能登半島地震から2年目を迎えた輪島。解体工事の音がまだ響くその街の一角に、エステサロン“*Crea*”はあります。オーナーのKaoriさんは、震災直後からお客様の体に手を当て続け、「手から伝わる心がある」という信念でリラクゼーションを届けてきました。
前回の取材から時間が経ち、新しいチャレンジを始めたと連絡をいただきました。
「当たり前のことが、この街では当たり前じゃない」と語る言葉の奥には、癒しを届けることにとどまらない、強い覚悟がありました。綺麗になることは、娯楽ではなく、明日を生きるための力になる——そう確信するからこその、一歩です。
[取材・写真・構成 伊藤璃帆子]
「少しずつ前を向くために」──お客様の変化に背中を押されて

“*Crea*”のKaoriです。これまで、被災した女性が「心の重荷を下ろせる場所」としてオールハンドのマッサージを施術してきました。地震から2年が経過し、お客様たちの心の変化を感じています。
震災後の1年は、気力も体力も極限の状態だったと思います。ですが最近は、「心身ともにリフレッシュして、新しいスタートを切りたい」という理由で来店される方が増えてきました。「そろそろ頑張ってみよう」「外へ出ていろんな活動を再開したい」って。それを聞いたとき、この場所でご自身と向き合う時間が、新たな一歩につながるんだなと。生き抜くだけで精一杯だった時期から、お客様が少しずつ前を向いてきていることを、肌で感じています。
下ばかり向いていた日々を乗り越えて、前を向き、空を見上げる。そのきっかけを、この場所で作れたらと思っています。だから、今まではストレスを流して整えることを主軸にしていた施術から、もう一歩踏み込んで、「綺麗になりたい」という気持ちにも応えていきたいと感じるようになりました。
▶シロシル能登
心の澱(おり)を流すエステサロン“*Crea*”が望む、輪島の子どもたちへの支援

そんなタイミングで要望が増えてきたのが、脱毛器の導入でした。輪島にはもともと脱毛サロンがなく、震災前から金沢まで通っていた方も多かったんです。でも、仮設から仮設への引越し、解体の手伝い、家の建て直し……自分の時間がどんどん取られて、金沢まで出るのがしんどくなってきた。「輪島で脱毛が受けられるようになると助かります」という声が、重なっていました。
「500円で、まず来てほしい」。こだわりのワンコインカウンセリング

この脱毛プランを導入するには、かなり時間がかかりました。震災のストレスで肌質や体質が変わったお客様が多いことが、とても気がかりだったんです。それでも、ご要望には何とか応えたい。だから、この脱毛プランを導入する前に、改めて機器の取り扱いと施術に必要な知識、施術のリスクについても研修を受け直すことにしました。
奥能登の医療機関は、震災と豪雨のあと、まだ十分に機能していません。何かあったとき、金沢や七尾まで出なければならないんです。だからこそ、トラブルを起こさないこと、万が一のときにしっかり動けること——それを前提に機器を選び、敏感になった肌への対応、薬を服用している方への注意点(施術のために光を当てると水ぶくれができることがある)、帰宅後のホームケアまで細かく学び直しました。
お客様の体は、震災前とは違う。そのことを、絶対に忘れないようにしようと思っています。

たとえば、花粉症の薬や痛み止めを服用していると、照射後に水ぶくれができることがある。光アレルギーの方もいる。自分では大丈夫だと思っていても、震災後に体質が変わっている方が多いんです。だから、いきなり施術して「できませんでした」では、お客様に申し訳ないと思いました。

そこでスタートしたのが、ワンコインカウンセリングです。500円で60分間。最初の30分はカウンセリングと同意書の確認をして、そのあとパッチテストとして実際の光を3ショット行います。何もなければ、最後の10〜15分はリラクゼーションのハンドマッサージをさせていただきます。

脱毛が始まったら、顔の照射後に鎮静パックをするオプションもつけています。うつ伏せで背中や足を施術している間、顔でパックができる。持って帰ることもできます。リラクゼーションと脱毛を組み合わせて、月に一度ずつ。「自分へのご褒美に」と気軽に来てほしい気持ちから、この流れを作りました。
「ママだって元気になりたい」。家族と幸せに生きていくために

「たかが脱毛」と思ってほしくないので、もう少しだけ、私の想いをお話させてください。
私はこの地域のママたちに元気になってもらいたいんです。女性が自分に自信を持てると、家庭の空気が変わります。ママだってのんびりしたい、元気になりたい。でも、子どものこと、家庭のこと、震災のことで、毎日がとても大変で、自分のことは一番後回しになってしまいがちです。
だからこそ、「ここに来たときだけは、一人の女性に戻ってほしい」という気持ちを持っています。自分に自信を持って、気持ちが前向きになれたら、お家のなかでも笑顔でいられるし、ご飯も美味しく作れるようになるかもしれません(笑) お母さんが元気じゃないと、家庭が元気にならないと思うんです。

私の家でも、この春、娘が小学校に上がります。親としては、本当に大変なんです。指定の筆箱、指定の消しゴム、決められたサイズのナップサック……それを買える場所が輪島には少ない。大型商業施設まで片道2時間かけて出ないといけない。そういう準備の負担だけじゃなく、子どもの心のケアもしなきゃいけない。自律神経も乱れがちで、頭も体も硬くなっていく。
母親だからといって、いつでも気持ちをしっかり持っていることは難しいと思います。私自身がそうなんです。先日の学校説明会で、プレハブを繋げた仮設校舎を見て、ショックで泣きそうになりました。自分が通った校舎とは、あまりに違うものだったから……。
でも、子どもたちが楽しそうにしているのを見て、すごいなと思いました。子どもにとって、学校へいく意味は、建物じゃなくて友達なんですよね。一番大事なのは、新しいことを楽しみに思える健康な心。それを、子どもから教えられた気がしました。
お客様が楽になる瞬間が、私の生きがい

前回の取材から、だいぶ時間が経過して、私たちが置かれている環境もだいぶ変わってきました。サロンも新しい機器やサービスを導入したので、ぜひ皆さんにも立ち寄っていただきたいです。
お客様のなかには、難病を抱えながら来てくださって「いつ死ぬかわからないから楽しみたい」と話してくれた方もいます。そういう人が、少しずつ外に出るようになっていく。それを見ていると、ここをつくってよかったと思うんです。
以前は慢性的な頭痛で鎮痛剤が手放せなかった方が、ここに通い始めてから薬を使わなくなって、よく眠れるようになったと言ってくれた。頭だけじゃなく、首や頭の付け根、自律神経を整えるように施術しているんですが、老廃物が流れると体全体が変わっていく。
私自身、ぜんぜん落ち込まないわけじゃない。でも、お客様が少しずつほぐれていくのを感じると、嬉しくて。喋りながら急に体が柔らかくなる瞬間がある。「今、流せたな」と思ったとき、私もホッとするんです。
仮設住宅で暮らす方は、とくにストレスが溜まっているはずです。足が伸ばせるベッドに寝転んでもらって、数時間だけでもリラックスしていただけたら。
ここで疲れを流して、帰り道は笑顔で、心も顔も空を見上げられるような、そんな場所であり続けたいと思っています。
取材後記

Kaoriさんのお話には、今の輪島の実情をそのままに伝えようとする誠実さが、言葉の端々ににじんでいました。
脱毛という新しい一歩は、「綺麗になること=娯楽」という図式から来ているのではありません。当たり前が当たり前じゃなくなった街で、少しでも当たり前を取り戻したい——そういう切実な思いから来ているのだと感じました。お客様の声があって、リスクを調べ尽くして、それでも覚悟を決めた話でした。
娘さんの入学を目前に、「お母さんが元気じゃないと家庭が元気にならない」と言うKaoriさん自身も、この街で懸命に踏ん張っているお母さんの一人です。その人が、他のお母さんたちを支えています。

