
姫路と能登、地域の未来を支え合う、祭による復興を模索する“黒島支援隊”
黒島支援隊
更新日:2025年6月18日
「黒島天領祭」の完全復活を目指して
毎年8月17、18日に輪島市黒島地区の黒島若宮八幡神社で開催される「黒島天領祭」で練り歩くみこし。震災で大破してしまったみこしを、兵庫県姫路市の大祭「灘のけんか祭り」に長年携わる宮大工の工房で修復することができました。
私、稲垣智美(いながき・ともみ)が2代目代表を務める黒島支援隊は、2025年の黒島天領祭に向けて動き始めています。そして、これからも祭を続けていくために、黒島地区の文化と生活を今後も残していくために、祭を通した地域交流を目指します。
地区の魂「みこし」を修復
かつて北前船の拠点として栄え、江戸幕府の天領(直轄地)だったことにちなみ、毎年8月17、18日に黒島若宮八幡神社で開かれる「黒島天領祭」。獅子舞を先頭に、みこしと総輪島塗・金箔仕上げの曳山(ひきやま)2基が、太鼓や笛の音と共に練り歩く。黒島地区は熱気に包まれます。
しかし、280年以上前の江戸時代に作られたとされる黒島地区の魂であるみこしが、能登半島地震でみこしを保管していた建物ごと押しつぶされ大破。ばらばらになった部材を目にした地区の人たちは修復を諦めてしまっていました。
そこに“黒島支援隊”が到着しました。黒島地区出身の女性が、兵庫県姫路市にある尼寺・臨済宗妙心寺派不徹寺(ふてつじ)に集まる女性たちに声をかけて立ち上げたグループです。
みこしの状況を見た不徹寺の住職・松山照紀(まつやま・しょうき)さんが、昔なじみの宮大工・福田(ふくだ)棟梁に連絡しました。
姫路市の松原八幡神社の秋季例大祭「灘のけんか祭り」はみこしをぶつけ合い、竹槍で突く激しい祭。長年その屋台などを手がけたり修復したりしてきた福田さんでも、初めて被災みこしを見たときはぼう然としたそう。
それでも、8ヶ月をかけて修復してくれました。黒島のみこしは装飾が細かく、壊れた部材は最小で2cm角。交換用の部材を探し出し、ときには作り直し、「普段とまったくレベルが違う難しさ」の作業が続いたそうです。2025年のお正月が明けて、最後の工程に入ってからは休みなしで作業をしてくれました。

兵庫県姫路市の福喜建設にて、修復完了(撮影:2025年2月)
2025年2月にみこしが完成してすぐ、黒島地区の人たちと工房を訪れました。皆さん笑顔でしたよ。でも、なんだかよそよそしくて。きっと黒島に戻ってきて初めてみこしが復活したことが実感できるのだろうなと思います。
今は修復された「復興みこし」が揃った黒島天領祭の開催準備を進めています。
黒島天領祭への参加を大歓迎!
2025年8月の黒島天領祭の完全復活を目指しています。各催事への参加はもちろん大歓迎! クラウドファンディングも準備中です。

震災後、2024年8月の黒島天領祭に向けて曳山を飾り付けて準備を進める、黒島地区・ボランティアの皆さん
黒島天領祭 2025年のスケジュール
7/30 みこしが黒島に到着
7/31 神渡しの儀式 場所:黒島若宮八幡神社
みこしを姫路市から黒島地区へ返す儀式をします
8/10ごろ 祭の準備を開始
祭典実行委員会がボランティアを募集予定
作業は、曳山を磨く、飾りつけなど
8/17、18 黒島天領祭
能登半島地震支援報告会(7/1開催)
初の東京での講演会を開催します。「駆け込み寺の庵主さん」で知られる不徹寺の住職・松山照紀と黒島支援隊代表・稲垣智美のチャリティー講演会です。
第一部は、能登半島地震後の黒島地域における支援活動報告、第二部は、「死に支度、できていますか?」と題した、松山住職による命と向き合うための静かな問いかけの時間となっています。
【開催情報】
日時:2025年7月1日(火)
場所:東京都江東区深川江戸資料館 2F小劇場
時間:13:00〜15:00(受付12:30)
入場料:3,000円(実費以外は支援金として寄付)
チケットの購入先:https://peatix.com/event/4414186
開かれた祭、選ばれる祭に変えていく
黒島支援隊は、地域超密着のグループとして活動してきました。せっかくできた黒島地区と姫路市のご縁です。黒島天領祭後からは、祭を軸とした地域創生を目指す一般社団法人を立ち上げる予定です。
黒島支援隊の活動を通して、これからの能登のためには「開かれた祭」が必要だと感じました。祭を、自分たちこの地域で生まれた人間だけでやりたいという切なる願いはどの地域も持っています。でも、どの県も、どの町も、おそらくもう無理がきているんです。姫路市の「灘のけんか祭り」も毎年10月に熱く盛り上がりますが、祭のために帰省する人がいないと成り立たなくなっています。その次の世代や孫世代でも、今後も開催を継続できるのかといえば、おそらくできません。ならば、地域の外の人たちが参加しようと思える「選ばれる祭」にし、これからも続けられる方法を探そうと思います。
姫路市の皆さんにみこしと一緒に黒島地区に来てもらって「いいな」と思ってもらいたいし、黒島の皆さんにも姫路の良さを知ってもらいたい。そして、お互いの祭を手伝えるくらいの関係性を作っていければいいなと思っています。
まずは、祭の準備だったり、町づくりだったり、みんなが集まる拠点を作ります。ゲストハウス黒島の隣の民家をそのために修繕中です。地域のサードプレイスとして、訪れた人には祭の文化を紹介する家にしていきたいです。そのための資金や人手も募集することになるでしょう。
能登はこれからの10年が勝負になると思います。地元にいる自分たちだけで、文化や技術を握り込んでしまうと未来に向けて残せなくなってしまう。離れた地域の人たちとも支え合いながら、文化を残し地域を作っていく。人と地域を結ぶ活動をこれからも続けようと思っています。
「黒島支援隊」について
黒島地区出身の初代代表が、兵庫県姫路市にある尼寺・臨済宗妙心寺派不徹寺に集まる女性たちに声をかけて立ち上げた支援グループ。輪島市門前町黒島町で顔が見える距離で活動。月2便、支援物資や制作した新聞の配布、公民館などでサロンを開催。2代目代表稲垣智美は不徹寺住職の秘書も兼ねる。
事業者プロフィール
取材後記
能登半島では、1年中どこかで祭が行われているそうです。祭のために能登に帰ってくる、祭のために1年を過ごすという言葉が聞かれるほど、祭への情熱を感じました。 輪島市黒島地区は重要伝統的建造物保存地区にもなっており、北前船で栄えた町並みが残されています。祭が始まると、みこしを迎えるため各家が解放されるのだとか。住宅自体、町自体が祭ありきの造りになっているようにも思います。黒島地区らしい町並みを守っていくことにも、祭の熱気が欠かせないものなのでしょう。

宮下幸子(みやした・さちこ)
福井県出身、富山県在住。タウン情報誌の編集アシスタントを経て、現在フリーライター。北陸3県のグルメ(特にカレー)、子どもの遊び場に現れます。娘と方言「なんなん」練習中。