
海なき街から九十九湾へ、26歳が営む古民家宿。今は復興拠点、明日は地域の未来を耕す“TSUKUMO STYLE”
TSUKUMO STYLE
更新日:2025年5月17日
26歳の移住者「若者が住み、働ける集落に」

TSUKUMO STYLEのすぐそばから望む九十九湾(撮影:野上文大朗)

能登町越坂で体験型宿泊施設「TSUKUMO STYLE」を営む小林昇市さん(撮影:野上英文)
観光客から復興作業員へ、変化した宿の役割

古民家を改修した体験型宿泊施設「TSUKUMO STYLE」(撮影:野上英文)

復興作業員が泊まる一室。窓を開けると、海面に日差しが反射していた(撮影:野上英文)

TSUKUMO STYLEの共同リビング・ダイニング(撮影:野上文大朗)
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TSUKUMO STYLEの併設カフェ。再開に向けて準備を進めている(撮影:野上英文)
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古民家を改修したTSUKUMO STYLEの外観(撮影:野上文大朗)
長野から能登へ、移住を決めた「海釣り好きの少年」

TSUKUMO STYLEの近くにある観光船キップ売場(撮影:野上英文)

TSUKUMO STYLEをモデルケースとして、若者が能登で働き、暮らせる集落づくり目指す(撮影:野上英文)
具体的に必要な支援2

夕陽が沈む九十九湾(撮影:野上文大朗)
能登らしい生き方ができる場所を守り、残したい

小林昇市さんと、築70年の古民家を改修したTSUKUMO STYLE(撮影:野上英文)
事業者プロフィール
取材後記
20年以上前、新聞記者になり、初めて赴任したのが石川県でした。能登の風土にひかれて、金沢から何度も車を走らせました。九十九湾で温泉宿に泊まったこともあります。穏やかな波と箱庭のような景観が、当時20代だった私には、味わいつくせないほどの贅沢に感じられました。 その当時から、能登では高齢化と過疎化が進んでいました。学校の統廃合もあり、高校野球では単独チームを組めいなケースも。それでも「能登から初の甲子園を」と目指す姿に心を打たれ、3つの地域「口能登」「中能登」「奥能登」を回りました。私のような“よそ者”でも、行く先々で歓迎されたことを覚えています。 今回の災害で、限界集落はさらに厳しい状況に追い込まれています。長野から移住した小林さんが、「住んでくれるだけでありがとう」と周囲から感謝されるのも、うなづけます。 「能登や越坂の未来を背負って立つ」というと、やや重たくも感じられます。ただ、26歳の青年は肩の力がすっと抜けて、どこまでも自然体でした。 思い描いていた観光どころではない状況。それでも復興拠点としての場を提供しながら、畑にレモンを植え、マリンアクティビティの免許を取り、ほかの空き家の活用策に想いをめぐらし、人脈を新たに耕していく……。 そうした日々の小さな営みこそが、いずれ「移住」や「復興」といった“ビッグワード”の変化につながっていく。よそ者でも一丁噛みでも、小林さんの思いや行動に共感して「関わりシロ」に手を挙げる人が増えることを願っています。(野上英文) 訪れて初めて知った九十九湾の魅力(高校生の取材同行記) TSUKUMO STYLEを訪ねて最初に感じたのは、その静けさと九十九湾の美しい景色でした。「休みの日に行きたくなる場所」だと思いました。 実際に足を運んでみたからこその感想です。震災から復興の途上にあるいま、簡単に行きづらいのは少しもどかしいです。 取材に同行して特に目についたのは、道路の状態でした。大きな道路は通れるようになりました。ただ、地震の影響でところどころ波打ったり、元は2車線だったのが1車線に狭くなったり。夜のドライブでは、走る車が激しく上下する場面も数多くありました。 九十九湾には、空港から車で1時間以上かかります。震災前はその「離れていること」が逆に良かったのかもしれません。ただ、いくら素晴らしい場所でも、「気軽に行きづらい」のは、やはり大きな壁だと感じます。送迎サービスや観光地を巡回するバスなどがあれば、もっと行くやすくなると思います。九十九湾に限らず、能登の観光復興にも当てはまるかもしれません。 小林さんの移住までのストーリーも印象的でした。大学では機械工学を学んでいたのに、インターン経験がきっかけで能登へ。一つの出来事でも、人生の方向性が変わることがあることってあるのですね。将来の進路を考える高校生の私にとって、大きな発見でした。(高校2年生、野上文大朗)

野上英文(のがみ・ひでふみ、ジャーナリスト)、野上文大朗(のがみ・ぶんたろう、高校生)
野上英文 神戸出身、中学2年生で被災。2003年に朝日新聞社入社、初任地の金沢では連載『石川と阪神淡路大震災』『能登球児は、いま』などを企画・執筆した。新潟中越地震や3.11、インドネシア・スラウェシ島地震などで災害報道に携わる。2023年にユーザベースに参画、編集者・パーソナリティとして活動し、25年にはNewsPicks防災部を有志で立ち上げて減災・防災の情報発信(https://newspicks.com/topics/nogami/)をしている。著書に『戦略的ビジネス文章術』(https://amzn.asia/d/gH7QaQd)『プロメテウスの罠4』ほか。 野上文大朗 2008年、大阪生まれ。転勤族の親と幼少期から国内外で9回の転居をしてきた。現在は関東地方の高校2年生で、Junior Red Cross (青少年赤十字)の活動にも携わる。趣味はプログラミングと動画撮影。一眼レフカメラを手に能登の復興取材に同行した。