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能登の自然を守り、世界に届けたい“日本料理 富成”

日本料理 富成

更新日:2025年4月26日

川魚、山菜、ジビエ……自然豊かで賑わいのある能登を繋ぐ

 田んぼには蛍が飛び交い、山では四季折々の山菜が採れ、川にはモクズガニなどの生き物がいる。そんな自然豊かな環境で、大人たちには活気があり、子どもたちものびのびと育っている。  取り戻したいのは、子どものころに体験した大好きな能登の姿です。  これまでもそんな思いで活動を続けてきましたが、震災を機に、その思いはより強くなりました。  店は被災し、2025年5月現在、休業中。保全活動を続け、子どもたちと川遊び体験をしてきた川は豪雨災害で土砂に埋まってしまい、生物がいなくなってしまったりと大変なことは多いのですが、それでも大好きな能登の姿を取り戻していきたいと考えています。

冨成寿明(とみなり・としあき)さん

能登の天然食材を扱うオーベルジュと総合商社を立ち上げ、地域に還元したい

 まずはお店の再建から。  震災前から計画し、工事を始めていたオーベルジュをこの秋にスタートさせるべく、準備を進めています。  1日3組限定、そのうち1組は宿泊もできる施設のついた、能登の自然や食材をふんだんに楽しめるレストランを町野町につくりたい。  四季折々の山菜、川魚、ジビエ……能登は天然食材の宝庫なんです。  例えばモクズガニ。川で捕れるカニなのですが、震災前からそのビスクスープをイベントなどで提供したところ好評をいただき、リピーターのお客様もいらっしゃるほどです。  そんな能登の豊かな食材を味わい、楽しむことができる場所にできればと思っています。  また、そんな食材を広く取り扱い、全国のレストランに卸したり、加工食品を販売する商社を立ち上げたいと思っています。  能登食材の魅力を地域内外へ届け、その価値を高めていくことで、地域の活性化や環境保全にも還元していければと思っています。

能登でとれる春の山菜(撮影:富成さん)

モクズガニ(撮影:富成さん)

能登の自然の魅力を一緒に届けてくれる方を探しています

 レストラン、天然食材商社、加工食品……やりたいことがたくさんあり過ぎて、いろんなことに悩んでいるのですが、まずは、そんな総合商社のブランドロゴや加工食品のパッケージなどをデザインしてくださる方を探しています。  もちろん、実務的な面でもサポートいただきたいのですが、思いに共感していただける方がいてくださると嬉しいです。  今の日本では環境問題や自然の保護といったことに関心が薄いなと感じています。それをネガティブな発信ではなく、能登の天然食材を通じて、環境を守ることでこんなポジティブでいい側面があるよ、ということを発信していきたいと考えています。  2025年秋にはお店を再開する予定です。ぜひ、お店にも来ていただき、この豊かな自然を楽しみ、応援していただけると嬉しいです。

ミシュラン1つ星にも選ばれた、能登の自然を楽しむ日本料理店

 富成は私が生まれた年に父が創業した仕出し料理店です。私が子どものころにはお祭りの季節になると1日に500人前のお刺身を捌き、能登各地に仕出し料理店を届けていました。  そんな父の姿を見て育った私は、関西のお店で7年ほど修行したのちに跡を継ぎました。しかし、人口減少やお祭り文化の衰退に伴い仕出し料理のニーズは減少。新たな形態を模索する中で、改めて能登の天然食材に注目し、それらを味わえるコース料理のお店としてオープンしたのが今のお店です。  2025年5月現在、お店は休業中ですが、2021年にはミシュラン北陸2021特別版で1つ星&グリーンスターをいただきました。

日本料理冨成の料理(撮影:富成さん)

 あわせて、そんな天然素材を生み出す能登の自然を守るべく、近くを流れる町野川の保全活動にも力を入れてきました。  震災前に行っていた「町野川再生プロジェクト」ではヤツメウナギやヤマメ、カジカなどの放流活動や河川環境の整備などを行ってきました。

近隣の小学校、保育園の子どもたちと行っていたアユやカジカの放流の様子(撮影:富成さん)

 自然と共生した食は次の世代に繋いでいくべき大切な文化だと思っています。豊かな自然を守りながら、四季折々で美味しく味わう。  ユニフォームには、加盟している日本サステナブルレストラン協会のロゴを入れています。「FOOD MADE GOOD」。フェアトレードや環境保全……ただ美味しいだけではなく、生産者も消費者も、その食事に関わるすべての人が笑顔になれるような「だからこそ、ここの料理を食べたいよね。」と思ってもらえるような活動をしていきたいと思っています。

富成さんのユニフォーム

事業者プロフィール

日本料理 富成

代表者:冨成寿明 所在地:石川県輪島市町野町広江26-18

取材後記

 町野町は能登の中でも豪雨災害の被害が大きかったエリアです。取材をした2025年4月は天気も良く、緑豊かで穏やかな町という印象でしたが、田んぼの水路はまだ土砂で埋まっているところもあり、富成さんが保全活動をされていた川も生物がいなくなってしまったのだそう。  新しく建てられるはずだったオーベルジュの工事もずっと止まったまま。 地震や豪雨の被害は、地域によりさまざまで、決して全て解決されている訳ではありません。 「能登以外の場所でお店を開きなおすことは考えなかったんですか?」 私の質問に少し悩んで、富成さんは答えられました。 「正直、少し葛藤はありました。地震や豪雨で今までやってきたことがゼロどころかマイナスになってしまいましたから。でも、やっぱり、能登を見捨てることは出来なかったというか、今の能登を離れたら多分一生後悔するだろうなって。  それに、都会でやっていけるような料理人でもないと思っています。私がミシュランの星をとれたのは、能登の天然食材があったから。山や川から食材を調達してすぐに調理ができる、そんな環境だからなんですよね。」  子どものころから育ってきた輪島市町野町に対する富成さんの愛を強く感じました。  お話を聞くだけでもとても食べたくなってしまう富成さんのお料理。お店が完成したら、ぜひこの広々とした自然を楽しみながら味わいたいと思いました。

島田真衣(しまだ・まい、会社員・ライター)

奈良県出身。鉄道会社のローカル線活性化企画・広報を経て現在は日用品メーカーの広報・オウンドメディアを担当。趣味は一人旅、大自然を満喫すること。

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