
「炭に宿る300年の魂」地震で消えた火と窯を再び灯す 茶道用の炭焼き職人 “ノトハハソ”
株式会社ノトハハソ
更新日:2025年6月4日
「命がつながる地域」を炭焼きで実現する

大野長一郎さんが製造販売している茶道専用炭(ノトハハソのWebサイトから)

茶道用の炭の材料となるクヌギの木(撮影:野上英文)

パソコンにスライドを映しながら取材に応える大野長一郎さん(撮影:野上英文)
カーボンニュートラルを達成した小さな集落

茶道用木炭の出荷用段ボールに待機中のCO2「−61.7t」を示すラベル(撮影:野上文大朗)

大野長一郎さんが里山で進めるクヌギの植林(ノトハハソのWebサイトから))

環境省によるクヌギ地植林地の「自然共生サイト」認定書(撮影:野上英文)
日本一、世界一の菊炭やき職人を一緒に目指そう

地震で崩れた炭焼き用の窯(撮影:野上英文)

地震で天井が崩れて無くなった炭焼きの窯。大野長一郎さんは再建を目指す(撮影:野上英文)
300年続いた火が消え、「炭の魂」から再生へ

ノトハハソの事務所に置かれた火鉢(撮影:野上英文)

ノトハハソの窯工場にある神棚に「復興」の2文字(撮影:野上英文)

地震で崩壊した窯の前に立つノトハハソの大野長一郎さん(撮影:野上英文)
事業者プロフィール
株式会社ノトハハソ
代表者:大野長一郎 所在地:石川県珠洲市東山中町(現在は移転準備中) 創業:1971年(2021年法人化) 事業内容:茶道用炭「茶炭・菊炭」の製造・販売、クヌギ植林活動、環境保全型事業
取材後記
山間部にあるノトハハソを訪ねた。工場の入口にある事務所で迎えてくれた大野長一郎さんは、迷彩服にタオルでハチマキ姿。“現場感”あふれる姿だが、インタビューではPC画面を横になめらかなプレゼンをしてくれた。 茶道用の炭焼き職人、大損害を受けた窯の解体と再建へ──。そんな「伝統産業の危機」という“紋切り型”の取材になりかねなかったが、予想は良い意味で裏切られた。 「プレミアムを超えた差別化」「生物多様性」「CO2削減とカーボンニュートラル」……。どれも世界の潮流を捉えた挑戦ばかりだ。 それでいて、革新さだけを追っているわけでもない。「火熾し神事」や「地域コミュニティ」といった伝統への思いも、同じ熱量で語っていく。大野さんは同世代だが、昭和と平成、令和が同居した「ハイブリッド人材」と言うべきか。いずれにしても、地域の新しいリーダーの姿を感じた。 収入ゼロは、その言葉以上に苦しい状況だ。それでも「立ち止まったらおしまい」と言わんばかりに、大野さんは魂を込めて次の一歩を踏み出す。

野上英文(ジャーナリスト)
神戸出身、中学2年生で被災。2003年に朝日新聞社入社、初任地の金沢では連載『石川と阪神淡路大震災』『能登球児は、いま』などを企画・執筆した。新潟中越地震や3.11、インドネシア・スラウェシ島地震などで災害報道に携わる。2023年にユーザベースに参画、編集者・パーソナリティとして活動し、25年にはNewsPicks防災部を有志で立ち上げて減災・防災の情報発信をしている。著書に『戦略的ビジネス文章術』『プロメテウスの罠4』ほか。