市や市川市などでウォーカブルなまちづくりに関わる活動や、青森県でローカルの事業者と接していくなかで、まだ光が当たっていないプレーヤーに少しでも光を当てたいと願い、インタビューライターとしても活動を開始する。

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