
建築士“岡田翔太郎”が「一人一花 in 能登半島プロジェクト」に込めた願い
岡田翔太郎建築デザイン事務所商事合同会社
更新日:2025年7月14日
復興が進んだとは、まだ言えない現状
2024年1月1日の能登半島地震から、1年半以上が経ちました。 少しずつ日常を取り戻しつつあるとはいえ、まだ「復興した」とはとても言えない状況です。
私、岡田翔太郎(おかだ・しょうたろう)が代表を務める建築デザイン事務所「岡田翔太郎建築デザイン事務所商事合同会社」の事務所がある七尾市の一本杉通り商店街では、仮設店舗で営業を再開した方もいますが、営業を再開できていない店舗もまだあります。
私の事務所は比較的被害が軽かったため、早い段階で再開できました。ですが、復興というのは自分一人が立ち直ることではありません。商店街全体が動き出してこそ、実感できるもの。
また、今回の地震では能登半島全体に被害が及んでいます。復興にあたっては、外部の地域の方の力が必要であり、そのためには継続して被災地の情報を発信していくことが重要です。
情報発信にあたっては、七尾だけではなく能登半島全体で声を上げるほうが、より発信力が高まるのではないかと思っています。
空き地を、希望に変える──“一人一花 in 能登半島プロジェクト”

2025年6月6日 七尾市・一本杉通り商店街
地震によって被災した家屋の公費解体が、能登半島全体で行われており、空き地が増えつつあります。そうした空き地を放置しておくと、草が伸び放題になり、ゴミが捨てられ、景観がさらに悪化します。 やがて住民の心にも「この街はもう終わったかもしれない」という諦めが広がっていく。私はこうした住民たちのネガティブな気持ちを、何とかポジティブな気持ちに変えることができれば良いなと考えていました。
そのようなことを考えていたときに、九州大学時代の恩師であった鵜飼哲矢先生から、「福岡市で行われている“一人一花運動”を、能登半島バージョンでアレンジし、実施してみてはどうか」とアドバイスをいただきました。
そこで鵜飼先生をはじめ、福岡で“一人一花運動”に携わているガ―ディナーさん、ランドスケープ(植物などを使って緑のある空間をデザインする仕事)の先生など、たくさんの方々が集まって始まったのが、「一人一花 in 能登半島プロジェクト」です。あくまで空き地の暫定利用のために、地域の人たちと一緒に空き地を整備し、ボランティアや専門家の皆さんとともに花を植えるという活動です。
この活動によって、七尾市2カ所・輪島市1カ所・珠洲市2カ所・穴水町2カ所・志賀町2カ所の計9カ所で花壇を整備してきました(2025年7月現在)。七尾市の2カ所は、目の前の一本杉通り商店街に整備しています。
花は誰でも関われる復興

2025年6月6日 七尾市・一本杉通り商店街
建築やインフラの復旧には、大きなお金や専門的な知識が必要です。でも、花を植えることであれば誰でも関われます。 子どもでも、高齢者の方々でも。
実際に、仮設住宅の近くで花壇を整備したとき、近所のおばあちゃんたちが集まり、笑いながらガーデナーさんの話に耳を傾けてくれました。
「お花って、やっぱりいいわねえ」「水やりにもコツがあるのね」──
そんな会話が、聞こえてきました。
こういった声を耳にしたことで、「一人一花 in 能登半島プロジェクト」によってコミュニティが継続され、街の再生にもつながるという好循環が生み出されたと実感でき、この活動をやって本当に良かったと思っています。
また、この活動は全国の企業の協賛によって支えられています。 花壇の横には、協賛企業の名前を記した小さなプレートを設置しています。 それを見た地域の方は、「遠くの人たちが応援してくれている」と感じてくれるようです。 実際に、企業の方から「能登の役に立ててうれしい」という声も届いています。
さらに、俳優の常盤貴子さんもこの活動のアンバサダーとして、ボランティアで参加してくださっています。 被災地への深い思いを持つ常盤さんが現地に足を運ぶことで、テレビや新聞でも取り上げられる機会が増えました。地震から時間が経ったことで、被害の大きさに比例して復旧復興のニュースが多い輪島などとは異なり、他の地域では報道に取り上げられる機会が大きく減ってしまっている。この活動は、報道される機会が減ったと実感している地域にも光を当てる一助にもなっています。
建てることだけが復興じゃない
能登では、職人不足や資材高騰などで再建工事が進まず、「建てたくても建てられない」という声を多く聞きます。 だからこそ私は、花を植えることで「ここに人がいる」「戻ってきたい」と思える景色を先につくりたいのです。
建築家としてではなく、一人の住民として。復興は、皆さんの気持ちが動くことによって始まると思っています。
花壇がいらなくなる日が、本当のゴール

2025年6月6日 七尾市・一本杉通り商店街
この活動の目的は、花壇を増やすことではありません。 人が戻り、建物が建ち、空き地がなくなること──それが本当の復興です。
しかし、それまでのあいだ、花を通じて人が笑い、支え合い、街の空気が少しでも変わるなら、それは大きな一歩だと思います。
「一人一花 in 能登半島プロジェクト」は、能登地方の6市町以外の地域からも、ぜひやってみたいという声が上がっています。そのためには、どうしても活動を支えるための協賛金が必要となります。
全国の皆さんには、ぜひ「一人一花 in 能登半島プロジェクト」の存在を知っていただき、積極的にこの活動に参加していただければと思っています。
事業者プロフィール
岡田翔太郎建築デザイン事務所商事合同会社
代表者:岡田翔太郎 所在地:石川県七尾市一本杉町3 TEL : 0767-57-5954 FAX : 0767-57-5968
取材後記
2025年6月初めて、石川県七尾市を訪れました。再建された家屋もありますが、まだブルーシートに包まれた家屋も多く、未だ復興途上にあると感じました。 今回、お話を伺った岡田翔太郎さんは、新進気鋭の建築士。「一人一花 in 能登半島」について、熱心に語る姿にはとても感銘を受けました。 今後もこの活動への賛同者が増え、街の復興に役立つことを、心から願わずにはいられませんでした。
三枝 徹(さえぐさ・とおる、ライター)
東京都出身、千葉県在住。 システムエンジニアの経験を経て、現在はWebメディアの取材ライター、NPO法人の広報を行っています。