ロゴ
画像

穴水町唯一のパン屋“Bakery H&M”が街のために営業再開した想いと目指す光景

Bakery H&M

更新日:2025年6月17日

出会いとご縁に感謝の日々

 洋服店「ウイングなかり」の一角で、小さなパン屋さんを営業している橋本明美(はしもと・あけみ)です。穴水町で長年営業していたパン屋が閉店され、「穴水町にパン屋がないのは淋しい!」と、以前大阪でパン職人をしていた主人の橋本弘幸(はしもと・ひろゆき)と一緒に、この場所で4年前より営業をしています。  私が販売を行い、主人が工房でパンを焼いています。

「ウイングなかり」の店内

馴染みの人たちと再び会えるように

 震災を機に、商店街も含め、穴水町から人が減りました。金沢市などに住むご家族のところへ、移住された方も多いようです。  馴染みのお客さんの顔を見かけることが少なくなり、「○○さんは、子どもさんのところへ移住した」と人づてに聞くだけではなく、以前住んでいた自宅の片付けなどをするため、穴水町に戻って来たときにお店へ寄ってくれ、直接本人から聞くこともあります。  自宅が倒壊したなど仕方がない状況ばかりですが、今までのように会えなくなるのは、淋しいなと感じます。

震災後の様子をお話してくれた「Bakery H&M」代表の橋本明美さん

 商店街は震災が原因で営業できないお店が多く、とても静かになりました。私たちのお店の少し先では、倒壊した店舗もあり、その人たちの一部は、仮設商店街「あなみずスマイルマルシェ」で営業を再開されています。  お店として営業はされていますが、「あなみずスマイルマルシェ」は商店街から少し離れた場所にあるため、以前のような交流は減っています。  商店街が、再び賑わうように願うばかりです。

静かになった商店街

自分たちにできることは何か

 水や電気が使用できるようになったため、震災から約1ヵ月後に営業を再開しました。  当初は、今のようにパンを作ることはできませんでしたが、ショーケースの棚2段分は、パンを並べることができました。

現在の「ベーカリーH&M」の様子。ショーケースには、種類豊富なパンがならぶ

 お店を再開してから自宅の片付けが思うようにできなくなったため、震災によって散乱した2階の片づけをボランティアの人たちが、すべておこなってくれました。ボランティアの人たちには、感謝の気持ちでいっぱいです。  お世話になったボランティアの人たちへ、少しでも何かできることはないかと思い、穴水町にできた「奥能登ベースキャンプ」へパンを持って行き、ボランティアの人たちに食べてもらいました。  穴水町の奥能登ベースキャンプ閉鎖後も、ボランティアの人たちの支援をしている「復興支援団体 能登ネスト」の東 哲也(ひがし・てつや)さんに紹介してもらい、輪島市の「日本航空学園・輪島ベースキャンプ」へ、パンを持って行きました。

「日本航空学園」の食堂にてボランティアの方へ販売(撮影:2024年11月17日)

 この時のご縁から、「日本航空学園・輪島ベースキャンプ」閉鎖後も、引き続き日本航空学園の食堂で生徒たちへパンの販売を行っております。  ボランティアの人たちとの出会いをきっかけに、私たちのパンを多くの人に食べてもらうことができました。

活気がある商店街にしたい!

 ベースキャンプなどを通して、全国から来てくれたボランティアの人たちと知り合いになりました。  ボランティアや復旧復興の作業などで能登半島を再び訪れてくれた方々が、パンを購入しにわざわざ寄ってくれるということもありました。震災がなければ繋がることのなかった人たちだと思うと、ご縁を感じます。

炊き出しだけではなく、店内外でボランティアの人と一緒にイベントもおこなった

 震災以前のように、穴水町や商店街を活気がある場所にしたいです! 私たちの力だけでは無理ですが、営業しているお店が少しずつ増え、人の往来がある商店街にできればと思っています。

穴水町唯一のパン屋さんとしてできることを

 工房に水や電気が通ったころ、「復興支援団体 能登ネスト」の東さんが「自分にできることを!」と、穴水町で自ら炊き出しを始める姿を目にしました。その様子に感化され、私は主人に「早くパン屋を再開させよう!」と声をかけました。  そして、営業再開の前日、東さんと一緒に炊き出しをおこない、パンやおにぎりを大勢の方にふるまいました。

営業再開の前日に行った炊き出しにて。中央に写る明美さんとボランティアのみなさん。そして、見る人が見たらわかる「復興支援団体 能登ネスト」東さんのお決まりポーズ

 店が再開してからは地元の人をはじめ、ボランティアで能登半島を訪れた人へ、パンを届けています。  穴水町の人たちだけではなく、全国各地から来たボランティアの人たちにも喜んでもらえるように、これからもおいしいパンを焼き続けます!

事業者プロフィール

Bakery H&M

代表者:橋本明美 所在地:石川県鳳珠郡穴水町川島イ-13-1

取材後記

 取材中、震災が起きたその瞬間のお話を聞きました。娘さんと一緒にご家族で車に乗っており、「のと里山海道」を運転中だったそうです。  一度目の地震で「これはまずい!」と感じ、車を止めた直後、2度目の強烈な揺れとともに道路の隆起や亀裂が入る様子を、目の前で見られました。  その後、高台にあるPAへ避難し、その場に集まった多くの方たちと一緒に、極寒のなかで一晩を過ごしました。燃やせるものは何でも燃やし暖を取ったというエピソードは、とても印象的でした。  壮絶な1日を過ごされたと思うと、言葉が何もでませんでした。  取材後、一番人気のカレーパンをはじめ、明美さんおすすめのパンもいただきました。ボランティアの人たちがお店に寄りたくなる気持ちがわかるほど、おいしかったです。  震災直後の話を含め、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました! お肉がゴロゴロ入った「Bakery H&M」さんのカレーパンを、また食べたいです。

堀 真由美(ほり・まゆみ、ライター・編集者) 

 大分県出身在住。   ローカル雑誌を発行する出版社を経て、さまざまな業種で広報中心の仕事をしてきました。現在は、大分の情報サイトの編集及びライター、イベントプロデュース、広報に関するアドバイスなどを行っています。

注目の記事