前編では、圧倒的な物量の野菜を前にして立ち尽くした東京育ちの岩城慶太郎(いわき・けいたろう)さん。
2024年1月の能登半島地震後に能登への壮大な「お返し」を考えて行動に移しつつも、支援のあり方に疑問を抱き、従来型の支援から経営視点での支援に大きく舵を切りました。「能登を一つの会社として経営する」という発想のもと、関係人口をステークホルダーと捉え、地域経済を循環させる独自のアプローチを展開しています。
前編に続き、後編では一般社団法人能登乃國百年之計(のとのくにひゃくねんのけい)副理事として取り組む新たな復興支援の形について、岩城慶太郎さんに話を聞きました。
▶シロシル能登
能登をもっと能登らしく──経営視点で考える復興の新しいかたち“能登乃國百年之計” Vol.2 前編
[取材・構成 水口幹之]
地域の経済循環を止めかねない善意
──地震後の支援活動のなかで、大きな転換点があったそうですね
発災直後から炊き出しや物資配りを多くの協力者とずっとやってきましたが、途中から「これは違う」と思うようになったんです。きっかけは、2024年春の大型連休。東京の著名なレストランが「炊き出しをやりたい。3,000食持って能登へ行く」と連絡をくれたんです。
そのとき、私は発作的に「すいません、ご遠慮いただけませんか」と言ってしまったんです。そのころは、地域の機能がようやく回復し始めたところでした。お店もやっているし、スーパーもやっているし、飲食店もやっている。しかも、そのとき避難せずに珠洲の周辺に残っていた住民は3,000人いればいいところ。3,000食持ってくるとしたら全員にいきわたりますが、そうすると地元のスーパーも飲食店も売上がゼロになりかねない。
炊き出しをやると言ったレストランの方は当然怒ってましたね。それで「もし良かったら地元のスーパーで買い物をして、その場で料理をして出してほしい。そして安くていいから、炊き出しに来る方から代金を受け取ってくれませんか?」と提案しました。
この提案の裏には、知人の料理人の存在がありました。その方は1月2日から炊き出しを始めて、来る方から代金として500円を受け取っていたんです。でも、そのお金を自分の懐に入れるのでなく、地元の生産者さんから通常の3倍の値段で食材を買い上げていた。「3倍払うから、とにかく継続してくれ。地元生産者からの食材供給が絶たれたら、私たち料理人はこの先能登で商売を再開できなくなる」。食材仕入価格を3倍にしてもらって、その代わり地元の人たちには500円を支払ってもらう。500円では黒字になるわけない。それでも彼はずっとそのやり方で炊き出しを続けたんです。
この話を伝えて、「同じように考えてみていただけませんか」と提案しましたが、結局従来通りのやり方になり、炊き出しの当日は近隣の飲食店はすべて臨時休業しました。開けてもお客さんが来ないから。いまでも大きめの炊き出しが来るときは、地元の飲食店は店を閉めています。そういう様子を見て、「なんか違う」と思い始めたんです。
復旧ではなく復興を
──支援のあり方についてどのように考えが変わっていったのでしょうか?
いままでやってきたことは「復旧」であって、これからは「復興」に向かわないといけないと思ったんです。
復旧と復興という言葉は似ていますが、大きな違いがあります。復旧は壊れた状態をもとに戻すまで。いわばマイナスをゼロにするためのもの。一方、復興は壊れた状態からより良い状態に変えていく。つまりプラスにするためのものなんです。
「水を運ぶ」とか「避難する人のためにバスを出す」というのは、言ってみれば「間に合わせ」です。例えば、家をなくした人が避難先としてホテル暮らしができるようになり、その人の生活が最低限復旧できたとしても、ホテルにいるままでは復興には向かわない。炊き出しも同様で復旧するためのものですが、炊き出し分の飲食や食材が地元商店の経済として回って、プラスになるような復興には直接結びつかないのです。
支援したい側と支援を受ける側の間には溝がある状態と言えます。支援したい側の「やってやってる感」が強いと、その溝は深まるばかりです。それでも、やってあげようとしてくれるエネルギーを止めてしまうのももったいない。ですから、そのエネルギーを地域経済の循環に取り入れる方法を考え始めました。つまり、外の人たちの支援しようとする力を借りて、地元の事業者が儲かるようにする。そうでないと、復興にはならないんです。
──具体的にはどういうことでしょうか?
炊き出しのような支援は、たしかに住民の生活費を助ける効果があります。でも地域経済全体で見ると、地域のお店はお客さんが減って売上が下がってしまう。結局、地域全体の「儲け」は増えないんです。
じゃあ本当に必要な支援は何か。それは「生活費を助ける」支援ではなく、「稼ぐ力を増やす」支援なんです。
例えば、新しい機械や設備を提供する、販売できる商品を増やす手助けをする、地域の資産そのものを増やす。つまり、「お金を配って終わり」ではなく、「お金を生み出せる仕組みを作る」方向に支援を変えていく。
「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」ような支援のあり方が必要だと気づいたんです。
能登を一つの会社として経営する──3つのステップ
──なるほど、復旧と復興で支援のあり方も変わるのですね
そうなんです。さらに、復興のための支援として、やらなければいけないことが2つあると考えました。まずは能登を知ってもらうこと。つまりはプロモーションです。震災から2年が経ち、もう地震で大変だったという話ではなく、能登の魅力や楽しい暮らしについて知ってもらう。こういう地域資源があって、こんな魅力的な人たちがいるということを知ってもらう必要があります。
そして、能登に支援、投資することが良いことだと思ってもらい、支援や投資の実行をあと押しすること。そのためには支援を受けたい人たちが、どういう支援を求めているのかを見えるようにする必要があります。支援をしたい人がいるときに、適切な事業者に取り次いで、「ここでやってください」と言えるように。
──それを実現しているのが「シロシル能登」というプラットフォームなんですね
そうです。能登を知ってもらうのと同時に、事業者が何をしようとしていて、どんな助けを必要としているのか、見えるようにするのが、能登乃國百年之計が運営するプラットフォーム「シロシル能登」です。
シロシル能登では、支援したい人が能登の事業者に直接連絡できます。もし話しの進め方や支援の具体的な内容が当事者同士で直接うまくいかない場合は、プロボノを活用して、能登と支援者の間に入って翻訳できればと思っています。
プロボノとは、専門的な知識やスキルを持った人が、それを活かして社会貢献する活動のことです。ボランティアと似ていますが、プロボノは自分の専門性を活かせる点が特徴です。例えば、ライターならば記事執筆で、デザイナーならデザインで支援する、といった形です。本来ならばプロや専門家への依頼には報酬が発生しますが、プロボノの善意でそこを無料や安価で対応してもらっています。
プロボノの方を募集する仕組みである「復複プロジェクト」(復興と複業をかけた名称、能登復興 × 複業プロジェクト)は、複業マッチングを手がける株式会社Another worksの「複業クラウド」と連携して、以前から一緒に復興に取り組んでいます。
また今後は、シロシル能登にクラウドファンディングの機能も持たせて、オンラインで寄付金を募れるようにすることを計画しています。シロシル能登は、復興に必要なヒト・モノ・カネの調達を支援するプラットフォームを目指しています。
支援したいという方には、対価としての価値を提供するのでぜひ能登を支援してほしい。能登の方には、支援の手が増える仕組みとして、うまく使ってほしいですね。
関係人口=ステークホルダー──深い関わりが生む循環
──関係人口の創出についても工夫されているそうですね
シロシル能登の活動自体が、関係人口を増やすための仕組みになっています。プロモーションが必要な能登の事業者に対して、プロボノライターの力を借りて支援する。つまり、能登の事業者はコスト0円でプロモーションできるようになるわけです。
シロシル能登では、初めて能登に来るような方々に、ライターとして記事を書いてもらっています。その際、事業者の売っているものや取り組んでいることを取材するだけではなく、「何に困っているか?」を聞いてもらうのです。するとコミットメントが急に上がります。
この仕組みは能登に関心がある方を関係人口として取り込む実験でもありました。実際、50名近くのライターさんに関わってもらい、そのうちの10名くらいは能登のリピーターになっています。普通に観光で訪れるよりもリピーター率は高いはずです。事業者やその地域と深い関わりを持つようになると、県外の人や能登をあまり知らなかった人でも、途端におもしろみを感じてくれて、また来てみたくなる、という仮説が実証できたわけです。
──能登を経営的に考えることに取り組まれていると聞きました。具体的にどういったことを考えていらっしゃるのでしょうか
私は能登を1つの会社として捉えています。私が経営者だからかもしれませんが、自分が能登を経営するならばと捉えて以降、さまざまなことの解像度が上がってきたんです。
例えば、市民は従業員ですし、株主は金融機関や自治体、お客様は観光客、仕入先は事業者といった具合です。すると、関係人口はステークホルダーなんだと気づきます。関係人口創出は、能登に関わるステークホルダーを増やしていくことになります。それは会社のステークホルダーが増えると従業員が増えるように、能登で暮らす人を増やすことにもつながります。
年間40人の起業家を育てる──売上を伸ばす3つの方法
──能登乃國百年之計では、起業支援型の地域おこし協力隊を募集、受け入れをしていますが、なぜいま起業支援型で募集しているのでしょうか
これも能登を会社に見立てたときの経営的な視点で考えています。能登の地域経済が循環するには、能登という会社の売上をあげていく必要があります。会社経営において、売上を増やす手段は3つです。
1つ目は、従来ある既存のビジネスで売上拡大を狙う。つまり、能登の既存の事業者を支援してビジネスを拡大させていくことです。
2つ目は落ち込んでいるビジネスを下支えする。これは、能登で既存の事業を手放さざるを得ない事業者から、新しい会社や人材へと事業を引き継いでいくことになります。
3つ目は、新規事業を開拓する。つまり、能登で新しく起業する人たちを支援することです。
例えば製造業だとしたら、既存の製品をいかにたくさん売るか、が重要ですよね。それと同時に、古い製品はどんどん売上が落ちていきますが、ロングセラーになるように下支えしていくことも求められます。さらに新しいマーケットを切り拓くために新しい製品を投入する。これらが売上を伸ばすための3つのやり方で、これ以外ないんです。経営のごく基本的な考え方で、能登でも経営者としてやるべきことをやっているだけなんです。
私たち能登乃國百年之計では、この3つの方針に沿って、年間40人の起業家を育成することを目標に掲げています。起業支援型の地域おこし協力隊を受け入れることで、能登で新しく事業を始める人たちを増やし、地域経済全体の売上を引き上げていきたいと考えています。
──なぜこうしたことに取り組んでいるのでしょうか
能登乃國百年之計には、「能登を、能登らしい能登にするために」という言葉があります。能登という地域をもっと能登らしく。能登の方には「より豊かな」人生を送ってほしい。地域で経済循環が回った先に、能登らしい生活を維持できることがひとつの豊かさだと考えています。ですから、シロシル能登を通じて、能登らしい経済循環を生みだせたらと思って取り組んでいます。
でも原点は、最初におばちゃんに大根や白菜をもらったから、ということに変わりはないですね。
──最後に、能登との関わり方について、あらためてお聞きできますか
能登を支援したい個人や企業には、まずは関係人口になってほしいと思います。シロシル能登を見て、支援したい事業者や課題を知って、実際に支援してもらう。実際に来てもらって、なんなら住んでもらいたいです。そして、能登の方にはシロシル能登というプラットフォームをうまく活用してもらえたらうれしく思います。
▶シロシル能登
能登をもっと能登らしく──経営視点で考える復興の新しいかたち“能登乃國百年之計” Vol.2 後編
取材後記
能登では有名な岩城さんですが、素朴な動機から移住、復興支援へとつながる流れははじめて伺ったので、とても新鮮でした。
震災復興というとどうしても支援的文脈で捉えがちですが、会社経営のように考えるのは、経営者ならではの視点であると同時に、問題がより整理されるように感じます。
能登半島地震の発生から2年を迎えたいま、能登の復興はまさに正念場といえます
今後の能登乃國百年之計と岩城さんの活動に期待したいです。

