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地域の声を掘り起こし、活性化を後押しする“紡ぎ組”

特定非営利活動法人紡ぎ組

更新日:2025年4月18日

地域が必要としていることを考え、実現する

 輪島市深見町に拠点を持ち、深見地区の活性化をサポートしているNPO法人“紡ぎ組”。活動の基本は、地域の方からの相談を受け「これが必要では」と思ったことをカタチにすることです。地震後は「深見町復興協議会」を設立。地域の皆さんの声を集約して今後の方向性を決めたり、イベントを開いて皆さんが地域に戻ってきやすい状況をつくることに力を注いでいます。

深見町復興祭〜お花見の会(2025年4月)

深見町の復興と、その先を見据えた活動をスタート

 地震後は、地域の人々の相談窓口として皆さんの不安を一つひとつ解決する活動——家屋の緊急修理、土砂・瓦礫の撤去、ボランティアによる各種イベント受け入れなどを行ってきました。  日常を取り戻すには今しばらく時間がかかりますが、震災復興の先にある「できること」「やってみたいこと」を考え、深見を楽しい場所にするための活動もスタートさせています。

24時間テレビの収録で松平健さんご一行が来館(2024年8月)

○「子どもの居場所づくり」プロジェクト

 地域には子どもたちが自由に遊べる場所がありません。そこで「子どもの居場所づくり」に取り組んでいます。  現在、校庭には大学生ボランティアがペイントしたインスタントハウスアートが並んでおり、子どもたちの人気スポットになっています。

校庭に並ぶインスタントハウスアートは宿泊施設としても利用可能

 昨年、2024年に開催された夏祭りでは、子ども達が大きな声で叫びながら校庭を走り回っている姿が印象的でした。今後は旧体育館や教室を利用して、巨大ラジコンサーキット場やNゲージの製作、オーシャンビューの露天風呂などをつくろうと計画しています。  この取組はこども家庭庁の「NPO等と連携したこどもの居場所づくり支援モデル事業(被災したこどもの居場所づくり支援)」に採択されました。

深見町復興祭にオフロードラジコンサーキットが登場!(2025年4月)

○観光用の宿泊施設を整備

 現在は復興作業員の皆さんの宿営所として運営している校舎を、観光で訪れる方向けの宿泊施設として整備したいと考えています。深見町はのと里山空港から「ふるさとタクシー」を利用すれば900円で行けるので、首都圏からのアクセスは抜群です。目の前の海で魚や貝などをとり、畑で野菜を育て、山で山菜を収穫する。私たちが惚れ込んだ深見の里山里海とおいしい食を、ぜひたくさんの方に楽しんでいただきたいですね。

旧深見小学校は青い海に面した絶好のロケーション!

○タクシー事業

 高齢者などの交通弱者にとって、タクシーは生活に欠かせない存在なのですが、輪島市のタクシー運転手は激減しています。そこで、廃業を決めたタクシー会社から事業譲渡していただく準備を進めています。ライドシェアの導入や介護タクシーの運行も視野に入れつつ、地域のニーズに合った運営を検討中です。

人が集まる拠点を守り、地域を盛り上げる

 活動拠点としている旧深見小学校の校舎は、2024年1月1日の能登半島地震でも損傷がなかったものの、避難所としての備えができていませんでした。そこで山から水をひき、お風呂などを自作するとともに、避難所で使われなくなった段ボールベッドや布団を持ち込み「今度何かあったときに快適にいられる場所」として整備。こうした備えが2024年9月の奥能登豪雨のときに役立ったことは言うまでもありません。  ところが最近、旧深見小学校の校舎が解体の対象になっていることがわかりました。紡ぎ組のメンバーはもちろん、地域の方々にとっても、まさに寝耳に水のことです。  使用に問題はなく、地域の拠点として活用されているのに、なぜ?  地域の皆さんと一緒に考え、実績を積み重ねながら、「みんなの居場所」の必要性を行政と話し合ってゆくつもりです。

復興夏祭り(2024年8月)

NPO法人“紡ぎ組”とは

 “紡ぎ組”設立のきっかけは、深見の里山里海に魅了されたことでした。足繁く通うようになり、地域の人と話をする中で「自分たちにできることはないか」と考え、11年前にNPO法人を設立。民泊を運営し、月一居酒屋を開催したり、烏骨鶏・軍鶏を飼育したり、輪島朝市で飲食店とBBQ施設を運営するなど、地域活性化をサポートする活動を行ってきました。  そんな活動は2024年1月1日の能登半島地震で一変しました。けれど、地域の皆さんのニーズを聞き取りながら「自分たちにできることを考え、地域活性化をサポートする」という活動方針に変わりはありません。

旧深見小学校エントランス

 必要とされていること、やりたいことは山ほどあり、人手はいくらあっても足りません。昨年、石川県主催の「のと復興留学」で深見を訪れた大学生は、ここに<希望>を見つけ、紡ぎ組に就職を決めてくれました。深見の素晴らしさに惹かれてやってくる仲間を受け入れながら、日常にある<宝>を世界中の企業や人とつなぎ、紡ぐ活動を続けていきます。

お話しを伺った副理事長の坂井美香さん(中央)と紡ぎ組への就職を決めた大学生

事業者プロフィール

特定非営利活動法人紡ぎ組

代表者 :佐藤克己(理事長) 所在地 輪島市深見町

取材後記

 2024年1月の能登半島地震で一時孤立状態になった輪島市深見町。紡ぎ組の理事長・佐藤克己さんは、地域住民約70世帯約130名を航空自衛隊のヘリで脱出させるべく奔走した…その話を聞いて「田舎愛に溢れた熱血集団」を想像していましたが、それは勝手な思い込みでした。今回お話しを伺った副理事長の坂井美香さんは「もともと能登に特別な思いがあったわけではありません。友人に誘われてたまたま来てみたら素晴らしい自然があり、そこに空き家があり、見せてもらったら絶好のロケーションだったので、住み着いてしまっただけ」と笑います。大地震や豪雨は地域に甚大な被害をもたらしましたが、そんな大変な状況にあっても、地域との絆が深まりこそすれ、魅力が色あせることはなかったようです。 「都会に暮らす人は『かわいそうな地方の人たちのために何かしてあげたい』と考えがちですが、それは間違いです。ここには生きるために必要なものは何でも揃っています」  確かに、ここには青い海と豊かな大地、ゆるやかな時間、伝統文化など、都市部では考えられないほどたくさんの宝──希望があります。奥能登の豊かな里山里海に囲まれて楽しく暮らしてゆくために、自分にできることを一つずつやってみる。そんな緩やかな「地域活性化」活動に魅力を感じ、来春から紡ぎ組に加わる若者を頼もしく思いました。

取材者

井上 みゆき(コピーライター)

大手下着メーカー宣伝部を経てフリー。本業の傍ら、酒・食・エンタメを求めて全国を旅する。関越自動車道が全線開通したころ「海沿いをロング・ドライブしたら楽しそう」という単純な動機から初めて能登の土を踏む。その後インターネットやらSNSの時代に入り、酒蔵を中心に友人が増え、さらに奥能登国際芸術祭にハマり、能登通いが加速している。

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