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観光客の憩いと地元住民の日常の拠り所“珠洲ビーチホテル”

珠洲鉢ヶ崎ホテル株式会社

更新日:2025年4月30日

観光客と地元住民がまた利用できるように

 これまで、35室ある客室は、夏には海水浴を楽しむ観光客で満室が続くほど好評でした。実は2024年1月1日の地震より前、2023年5月5日の地震でホテル入口前のスロープが崩れるなどの被害があり、修復し終えてすぐに2024年の地震がきたのです。  2025年4月の今でも、客室の修理はおろか、ホテルにどの程度の被害があるのかすら把握できていません。そのため、設備や人員等、最低限の安全を確保したうえで、運営を行っています。今は復興に関わる人のみを受け入れており、一般客の受け入れは目途がたっていない状況が続いています。  今後の目標は、通常営業(一般客を受け入れられるよう)になること。それは、観光客の宿泊だけではなく、ホテルのジムを利用していた地元民や、授業でプールを使っていた児童たちの受け入れも含みます。  目前の目標としては、多くの人に今の能登を知ってもらうことだと考えています。最近、通常営業していると思った一般の方から宿泊の問い合わせが来ることもあり、まだまだ現状を知ってもらう機会が少ないのだなと感じています。復興途中であることをもっと広く知ってもらいたいです。

タイルのはがれた浴室(2025年4月撮影)

「今」を乗り越えるために精一杯生きる

2023年5月の地震以来、利用できないままのプール

 2023年の地震の影響でプールの水をすべて抜いていたことで、2024年の地震による被害を抑えることができたのかもしれません。2024年の地震発生当時は、宿泊されていたお客様方のチェックアウトが済み、次のお客様方がチェックインされる前の時間帯だったので、館内にいるお客様の数は多くなかったです。珠洲ビーチホテルは津波発生時の避難場所に指定されてていたため、地震発生後、地域の人が避難されてきました。

震災直後のレストランの様子

 毎年避難訓練を行うなど万が一の事態に備えていたつもりではいましたが、ここまで大きな規模の災害は想定外。  地震発生後、全国から緊急派遣されてきた行政関連団体や生活インフラの復旧復興を担う事業者の活動拠点となったため、避難してきた地域の皆さんには別の避難所にすぐに移動してもらいました。

天井が抜けたジム(2025年4月撮影)

 7階プールの下には、ジムがあります。ここは観光客だけでなく地元の人に愛されていた施設です。珠洲ビーチホテルの近郊には病院があり、医師から定期的な運動を勧められた人がジムやプールを利用していることも多く、さらに全面ガラス張りのスタジオではヨガなどのレッスンも行われていました。また、夏は地元小学校のプールの授業にも使われるなど、地元の人の日常に溶け込んでいる場所でした。

準備が進められていたプライベートサウナも工事途中のまま(2025年4月撮影)

 震災の数年前から珠洲ビーチホテルの新たな施策として、プライベートサウナの新設や、ワーケーション用にシェアキッチンを作るといった準備をスタートしたところでした。周知もこれから……というタイミングでの地震により、実現の目途もたっていません。  そもそも通常営業を再スタートさせ、一般観光客を受け入れるためには、館内すべての破損状況を調べ、修繕が必要な箇所を洗い出さなければいけません。今は復興に関わる方たちに利用して頂いているので、被害の把握が難しい状況です。とにかく「今」の現状維持が精一杯な状態が続いています。

外壁に亀裂が入った珠洲ビーチホテル(2025年4月撮影)

将来は人材不足が課題になる見通し

鉢ヶ崎海水浴場を見つめる総支配人の杉浦さん

 現在は最小限の人数で運営しています。しかし本格的に営業を再開するとなると、人材不足が課題になると思っています。しかしホテル運営には独特なオペレーションがあるため、活動期間が限られる短期のボランティアさんなどでは回せないのが現実です。それぞれのセクションのスペシャリストを育てるだけでなく、ホテル全体の運営を任せられるリーダー的なポジションの人材がいないと、これだけの規模のホテルは運営できません。  今は、目の前の運営に精一杯ですが、長く働ける人や全体を統括できる人材を見つけることが今後の悩みになると思っています。

珠洲市唯一のリゾートホテル

 珠洲ビーチホテルは、1995年に珠洲市蛸島町の松林だった場所で開業した、珠洲市で初めてのリゾートホテルです。眼前に広がる鉢ヶ崎海水浴場は「日本の渚百選」にも選ばれた遠浅のビーチで、その透明度は最大20メートルに至ります。 ※2025年5月現在は、復興に関わる方のみ宿泊頂いております。能登復興の支援で珠洲に来られる方は、ぜひご利用下さい。

事業者プロフィール

珠洲鉢ヶ崎ホテル株式会社

代表者:代表取締役 泉谷 満寿裕 総支配人:杉浦俊彦 所在地:石川県珠洲市蛸島町

取材後記

 今回初めて珠洲市を訪れました。ホテルでは大浴場だけでなく客室からも海が一望でき、ここだけを切り取ってみると普通のレジャーを楽しんでいるかのよう。しかし、ホテルのあちらこちらにはまだ手つかずの場所があり、復旧までの道のりの長さを感じました。  総支配人・杉浦さんの「なにもかもすぐに決断しなければいけないことが多く、そのときの決断が正解だったのかは何年も先にならないとわからない」という言葉が印象に残っています。震災直後から支援団体を受け入れに対応し、常に状況が変わり新しい決断が必要になる連続……。相当のプレッシャーだったと思います。

丸山希(まるやま・のぞみ)

広島県広島市在住。商業ライター。Webを中心に雑誌や書籍にも携わる。自身も広島豪雨災害の被災者であることから、風化させない取り組みにも積極的に参加している。

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