令和6年能登半島地震と奥能登豪雨によって二重被災した輪島市町野町(まちのまち)で、住民の家をログハウスで再建する“「家(うち)建てっぞぉ〜」プロジェクト”が進行しています。地元の人たちが自らチェーンソーや重機の講習を受け、ボランティアと一緒になって安価に家を建てるユニークな取り組み。その狙いや活動状況を建設工事担当の藤本海訓(ふじもと・みのる)さんに聞きました。
[取材・構成 関口威人]
「自分たちで自分たちの町つくる」思いに共感
私、藤本海訓(ふじもと・みのる)はもともと岐阜県の生まれで、建設業界で40年ほど仕事をしてきました。5年前に中能登(なかのと)町に移り住み、今回の震災も経験。「アタ」という任意団体をつくって災害ボランティアを始め、特に2024年9月の豪雨災害後は奥能登のために何かできないかと、珠洲や町野を支援に回りました。「アタ」はサンスクリット語で「さて、始まり」という意味です。ずっと仏教に興味を持ってきたこともあり、ボランティアの推進や、自然と人間に配慮した環境づくりをするという思いを込めました。
この町野では、地区で唯一の診療所だった「粟倉(あわくら)医院」が地震で全壊し、半年後につくった仮設診療所も豪雨で天井まで水が来るほど被災してしまいました。私は重機で流木の片付けや泥出しをしながら、診療所の大石賢斉(おおいし・まさなり)さんが「自分たちの手で自分たちの町をつくっていく」と語る復興への思いを聞き、人間本来の能力や可能性を生かすという自分の考えとも合致したと感じました。そこで本格的に大石さんたちの復興プロジェクトに加わり、2025年4月の「桜フェス」などの活動にも参加しました。
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重機も操る医師が守る、輪島市町野町の再建と健康──町唯一の診療所“粟倉医院”
そして秋ごろから、「ログハウス」で家を建てようというプロジェクトが始まったんです。

メンバー自らチェーンソーなどの資格取得
震災前、町野の人口は約2,000人。地震と豪雨でそのうち約1200人が地域外のみなし仮設へ、700人ほどが地元の仮設住宅での暮らしを余儀なくされました。8割以上の建物が解体されましたが、再建されることになった住宅は昨年10月時点で7棟という状況でした。
なぜこんなに再建が進まないのか。その一因は住宅価格の高騰です。震災前は1坪70万円ほどだった家が、今は坪150万円から200万円となり、小さな平屋住宅でも3000万円から4000万円かかるようになってしまいました。年金暮らしの高齢者には支援金があってもとうてい手が届かない価格。町野に「戻りたくても戻れない」状態です。
そこで、住民とボランティアが協力してセルフビルドの作業をすれば、安価で家を再建できるのではないかという発想が生まれました。“「家建てっぞぉ〜」プロジェクト”と名付けられ、大石さんを中心とする地元の人たちと、経理担当の水越直子(みずこし・なおこ)さんや建設工事担当の私など、地元の外から支援に通っていたボランティアたちがスタッフとなって動き始めました。
木材は山主の承諾を得て、地震や豪雨の被害を受けた地元の山の木を無償で提供してもらいます。その木はプロジェクトのメンバーが自分たちで切り出し、運び出します。そうすることで材料費や人件費、運搬費を削減できるからです。
実際の作業をするには重機の免許をはじめ、チェーンソーや玉掛け、足場や解体・整地に関する各種の資格を取らなければなりません。そのためには、この地域なら七尾市まで通わなければいけなかったのですが、七尾労働基準協会と調整し、町野で実技講習や試験を受けられるようになりました。講習用の車両や場所は、地元の建設業者に提供してもらっています。一方、素人には危険な作業や難しい施工は地元業者に委託し、地域循環型のなりわいの再生も目指しています。

活動資金やノウハウ、機械などの支援が全国から
これまでに延べ120人以上が講習などを受けて各種資格を取り、プロジェクトの体制が整ってきました。2025年末から2026年2月にかけて実施したクラウドファンディングでは、230人の支援者から総額約650万円の支援金をいただきました。しかし、目標金額は1200万円でしたので、まだまだ随時、支援を受け付けています。
ログハウスの設計や施工については、「BESS」ブランドでログハウスを手掛けている株式会社アールシーコアに協力していただけることになりました。伐採した木は、いったん地元の製材所に搬入して製材したあと、岐阜県のプレカット工場でログハウス用に加工してもらいます。1棟を建設するには長さ4m、直径26cm以上の丸太が160本ほど必要なので、なかなか大変な作業です。
東日本大震災の被災地である岩手県陸前高田市からは、震災以降に使わなくなった木材加工機械を能登で使ってほしいというありがたい申し出を受け、岩手まで引き取りに行きました。このように、全国のさまざまな人たちとつながっていくことも喜びの一つであり、大変に力強く、心の支えとなっています。こうした機械や車両、活動場所の提供などを企業の社会貢献として考えていただけるとありがたいです。

「ログカフェ」のボランティア間もなく募集へ
プロジェクトの一棟目として、診療所の跡地に平屋のログハウスを建設します。これは住民の「絆」再生のためのコミュニティハウスとして、カフェをメインにした「ログカフェ」となります。また、被災者住宅再建のコストをどれだけ削減できるかを確かめる実証実験の活動でもあります。
2026年4月上旬に着工し、地元業者による浄化槽の基礎工事や地盤改良工事が始まりました。さらに建物の土台となる基礎工事のあとは、いよいよボランティアの方々にも協力してもらい、みんなでワイワイ楽しく建設を楽しんでいこうと考えています。完成は2026年11月の予定です。
すでに地元の皆さんに向けたプロジェクトの説明会と意見交換会を開き、着工に向けた段取りを確認しました。住民からは自分でカフェをやってみたいという声も上がっています。単に家を建てるだけでなく、みんなで助け合う、自助の力を高める機会にもなるでしょう。被災地では例のない試みだと思いますが、成功すれば復興の一つのモデルにもなると感じています。
ボランティアの受け入れは準備が整い次第、インスタグラムなどで募集します。ぜひ一緒に「家建てっぞぉ〜」と、汗をかきましょう。

取材後記
藤本さんへのインタビューの前日は、輪島市の中心部で子育て支援団体「もちもち」の取材がありました。その代表の高出和佳(たかで・かずよし)さんが町野出身だというので、「明日は町野でログハウスのプロジェクトの取材なんです」と言ったら、「それ、たぶん僕の実家が関わってます」と高出さん。翌日、現地で確認すると、確かに木を運び込んでいる製材所は「高出製材」でした。こんなふうにつながるとは!
町野といえば「もとやスーパー」や「まちのラジオ」の奮闘が全国的に知られています。「家建てっぞぉ〜」はそれらとも連動しながら、これからまさに町の景色を変えていく重要な動きになっていくのだと確信しました。
▶シロシル能登
被災した子育て世代が安心して集える場所を——“わじま親子サポートコミュニティもちもち”の願いと実践

