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海と生きる。昨日よりおいしい塩を作る〝珠洲製塩〟

株式会社珠洲製塩

更新日:2025年4月18日

塩街道の復活、伝統の塩づくりを次代へ

 500年以上前から続く揚げ浜式製塩法(汲みあげた海水を塩田にまき、天日干ししたものに海水を加えてできた「かん水」を釜で煮詰めて塩を作る)を次代へつなげるべく、80代の社長と2人で塩づくりに取り組んでいます。  発災前、珠洲製塩がある珠洲市の大谷地区周辺は、国道249号線に沿うように複数の製塩所が点在し、「塩街道」と呼ばれていました。塩街道では、夏になると浜士(はまじ)と呼ばれる職人たちが塩田に海水をまく光景が見られました。  奥能登の風物詩でもある、あの光景をもう一度見たい、揚げ浜式を次代に伝え残すために塩街道を復活させたい。それが私たち珠洲製塩の願いであり、目標です。

珠洲製塩の塩田は震災・豪雨の被害を免れ、 例年通り4月中旬以降、揚げ浜式の塩づくりが始まる。

80代の社長と2人で塩づくりに取り組む、真酒谷淳志さん。

「昨日よりおいしい塩」を作り続ける

 大谷地区周辺の製塩所のほとんどが震災と豪雨の影響で休業、市外への避難を余儀なくされました。塩街道が復活するには従業員の住まいの確保やインフラ整備が大前提で、それには時間がかかります。  塩づくりを再開させたものの避難先に留まり、そこで仕上げのゴミとりや袋詰め、販売などを行っている事業者さんも今なおいらっしゃいます。  そのようななか、当社は壊れた設備を修理し、いち早く塩づくりを再開できました。さらに、多くのメディアに取り上げてもらったおかげで、全国から注文が殺到。以前、観光バスで珠洲製塩に立ち寄った方が被災した当社を心配して車でかけつけ、塩を買っていってくれたりもしました。 「やっぱり、ここの塩じゃないとダメだ」  お客さんからいただいた声が励みとなると同時に、揚げ浜式製塩を絶やすことなく「昨日よりおいしい塩を作り続けること」が塩街道の復活につながると確信。今日も、社長と2人で奥能登の自然と向き合い、塩を作り続けています。

能登の里海と人の手で作られた天然塩。海水ミネラルを飽和状態に含有されている。

廃材の運搬ができる人、求む‼

揚げ浜式製塩法は国の重要無形民俗文化財の指定を受けています。そのため、揚げ浜式の塩づくりを続けるには、「薪で炊く」ということが絶対必要条件なのです。  震災前は、土木建設関係の業者さんから解体した建物の廃材をいただき、燃料を確保できていました。  震災後は公費解体が激増したのですが、仮置き場に置かれている廃材は国の所有物となり、そのほとんどが隣県で処分されます。仮置き場に置かれる前にもらいにいけば、その廃材は家主のものですから、いただけるのですが、公費解体を請け負うボランティアの方のほとんどは普通免許しか持っていません。  そのため、私どもを含め、薪を燃料として使っている事業者さんは廃材の確保に苦慮しています。仮置き場に置かれる前に廃材を引き取り、トラックでこちらまで運んでくれる方がいると燃料不足の問題が改善されると思います。

駐車場には大谷地区で解体された建物の廃材が。

能登伝統の塩づくりを止めない‼

 社長の山岸は小学校の校長を定年退職した後、父親と同じ塩づくりの道に入りました。  震災前の珠洲製塩は10名の従業員がいて、揚げ浜式と流下式の2つの製法で塩づくりをしてきました。しかし、震災により多くの従業員は二次避難などでこの地を離れ、また工場もかん水を炊く釜にヒビが入ったり、煙突がくの字に曲がったり、第二工場が半壊するなどの被害がありました。「発災から約1か月後に社長が1人で塩づくりを再開した」などと各メディアで報じられているのを見て、私はいてもたってもいられず、発災3か月後に職場復帰。  海底隆起により海岸が遠のき、岩だらけで足場も悪いため、塩くみが以前にも増して重労働ですが、能登伝統の塩づくりを次代に伝え残すため、日々、精進してまいります。

上からカメラを構えたためわかりにくいが、海岸の白い部分は以前海の底だったところ。波打ち際までの距離は、震災前と比べておよそ100メートル延び、高低差は3メートルになった。

事業者プロフィール

株式会社珠洲製塩

代表者:山岸順一(代表取締役) 所在地:石川県珠洲市長橋町13-17-2

取材後記

 子どもの頃、家族とたずねた塩田の様子が気になり、去年の11月、大谷地区を訪ねました。見たことのない光景に愕然とするなか、一軒だけ営業している製塩所を見つけました。それが珠洲製塩さんで、接客してくれたのが真酒谷淳志さんでした。淳志さんは、平日は会社で寝泊まりし、週末に仮設住宅のある輪島へと帰る生活、とのことでした。  今回取材でうかがった際、大谷地区はかなり復旧が進み、さらに輪島から国道249号線で珠洲製塩さんまで行けるようになっていて、非常に感慨深い思いをいたしました。  取材中、来店したお客さまの中に、「発災後はじめて車でここに来た」という方がいました。その方は、塩のアイス(珠洲製塩さんの売店で買えます)を頬張りながら、「ここがあって本当によかった、ここに来るまで心配やってん」「跡取りがおって安心したわ~」そう言って帰っていかれました。あるものが「ある」ということの〝重さ〟を実感したひとコマでした。

みちいさゆり(ライター・編集者)

豊かな生き方やヘルスケアに関する書籍が世の中に流通するお手伝いをしています。過去に、お手伝いさせていただいた書籍は、斎藤一人さんの『変な人が書いた成功法則』(総合法令出版)、大野裕さんの『主婦うつ』(法研)をはじめ多数。最近は著者さんのYouTubeチャンネルの構成も担当させていただいています。

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