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珠洲の米作りを守りたい。──親から子、子から次世代へとバトンをつなぐ“農業組合法人こうぼうアグリ”

農業組合法人こうぼうアグリ

更新日:2025年5月6日

珠洲の米作りを守りたい

 農業組合法人こうぼうアグリは、「郷土愛」を旗印に、珠洲市宝立(ほうりゅう)町の鵜飼・春日野地区で、米をメインに大根やかぼちゃの生産を行う米農家です。  2009年に、父・宮崎宣夫(みやざき・のぶお)が農業組合法人を立ち上げて以降、廃業する農家の田んぼを吸収しながら年々作付面積を拡大してきました。私・宮崎仁志(みやざき・ひとし)は長野県の大学を卒業後、珠洲商工会議所で相談員をしていましたが、作付面積が拡大する田んぼを横目で見ながら、田んぼは父の代で終わることはなく、ずっと続くものだから、いつかは父からバトンを受け継ぐことになるだろうなとは思っていて、4年前に入社を決めました。農家としてはまだまだ勉強中です。  珠洲市の中でも、宝立町や上戸(うえど)町は、量は限られますが、高品質な米を収穫できると言われています。この地域の米作りを守りたい。多くの人に知ってもらい、関わってもらうことで、田んぼが原っぱ(耕作放棄地)にならないようにしていきたいと思っています。

米作りに集中し、多くの方々に珠洲のお米を届けたい

 震災以降は、目の前のことをひたすら順番にこなしていく状態が続いています。今(2025年4月)はまさに、今年の田植に向けた準備を行っています。  実は、2023年に春日野地区の土地を購入して倉庫を整備して間もなく、2024年1月1日の能登半島地震が発生しました。本当にショックでした。震災後2~3か月間は、壊れた建物の下敷きにならないように気をつけながら、いつもアルバイトに来てくださる地域の方々と協力して、肥料袋を1つ1つ命がけで取り出しました。

壊れた建物の下から取り出した肥料。今年の田植で使用する予定です(2025年4月撮影)

 早い段階から支援機関等に対して、具体的な被害状況を伝えてきたこともあり、2025年3月に新しい倉庫が完成しました。この地域ではかなり早い方だと思います。ただ、倉庫が完成したら終わりではなく、すぐにトラクターや資材関係、肥料などの納品ラッシュが始まり、各種報告書類を提出するための資料を作成したり、写真を撮影したりしなければなりませんでした。  新しい倉庫には電気もまだ来ておらず、これから電気工事を予定しています。倉庫内には、米の保存用の冷蔵庫も設置していますが、電源は入っていません。  課題は山積みです。しかし、今年の田植に何とか間に合わせることができ、関係者の方々には感謝しています。

新しい倉庫内にある冷蔵庫の前。電気が来ていないため常温状態ですし、昨今の米不足という事情もあって、保存する米はほとんど無い状態です(2025年4月撮影)

 2025年5月現在、米不足のご時勢でもあるため、とにかく米作りに集中し、珠洲のおいしいお米をより多くの方々にお届けしたいと思っています。

2025年3月に竣工したばかりの新倉庫(2025年4月撮影)

より若い世代との関わりを広げたい

 これからの課題は「人の確保」だと思っています。  ただ、「人の確保」と言っても、人の数がいればよいというわけではなく、より若い世代との関わりを広げたいと思っています。現状、当社の作業に常時関わっているのは40歳代~70歳代の6人で、49歳の私が一番の若手です。その他は、繁忙期だけシルバー人材センターから紹介を受けたアルバイトさんに作業を手伝ってもらっています。   この地域は、区画整理をされた田んぼが少なく、個人が先祖代々守ってきた小規模な田んぼが多いため、機械化が進められず、より多くの人手が必要です。今後は、なるべく人手がかからないようにしていかなければならないとは思うものの、若い世代の協力を得ないとなかなか前に進まないと感じています。  田んぼが原っぱにならないようにするためには、より若い世代にたくさん関わっていただく必要があると思っています。一緒に農作業をしてくださる方、事務作業を手伝ってくださる方など、さまざまな面で一緒に農業に関わってくださる方を探しています。  多くの方に関わっていただくためには下記のような課題があると考えていて、この課題解決に向けてサポートしていただける方も探しています。 (1)各種規定類の整備  これまで、家族と知人、アルバイトなどで会社を回してきたため、若い世代の社員を雇うにしても、就業規則などが整備できていません。そのため、ハローワークなどに求人も出せない状態です。「人の確保」が課題と言いながらも、そのための準備ができていないため、早急に労働環境を整備する必要があると考えています。 (2)通年農業の実現  かつての能登の農家というのは、春から秋にかけては米作りを行い、冬は酒造りのために出稼ぎに出ていました(「能登杜氏」と呼ばれています)。そのような歴史ゆえに、この地域では通年で農業を行っている農家は少ないのです。  当社では、冬の時期になると、切り干し大根の製造を行っていますが、私の母が袋詰めを行い、道の駅や農協の直売所などに並べるといった、ごく小規模で行っている程度です。また、インターネット販売も行っていますが、私が時間を見つけて少しやっている程度です。現状、通年で人を雇えるほどの規模ではありません。

「道の駅 すずなり」では、切り干し大根や真空パックのお米を販売しています(2025年4月撮影)

 田んぼを続けるために、若い世代の社員を雇いたいと思っても、通年の仕事がないと難しいだろうと感じています。何か新しいサイクルを1つでも加えられればよいかもしれませんが、私の知識・経験ではまだ答えが見つけられていません。

全面復旧まであと一歩

 農業組合法人こうぼうアグリは、父を中心に3名の農家で結成し、徐々に作付面積を拡大してきました。  2021年には、父が新嘗祭献穀農家に選ばれ、私はそのころに入社し本格的に農業に従事するようになりました。  2023年に春日野地区に新しく土地・建物を購入し、倉庫を整備した直後に震災が発生しました。倉庫は倒壊してしまい、50ヘクタール(50万平米・東京ドーム10個分ほど)ある田んぼも一部が使えない状態になりました。  2025年5月現在、まだ一部の田んぼは使えない状態が続いていますが、徐々に復旧作業を進めており、今年は46ヘクタール程度の作付を行うことができそうですし、新倉庫も今年(2025年)の田植に何とか間に合いました。  一日でも早く、珠洲のおいしいお米をより多くの方々にお届けしたいと思っています。

新倉庫では、今年の田植に向けた準備が進んでいます(2025年4月撮影)

事業者プロフィール

農業組合法人こうぼうアグリ

代表者:代表理事 宮崎宣夫/専務理事 宮崎仁志 所在地:石川県珠洲市宝立町春日野9字24番地

取材後記

 若い世代との関わりを広げたいという宮崎さんに対して、若い世代に訴求したい珠洲の魅力を伺いました。  「多分、この町にポツンとおる若者は、都会におる若者と比べて、求められる役割は圧倒的に多くて、自分の存在価値は高まるはず」と、宮崎さんは、少し照れながらも力強くおっしゃいました。確かに、多様性が叫ばれる今だからこそ、そういうところに魅力を感じる若い世代はいるのではないでしょうか?  小・中学校の同級生が次々と珠洲を離れ、宮崎さんも一度は離れましたが、「俺が珠洲に帰ったら、誰かが喜んだり、助かったりするんやないか」と思い、戻られたそうです。現在の宮崎さんのスケジュールをお伺いすると、マルチタスクでいろいろな会合に引っ張りだこ。存在価値を大いに発揮されていらっしゃると感じました。79歳のお父様は、ワカメの養殖(漁業)も行っていて、更にお忙しいとか……。   宮崎さん親子と繋がった若い世代は、農業から漁業まで、幅広く充実した珠洲の魅力を教わることができるのではないでしょうか? 私も都会でくすぶっている場合ではないかも?!

関谷由佳理(せきや・ゆかり、中小企業診断士)

 富山県氷見市生まれ、神奈川県横浜市在住。金融機関に勤務するかたわら、中小企業診断士として事業者さんのご支援やライターとして活動中。ほぼ故郷である能登のためにできることは何かを考えて、シロシル能登のライターに。能登の事業者さんに伴走し、能登復興の一助になりたいと思います。

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