
『お祭り男』に届け! 「この町で最後の床屋になってもいい」4代目理容師の挑戦“ヘアーサロン HEISHI”
ヘアーサロン HEISHI
更新日:2025年7月1日
「地元の人が髪を切れない状況だけは作りたくなかった」

仮設店舗で2025年1月から再出発した「ヘアーサロン HEISHI」=珠洲市正院町地区仮設商店街内(撮影:野上英文)

震災で全壊判定を受けた店での臨時営業の様子(本人提供)
100年以上続く床屋「レールは敷かれていたけど…」

100年以上続く「ヘアーサロン HEISHI」の仮設店舗に掲げた看板(撮影:野上英文)

店舗内に置かれた能登半島地震の報道写真集(撮影:野上英文)
家族は金沢へ。釣り好き、二足のわらじを夢見る

「ヘアーサロン HEISHI」の瓶子明人さん(撮影:野上英文)

震災前、瓶子明人さんは所有の船で仲間と釣りによく出かけた(本人提供)
歓迎! 『お祭り男』宮川大輔さん。正院町の未来へ

「ヘアーサロン HEISHI」の瓶子明人さん(撮影:野上英文)

珠洲市正院町で催されるキリコ祭り(本人提供)

祭りで胴上げされる瓶子明人さん(本人提供)

地域対抗の運動会(本人提供)
具体的に必要な支援
町づくり活動の支援(外部からも歓迎)
釣り関連の支援
理容業の持続可能な展開

「ヘアーサロン HEISHI」の散髪用具(撮影:野上英文)
若い人への期待「このまちの最後の床屋になってもいい」

インタビューは閉店後。掃除をする瓶子明人さん(撮影:野上英文)

能登復興の思いが記されたのぼり(撮影:野上英文)

「ヘアーサロン HEISHI」の入り口に立つ瓶子明人さん(撮影:野上英文)
事業者プロフィール
ヘアーサロン HEISHI
代表者:瓶子明人(4代目) 所在地:石川県珠洲市正院町正院18-351(珠洲市正院町地区仮設商店街内) 電話番号:0768-82-0857 再建目標:仮設店舗利用期間(3年以内)に店舗の再建を目指す
取材後記
「助けて」と言わない被災者に関わる 「カスハラ」(カスタマーハラスメント)という言葉が流行しています。「期待通りに何かをしてくれない」ことに腹を立てがちな風潮からくるものです。 一方、瓶子さんは、困っていても「助けて」と言うのが苦手なタイプだと打ち明けます。「能登の人たち、みんなそうでは?」という話にも。 この二つの世界、どちらも現実。どこで切り離されているのでしょうか? いまは家族と離れて暮らしながら、「この町の最後の床屋になってもいい」と語る瓶子さん。この地の復興はいま、こうした地域と自分を同等に考えられる人たちで、なんとか持ちこたえているようにも映りました。 この記事を書いている「シロシル」が、よくある取材と大きく違うのは、「関わりシロ」(具体的支援)をじっくりと聞き出すこと。それが瓶子さん相手に正直、とても難しかったです。 それだけにインタビューの終盤にポツリと語った「釣りをまたやりたい」は本音です。なんとか叶えられないものか、と強く思いました。 祭りへの思いも一緒。声を決して大にしては言わない人たちに、それでも「関わっていく」ことが求められている能登の復興です。お祭り男・宮川大輔さん、番組スタッフの皆さん。ぜひ、お待ちしています!(野上英文) 高校生の取材同行記 瓶子さんと父は40代前半で変わらない年代ですが、「地域で最年少の理容師」ということにまず、驚きました。そんな瓶子さんが地震直後に「髪を切りたい」という地域のみなさんの声を受けて、家が壊れるなか応えていった話。外からは知り得なかった話でした。 祭りへの思いも印象的でした。「正院の人は祭りのために動き、祭りには必ず帰ってくる」という言葉。物理的な復興だけでなく、地域の文化や思いを守ることの大切さを学びました。 一方、話ぶりからは厳しさも同時に伝わってきました。仮設店舗での営業自体には支障がないようにも見えましたが、仮設住宅との往復や3年という限られた再建期間から、これからの険しい道のりを感じます。同行取材を通じて、ニュースからだけでは伝わらない復興の現実を肌で感じました。 地元の人たちだけではなく、移住してきた人やほかの地域の人々も地域づくりに参加できる機会が必要ではないか──。瓶子さんの考えに同感です。なにより「人が復興のキー」だと思います。(高校2年生、野上文大朗)

野上英文(のがみ・ひでふみ、ジャーナリスト)、野上文大朗(のがみ・ぶんたろう、高校生)
野上英文 神戸出身、中学2年生で被災。2003年に朝日新聞社入社、初任地の金沢では連載『石川と阪神淡路大震災』『能登球児は、いま』などを企画・執筆した。新潟中越地震や3.11、インドネシア・スラウェシ島地震などで災害報道に携わる。2023年にユーザベースに参画、編集者・パーソナリティとして活動し、25年にはNewsPicks防災部を有志で立ち上げて減災・防災の情報発信(https://newspicks.com/topics/nogami/)をしている。著書に『戦略的ビジネス文章術』(https://amzn.asia/d/gH7QaQd)『プロメテウスの罠4』ほか。 野上文大朗 2008年、大阪生まれ。転勤族の親と幼少期から国内外で9回の転居をしてきた。現在は関東地方の高校2年生で、Junior Red Cross (青少年赤十字)の活動にも携わる。趣味はプログラミングと動画撮影。一眼レフカメラを手に能登の復興取材に同行した。