
娘にダンスを、英会話教室を──美容師が傾聴する子育て世代の小さな声“TORANI HAIR”
美容室TORANI HAIR(トラーニヘア)
更新日:2025年5月26日
「魚影を追って能登半島へ」たどり着いた理想郷

TORANIのすぐすぐそばに広がる海(TORANI HAIRのInstagramより 撮影:吉井謙太)

珠洲で「TORANI HAIR」を営む美容師の吉井謙太さん(撮影:野上英文)
「想定外の客層。でも、手応えあり」 金沢との違い

TORANI HAIRのスタイリングチェアは海を眺める1席だけだ(店のInstagramから)

TORANI HAIRの店内(撮影:野上英文)
全壊判定「ここでもう1回やるのは難しいかな」

震災から1年あまりの歩みを振り返る美容師の吉井謙太さん(撮影:野上英文)
「髪を整えるのは、日常に戻ること」 美容業とは

TORANI HAIRのスタイリングチェア背面にあるカラーリングの材料(撮影:野上英文)

吉井謙太さん(撮影:野上英文)
「声なき声をすくい取る窓口に」 地域のハブとして

吉井謙太さんがヘアカットに使うハサミ(撮影:野上英文)

店が、地域のためになれるのではないかと語ってくれた吉井謙太さん(撮影:野上英文)
過疎地で埋もれる「子育て世代が求めていること」
具体的に必要な支援
「午前は海、午後は仕事」理想のライフスタイルへ

TORANI HAIRの書棚ラック。魚釣りの本も並ぶ(撮影:野上英文)

美容室「TORANI HAIR」を営む美容師の吉井謙太さん(撮影:野上英文)
事業者プロフィール
取材後記
私は日々の仕事が忙しいとき、地下鉄の駅改札そばにある「格安ヘアカット」(いまは1300円程度)を利用することがある。従来のヘアカット店が座席数に制約されてスケールアップできない課題に対し、そこではカット専門に特化して、1人あたり10分程度の高回転オペレーションを実現。「座席数が少なくても売上アップを成し遂げた」と、ビジネススクールでは習った。 格安カットの店内では、会話はほとんどない。髪を切る方も、切られる方も「無駄なこと」だと捉えているからだ。 そんなビジネスとは真逆のことを珠洲の「TORANI HAIR」はやっている。美容師は1人、座席も1つ。座って見える海のせせらぎも、流れている時間も、せわしなさや効率性とは無縁だ。訪れる顧客は、家や職場と別の「第3の場所」(サードプレイス)として、ここでの時間を楽しみにしている。 店から一歩出れば、過疎地の珠洲であっても「多数派」の声に重きが置かれがちだ。ただ、吉井謙太さんが語った「少ないけれど、確実にいる」若い世代の声こそが、地域の将来を担っている。長く続く復興。この店で交わされる何気ない会話が、明るい話題で包まれることを願わずにはいられない。

野上英文(ジャーナリスト)
神戸出身、中学2年生で被災。2003年に朝日新聞社入社、初任地の金沢では連載『石川と阪神淡路大震災』『能登球児は、いま』などを企画・執筆した。新潟中越地震や3.11、インドネシア・スラウェシ島地震などで災害報道に携わる。2023年にユーザベースに参画、編集者・パーソナリティとして活動し、25年にはNewsPicks防災部を有志で立ち上げて減災・防災の情報発信(https://newspicks.com/topics/nogami/)をしている。著書に『戦略的ビジネス文章術』『プロメテウスの罠4』ほか。