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珠洲に腰を据えて暮らし、働ける人材を求めて──食で能登の復興を支える“すずキッチン”

合同会社すずキッチン

更新日:2025年05月26日

美味しい食事とお弁当で、皆さんを笑顔にすること

 2025年5月現在、私、坂本信子(さかもと・のぶこ)は珠洲市の仮設商業施設「すずキッチン」の代表として、同じく珠洲市内で店舗が被害を受け営業再開できないメンバー3名と共同で、道の駅すずなりに隣接する仮設店舗でお弁当販売の「すずキッチン」と、「すずなり食堂」を運営しています。  令和6年能登半島地震以降、珠洲の復旧、復興と地域住民が日常を取り戻すために、「美味しい食事とお弁当で、皆さんを笑顔にすること」が自分の役割だと思っています。

2025年4月27日 古民家レストラン「典座」にて

メンバーそれぞれの店舗営業再開に向けて、「すずキッチン」を成功させること

 その役割を果たすために、まずは、自分も含めて「すずキッチン」のメンバーが、自店の営業を再開し、営業継続できるようになることが目標です。その目標達成のために、「すずキッチン」が十分な利益を上げられるように、運営を軌道に乗せ、成功させることに集中して取り組んでいます。  十分な利益を上げることが、メンバーの自店営業再開にもつながります。メニューなどの情報発信も十分にできておらず、人手不足のなか、外部の支援もいただきながら、メンバーで手分けして運営しています。 「すずキッチン」は2024年9月に開業しましたが、仮設店舗のため、行政との間で営業期限が2026年12月までと定められており、それまでの間に各メンバーは自店の営業再開準備を進めなければいけません。私も自店である古民家レストラン「典座」等の復旧を進めていますが、行政との取り決めにより、自店舗が営業再開すれば仮設店舗から撤退しなければいけないことになっています。  自分自身も含めて、「すずキッチン」メンバー全員が期限までに営業再開できる見通しが立っている訳ではありませんので、仮設店舗の期限延長も行政にお願いしなくてはいけなくなるかもしれません。仮に私が自店の営業を再開できる状況になった場合、「すずキッチン」をどうしていくか、本当に不安と悩みは尽きません。

大谷地区の「長橋食堂」をミニスーパーに

 大谷地区は令和6年能登半島地震で大きな被害を受け、水、電気、道路などの生活インフラの復旧に一番時間がかかった地域です。令和6年奥能登豪雨でも大きな被害を受け、まだまだ生活再建に向けて復旧途上ですが、大谷地区では唯一であったスーパーが震災で廃業し、食品や日用品の買い物をするお店がありませんでした。  高齢者の多い地元の方々や復旧工事関係者の強いニーズを受け、「すずキッチン」が運営主体になり、一般社団法人グリーンコープ共同体の開業・運営支援を得て、元々大谷地区にあった自店舗「長橋食堂」に併設する形で、ミニスーパー「みんなのスーパー長橋食堂」を開業しました(2025年5月1日から営業開始、5月7日グランドオープン)。

古民家レストラン「典座」の営業再開に向けて改装、ワークショップ、宿泊所の計画も

 同じく自店舗である古民家レストラン「典座」も、営業再開に向けて大きな土蔵をギャラリーに改装中です。2025年8月には左官職人を招いて、土蔵の土壁を作るワークショップを開催予定です。将来的には、建物全体を改装して、宿泊所にする計画も考えています。

古民家レストラン「典座」

珠洲に腰を据えて暮らし、働ける人を求む

 最大の課題は「人手不足」です。飲食業は、日々の調理や事務作業など、地味で小さな積み重ねが多く、派手さのない作業を継続的に地道にやる仕事です。そんなことがやりたいという方が本当にいるのかとも思いますが(笑) そういう方がいらっしゃれば、本当に助かります。  また、短期・単発のボランティアも大変ありがたいのですが、1日単位や数日の支援では、説明や段取りの繰り返しになり、受入側の準備や対応の負担が非常に大きくなります。 「すずキッチン」の運営や自店営業再開に向けて、やることが沢山あって、毎日本当に時間が足りない状況です。私自身も毎日「すずキッチン」の仕事で、早朝2時起きで対応しており、自分達だけで本業の合間に膨大な事務作業をこなすには時間も能力にも限界があると感じています。  能登の復興に向け、本来考えないといけないこと、やるべきことに使うはずの時間を、行政手続きや諸々の事務作業で使ってしまっている気がするんです。  そのため、今本当に求めているのは、珠洲に腰を据えて暮らし、1~2年という長期間にわたって、このような仕事を一緒にやってもらえるスタッフです。  そうやって来ていただく方々のための衣食住をしっかり整えることは私たちでしなければいけないのですが、この地に暮らしながら一緒に再建に取り組んでくれる人を心から歓迎したいです。具体的に求めている人材は以下の通りです。

1.店舗運営を支える長期スタッフ

「典座」、「長橋食堂」の営業再開に向けて、長期間にわたり、会社運営事務を担っていただけるスタッフを必要としています。行政への補助金・助成金などの申請書類の作成、相見積もりの手続きなどといった細かい煩雑な事務作業も多くあります。地味ですがコツコツ事務作業ができる方、珠洲に住んで働いてみたい方、是非ご連絡ください。

2.ミニスーパー「みんなのスーパー長橋食堂」の運営スタッフ

 ボランティアとして能登に滞在している後藤恵美さんに、短期のアルバイトスタッフとして店舗の管理・運営を担っていただいていますが、能登にいられるのが2025年11月までと決まっているため、12月以降の店舗管理・運営を担うスタッフを募集しています。具体的な業務は、商品の仕入れや売上管理、日々の店舗運営になります。

3.「典座」土蔵ギャラリーでの土壁づくりワークショップ、参加者募集!

 土蔵がすごく大きいので、ワークショップには多くの皆さんに参加いただき、「典座」に泊まって、皆で一緒に作業したいなと思っています。単発のイベントにはなりますが、10名程度の募集になる想定です。  2025年8月の予定なので、夏休みの学生の方々に来てもらえればと思っています。日程など詳細が固まり次第、あらためて募集のお知らせをいたします。

2025年4月27日 「典座」の土間の天井のつばめの巣

「すずキッチン」、「古民家レストラン典座」、「みんなのスーパー長橋食堂」について

「すずキッチン」   令和6年能登半島地震後、地元の飲食店が共同で、避難所にいらっしゃる方や工事関係者、支援者の方々のために、2024年3月中旬から8月までお弁当を作っていました。弁当作りをしていた飲食店のうちの4店が合同会社を設立、2024年9月に道の駅すずなりに隣接する仮設店舗で「すずキッチン」と「すずなり食堂」を開店・運営しています。 「すずキッチン」では、平日、土曜日の早朝5時から、朝早くから仕事に向かう工事業者の方々など向けに多彩なお弁当を販売しています。 「古民家レストラン典座」 「典座」は築180年以上の歴史を持つ江戸末期の古民家を活用したレストラン&ギャラリーで、能登の地元食材を生かしたお料理と、珠洲焼の窯「伏見窯」の器で人気を集めていたお店です。現在は休業中ですが、営業再開、土蔵ギャラリーの再生に向けて、取り組んでいます。 「みんなのスーパー長橋食堂」  令和6年能登半島地震後、休業していた「長橋食堂」の建物を活用し、2025年5月1日にミニスーパーとして開業しました。店内には、「すずキッチン」のお弁当や、飲料品、冷凍食品や日用品があり、食堂があったスペースはイートインスペースとなっていて、購入した商品を食べることができます。店舗の運営は、2024年2月から珠洲市でボランティアとして活動してきた後藤恵美さんが担っています。

事業者プロフィール

事業者

2025年4月27日 「典座」横の伏見窯前にて坂本さんご夫妻

すずキッチン

事業者名:合同会社すずキッチン 代表者:坂本信子 所在地:石川県珠洲市野々江町シの部15番地(道の駅すずなり敷地内) 営業時間:5時~15時 定休日:日曜日


古民家レストラン典座

所在地:石川県珠洲市三崎町伏見ワ23 ※休業中


みんなのスーパー長橋食堂

事業者名:合同会社すずキッチン 代表者:坂本信子 所在地:石川県珠洲市長橋町11-9-1 営業時間:7時~15時 定休日:日・月・火曜日

取材後記

「典座」にお邪魔して、坂本さんからお話をお伺いしました。震災から1年を迎えても、依然として先が見えない不安のなかで、現場で懸命に踏みとどまり、ご自身の「役割」を果そうと、日々の重責と向き合っている坂本さんのお姿が非常に印象的でした。  今回のインタビュー記事では、そのような坂本さんの想いや今必要とされているものが、少しでもありのままお伝えできればと思いながら、書かせていただきました。  坂本さんのお話にもありましたが、今後の能登、珠洲の復興のためには、店舗の物理的な再建や人手の確保だけではなく、地域に人を呼び込んで根付いてもらえるように、最も重要な「道路」に加え、「仕事」「病院」といった部分の復旧・復興も必要不可欠です。  能登復興のためには、震災で失ったものばかりでなく、残った良いものに目を向けて活かしながら、それぞれがそれぞれの役割を淡々と粛々と地道に果たしていくしかないのだ、ということを、あらためて気付かせていただきました。

福井正洋(ふくい・まさひろ、会社員)

本業のかたわらプロボノライターをしています。奈良県出身、東京都在住で北陸とは地縁はありませんでしたが、2024年6月まで2年間、単身赴任で金沢に住んでいた際、令和6年能登半島地震が発生し、これもご縁と思い、折を見て能登の復興活動に参加してきました。今後もシロシル能登を活用して“関わりシロ”を見つけて活動していきます。

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