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若者が地元で挑戦するという選択肢をーー珠洲出身の学生起業家”株式会社ABOBORA”

株式会社ABOBORA

更新日:2025年4月16日

故郷と関わり続けるために、起業という選択を

 株式会社|ABOBORA《あぼぼら》は、|珠洲《すず》市在住の高校3年生(2020年当時)、浦 純華(うら・あやか)さんと國永 美海(くになが・みなみ)さんが、5日間の起業家育成プログラムに参加したことをきっかけに誕生しました。  能登の先端・珠洲市出身の浦さんと國永さんは、親同士が同級生という縁もあり、3歳からの友人でした。自然豊かな珠洲市の“集落”で暮らすなかで日々、地元の美しさに触れるとともに、“過疎化”や“少子高齢化”の波も実感する日常を過ごしていたといいます。  二人に転機が訪れたのは、高校3年生の夏のことです。本社機能の一部を珠洲市へ移転してきた、医薬品などを扱う「アステナホールディングス株式会社」が、二人の通っていた石川県立飯田高等学校と共同で「アントレプレナーシップ・インターン」プログラムを開催しました。(※同プログラムは現在も開催中)  https://www.astena-hd.com/media/news/a50  大学に進学するには“故郷=珠洲”を離れるしかない、けれど、愛する珠洲と関わりを持ち続けたい――そう考えていた二人は、「若者が自ら働く場所を作り、好きな能登地域に住み続けることを主体的に選択できることを支援する」という理念に共感し、受験勉強も佳境であった高校3年生の夏休み、プログラムに飛び込みます。

株式会社ABOBORA とは?

日焼けしたカボチャとの出会い

 全5日間をかけて、地域の課題を探り、事業計画を立て、最終日に出資者へ提案する、という内容の同プログラム。地域課題を探すなかで二人が注目したのは、國永さんが知り合いの畑でアルバイトしていたときに目にした「日焼けしたカボチャ」でした。
 「味は同じなのに、色が悪いだけで出荷できない」という理由で、日に焼けたカボチャが畑に放置されていたそうです。二人は「こういったフードロスを身近なところから解決したい」と、“規格外野菜の活用”を軸に事業計画を立てます。そして、プログラム終了後もメンターとのやりとりを続け、浦さんは大阪へ、國永さんは北海道へと進学した2022年4月、「株式会社ABOBORA」を起業しました。

社名の「ABOBORA」は、ポルトガル語で“カボチャ”という意味だそうです

ABOBORAの事業は、大きく二本の柱で展開されています。

規格外野菜を活かす食品加工事業

 まずは、規格外野菜を加工して卸す食品加工事業です。珠洲市で栽培されている「とうや」という品種のジャガイモを、規格外品を中心にフライドポテトに加工して卸販売をしていました。 ただし、こちらは能登半島地震の影響で、農家さんの廃業や移転、委託先・販売先の休業などが相次ぎ、現在は事業を停止しています。

カボチャ種子オイルを使った化粧品事業

 現在も続く主力事業が、起業のきっかけであり、社名の由来にもなった“カボチャ”を活用した、化粧品事業です。  珠洲市には「えびすカボチャ」という名産のカボチャがあります。しかしカボチャは、食品として加工される際に、中央部分にある種が廃棄されてしまいます。  そこで浦さん、國永さんが注目したのが化粧品でした。一部の化粧品の成分には、カボチャの種子から抽出したオイルが使用されることがあります。地元で化粧品の研究・開発を行う企業と協力して、珠洲産のえびすカボチャの種子を調べてみたところ、種子からオイルを抽出することができ、さらに、美容に効果を持つ成分も確認できました。
 ABOBORAは、廃棄してしまうカボチャの種子などを原料に、爪をケアするための「ネイルオイル」を開発しました。これが、現在のABOBORAの主力商品となっています。

故郷を失くさないために

 ここからは、浦さんの身の回りや、ABOBORAの事業に対する能登半島地震の影響と、復興に向けた取り組み・困りごとなどについてご紹介します。

“ひと”も“もの”も元通りにはならないけれど……

 2024年1月1日に起こった能登半島地震で珠洲市飯田町にある國永さんの自宅は全壊。浦さんの家も地震でダメージを受け、さらに、2024年9月の豪雨被害による土砂崩れで倒壊しました。街の中心部から集落に至る道路も分断され、一時はニュースに映るヘリからの映像でしか、故郷を確認できなかったといいます。

浦さんが撮影した被災地(飯田町)の写真(2024年)です

 2025年3月現在、「ようやく土砂が片付いてきた」という故郷について、浦さんは「“ひと”も“もの”も元通りにはならないけれど、『珠洲市にいたい、故郷に暮らしたい』という人が珠洲で暮らせるようになることが目標です」と教えてくれました。  震災を経て、浦さんのご家族は一時、大阪に避難して暮らしていました。しかし、どれだけ不便でも、故郷・珠洲に住みたいと、現在は珠洲市の市街地にある仮設住宅に戻っています。水道の再整備が整わず、シャワーやトイレといった設備が不自由という状況でも珠洲を離れない知り合いもいらっしゃるそうです。

土砂が崩れた山(飯田町・2024年)

起業の原動力ともなった“故郷と関わりを持ち続ける”という目標は、“故郷を失くさない”という、より強い思いに変化しました。そして浦さんは今、故郷を失くさないために、「能登出身の若者コミュニティ・NOTORN(ノータン)」に参加し、被災した若者に向けたヒアリング活動や、能登の関係人口を増やす活動に取り組んでいます。

“あなた”の関わりしろ

 最後に、浦さんに、この記事を読んでくださっている“あなた”と、浦さん、ABOBORAの関わりしろについて聞いてみました。  関わりしろの一つめは、ABOBORAの商品である「V.E.G.ネイルオイル」です。幸い、商品は被災による損壊は免れましたが、地元の小売店といった従来の販路が閉ざされてしまい、在庫を抱えた状態になっています。 「取り扱ってくれるサロンさんやショップさん、ポップアップなどで販売させてくれるイベントなどがあれば、ぜひお声がけください!」

ポップアップ・イベントでの「V.E.G.ネイルオイル」販売イメージ

V.E.G.ネイルオイルは、以下のECサイトでも購入することができます。
 もう一つの関わりしろは、「浦さんによるトークイベント」です。 「私は、地方出身の若者として、故郷に関わり続けるために“起業”という挑戦をしました。この経験をもとに、学生起業や、地方出身の若者による起業についてのお話ができると思います。あとは、愛する故郷である『珠洲』について知ってもらえるようなお話もしたいです! イベントにネイルオイルを持っていくこともできます!」

大学受験のために訪れた大阪で、あまりの高さに驚いたという思い出のビル「あべのハルカス」にて

 もし、「V.E.G.ネイルオイル」の販売や、浦さんによる起業や珠洲についてのお話を聞いてみたい方は、以下にある株式会社ABOBORAのメールまたはInstagram、もしくはシロシル能登までご連絡ください。

事業者プロフィール

株式会社ABOBORA

代表者 :國永 美海(代表取締役) 所在地 :石川県珠洲市飯田町

取材後記

 今回は、能登半島の先端・珠洲市出身の学生起業家、浦さんにインタビューをさせていただきました。お話を伺うなかで印象的だった点が二つあります。  一つは、故郷の集落で過ごすなかで、幼い頃からぼんやりと「過疎・少子化」の波を感じていた、という点です。子どもながらに感じる「故郷の未来に対する不安」を想像して、都市部への一極集中ではない多様な日本のあり方について考えています。  もう一つは、「故郷と関わりを持ち続けるために起業した」という、その動機です。起業と聞くと、成り上がる手段や社会課題の解決、といった出発点が思い浮かぶのですが、ABOBORA起業の原点である「若者✕地方✕起業」という視点は、自分にとって新しいもので興味深かったです。  それでは、最後までご覧くださりありがとうございました!

増田ひろ

大阪大学大学院言語文化研究科博士前期課程。阿倍野区まちづくりセンター地域まちづくり支援員。社会教育士。その他、フリーランスのライターや講師、イベント企画など、社会的・公益的な分野で活動しています。大学院ではパンク、ヒップホップといった音楽文化と社会の関わりについて研究しています。

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