
限界集落を"現代集落"へ。100年後に残したい自然共生型生活圏をつくる実験プロジェクトが目指すもの
⼀般社団法⼈現代集落
更新日:2025年5月4日
現代社会のあり方、豊かさを問い直す“現代集落”とは?

「現代集落」のメンバーが活動の拠点としている古民家
「現代集落」のMISSION
設問 100年後の人間は、豊かな暮らしを育んでいるか。
「限界集落」を「現代集落」に変えるプロジェクト。それは単なる過疎化対策の施策ではありません。わたしたちはここで「100年後の豊かな暮らし」を実験します。人は、自然から何も奪わない暮らしが実現できるのか?モノやお金に縛られない生活ができるのか?わたしたちの問題意識は、たとえば「行き過ぎた資本主義」であり「都市の一極集中」です。この潮流のなかで人は100年後も本当に豊かに暮らせるのか?と、懐疑と不安を覚えています。わたしたちは「都市生活のオルタナティブ(代替生活圏)」を考えます。そのために「水や電気や食を自給自足できる集落をつくり、自然のなかで楽しむ生活を、先人の知恵とテクノロジーで実現したい」。そう本気で考え、プロジェクトを立ち上げました。
出典:⼀般社団法⼈現代集落Webサイト(https://villagedx.com/)より
多様な人が集まり、それぞれが役割を担っていく
「現代集落」は、私を含む理事4人と、オンラインサロンに所属する約60名のメンバーで構成されています。参加者の世代やバックグラウンドは実に多彩で、建築士やデザイナー、エンジニア、ランドスケープデザイナー、脚本家、ファシリテーターなど、それぞれが得意なことを持ち寄り、プロジェクトに参加しています。

プロジェクトが目指す2052年の現代集落のビジョン
これはサロンメンバー全員で2年かけて描いた「30年後の現代集落のビジョン」です。このビジョンは、誰かが一方的に決めたものではなく、全員の対話と協働から生まれました。今後、このビジョンを具現化、形にしていくプロセスにも一人ひとりが主体的に関わっていきます。
実際に手を動かし、暮らしをつくる
これまでに、次のようなプロジェクトが進行してきました。
・フィールドワークプロジェクト
・宿プロジェクト(古民家のリノベーション。設計などの専門的な部分は建築士のメンバーが担い、施工の約半分はみんなでDIY)
・畑プロジェクト(耕作放棄地を自分たちの手で開墾)
・森プロジェクト
・交流拠点プロジェクト

古民家の中の様子と、これまでの活動の展示
現代集落のメンバーが多様な分、宿を作るプロジェクトだったり、お酒を作るプロジェクト、仮想通貨を作るプロジェクトなど今後に向けてのアイディアや構想が沢山生まれています。ただすべてを同時進行で進めることはできないので、優先順位をつけてどの順番でやっていくか、資金調達も含めてみんなで考えて進めています。
震災をきっかけに、30年のビジョンを3年で──能登・真浦集落から始まる「里山グリッド」構想

現代集落の理事ら
令和6年に発生した能登半島地震とその後に続いた豪雨被害によって、私たち現代集落が震災前に描いていた30年先のビジョンは、もはや悠長に待つことができるものではなく、今後3年で実現しなければならない喫緊の課題へと変化しました。
現在最も深刻な課題の一つが、ガス・電気・水道といった暮らしに不可欠なインフラの復旧です。これらのインフラが整わないことから、住民たちは集落に戻ることができずにいます。例えば、真浦(まうら)集落では、震災前には20世帯が暮らしていましたが、現在は誰一人として戻ることができていません。この現状を打開すべく、私たちは「里山グリッド」というプロジェクトを急速に進めています。
「里山グリッド」とは何か
「里山グリッド」とは、能登の小規模集落において、自然再生可能エネルギーを活用しながら、社会・自然・文化に最大限配慮した形でレジリエンスを高める仕組みです。この取り組みは、単にエネルギーを再生可能なものに切り替えるというだけでなく、集落そのもののあり方を再設計することを意味します。具体的には、電気・ガス・水道といったインフラを小規模で自立的に供給する「オフグリッド化」の実現が中心です。
県や市もこの課題を把握しており、県の復興計画の中でも小規模集落のオフグリッド化を推進する方針が打ち出されています。しかし、実際にこの構想を誰が担い、どのようなビジョンのもとで進めていくのか──それは未だ多くの地域住民にとって見通しが持てないままです。

それぞれのエネルギー消費量を見える化したカード
真浦集落からエネルギー自給の道しるべを描く
私たちは「里山グリッド」のモデルをまずは真浦集落で構築し、小規模集落のエネルギー自給の道しるべを描くことを目指しています。そうすることで、能登の多くの小規模集落のモデルケースになりうるのではないかと考えています。
興味のある人は、ぜひオンラインサロン「現代集落LAB」へ
現代集落は誰にでもオープンな場所ではなくて、顔の見える範囲で共感できる人、コミュニティの中で実験していけたら面白いなと思っています。なので、私たちと一緒に100年後の集落の姿をデザインしていきたい、関わりたい! という人は、まずは私たちのオンラインサロン「現代集落LAB」に参加してください。
真浦集落のフィールドは農業や自然、いろんな分野が詰まっているので、その中で自分が引っかかるものから、サロンのみんなで実践していけたらと思っています。特に、耕作放棄地がたくさんあるので、そこを活用して実践していけるような人がいたら嬉しいです。
オンラインサロン「現代集落LAB」
世界の人たちとともに「100年後の豊かな暮らし」を考えたい。議論を重ね、言葉を生み出し、アイデアを創発したい。そんな想いをかたちにするのが「現代集落LAB」です。このオンラインサロンは「オンラインフィールド」と位置づけ、リアルな真浦フィールドと並走するバーチャルなフィールドとして現代集落を具現化していきます。現代集落プロジェクトがめざしているのは「参加メンバーがそれぞれの地元や他の地域で“現代集落”をかたちにすること」。つまり、世界中に現代集落をつくるために、世界中の人とオンライン上で実験し、情報やアイデアを共有したいのです。主旨に賛同してくださる方々の参加をお待ちしています。
出典:⼀般社団法⼈現代集落Webサイト オンラインサロン「現代集落LAB」(https://villagedx.com/#online-top)より
プロフィール 林 俊伍(はやし・しゅんご)

一般社団法人現代集落 代表理事
金沢大学卒業後、2009年に商社へ入社し東京都と愛知県豊田市で勤務。14年から物理の教員を経験したのち、16年5月に奥さんと共に株式会社こみんぐるを創業。「100年後も家族で暮らしたい金沢を創る」を掲げ、貸切宿「旅音」の事業、イベントの運営、留学のコーディネートなどさまざまな事業を行っている。
また、令和6年能登半島地震の被害を受けた能登地域の復興をミッションとする一般社団法人能登乃國百年之計の代表理事も務める。
事業者プロフィール
取材後記
日本は今後、多くの地域が限界集落化すると予測されているが、能登は令和6年の能登半島地震と豪雨の被害によって他の地域よりも10年20年、時間が先に進み、ある意味、日本の最先端を歩む地域となった。そんな中、奥能登の小さな集落で、この状況を逆手に取り、新しく自分たちの生きたい社会を構築する実験が始まっていた。 「都市一極集中」「経済合理性を重視した社会」「行き過ぎた資本主義」など現代の社会のあり方に疑問を覚え、もう一度自分たちが本当に目指したい社会のあり方や生き方を再構築する「場」と「仲間」が集まる現代集落。世の中の秩序が乱れ、社会の変化が激しい時代だからこそ、もう一度人間としての原点に立ち戻り「豊かさとは何か?」「我々は何処から来たのか?」を問いなおす。そのきっかけを、私自身もこの取材を通して、現代集落の方々との出会いを通じていただいた気がする。
廣林花音(ひろばやし・かのん)
富山県出身。現在は小水力発電のコンサルティング会社に勤めている社会人2年目。小さいころ、よく家族と一緒に能登にドライブへ行っていた。能登の災害復興に少しでも力になりたいと思い、ライターとして参加。