ロゴ
画像

ナナメの関係が繋ぐ能登×こどもたちの未来と二つの関わりシロー“Chance For All”の学生ボランティアが想うこと

特定非営利活動法人Chance For All

更新日:2025年6月24日

学生ボランティアとして能登のこどもたちに寄り添う日々

 私、江花 恵(えばな・めぐみ)が所属する特定非営利活動法人・Chance For All(以下、CFA)は、東京都足立区を本拠とし、「生まれ育った家庭や環境に関わらず、だれもがしあわせに生きていける社会の実現」をビジョンに、学童保育事業など、「こどもたちのため」に繋がるさまざまな活動を行う団体です。  私が初めて能登の地を訪れたのは、2024年の夏でした。その約1年前より、CFAの学生チームに所属して、足立区のあそび場づくり事業などを運営していました。そんな折、CFAが能登の支援を始めたことを知り、自分も現地に行ってみたいと思ったことがきっかけです。そして、2025年2月からは大学を1年間休学し、能登に移り住んで学生ボランティアとして活動をしています。  2024年元日に発生した地震の爪痕が色濃く残る街並みのなかで、こどもたちは懸命に日常を取り戻そうとしていました。  特に印象的だったのは、こどもたちのあそびの変化です。私が能登に来た2024年の夏頃のこどもたちには「地震ごっこ」のようなあそびを通して、揺れの恐怖や不安から脱却しようとする姿が見られました。それは、こどもたちなりの心の整理でした。  しかし、時間が経つにつれて、そうしたあそびは影を潜め、最近では、鬼ごっこやボール遊び、絵を描くことなど、ごく普通のあそびに夢中になっている姿が目立つようになりました。  もちろん、心の奥底にはまだ癒えない傷があるのかもしれません。それでも、目の前のあそびに没頭することで、こどもたちは少しずつ日常を取り戻し、未来へと歩み始めているのだと感じています。

「プレイカー」が運ぶこどもたちの笑顔と「ナナメの関係」からの学び

 そんなこどもたちの笑顔を支えているのが、CFAの活動の大きな柱である「プレイカー」の存在です。もともとは冷凍車として活躍していた車両が、CFAの手によって、こどもたちの夢を詰め込んだ移動式のあそび場へと生まれ変わりました。

こどもたちに大人気のプレイカー。冷凍車を改造したもので、能登各地を駆け回っている(2025年5月6日撮影)

 車内には、積み木、コマ、けん玉といった定番のあそび道具から、折り紙、段ボール、工作道具まで、こどもたちの創造力を刺激するさまざまなアイテムが所狭しと並んでいます。プレイカーが地域にやってくると、こどもたちは歓声を上げながら集まってきます。狭い車内は、すぐにこどもたちの熱気と笑顔で満ちあふれます。

取材当日にその光景は撮影できなかったが、プレイカーにはたくさんのこどもたちが集まって落書きをしていく(2025年5月6日撮影)

 プレイカーの魅力は、単にあそびの場を提供するだけではなく、高い機動力を活かして、能登のさまざまな地域を巡回できることにあります。仮設住宅の集会所、避難所となっている公民館、あるいは公園の一角など、こどもたちが集まる場所であればどこへでも駆けつけます。プレイカーの存在は、まだ生活基盤が安定しない家庭のこどもたちにとって、安全で安心して遊べる貴重な居場所となっているのです。地域の方々にとっても、こどもたちの笑顔を見る希望の光となっているのではないでしょうか。  2025年の2月から能登で学生ボランティアとして活動するようになって、(一部のサテライトキャンパスなどを除き)大学のないこの土地で、学生という存在が意外なほど求められていることに気づきました。「若い人が来てくれると、なんだか活気づくね」「こどもたちが楽しそうで、私たちも嬉しいよ」と、温かい言葉をかけていただくたびに、自分がここにいる意味を改めて感じます。  こどもたちは、私たち学生を年の近いお兄さんやお姉さんのように慕ってくれます。一緒に遊んだり、宿題を見たりするなかで、彼らの成長を間近で見守ることができるのは、何物にも代えがたい喜びです。

輪島市のマリンタウン公園であそび場の準備をする江花さん。準備をしている最中にもこどもたちが江花さんに寄ってきて、慕われているのがよくわかる光景もあった(2025年5月6日撮影)

 また、私が最も大切だと感じているのは、さまざまな層の方々と、年齢や立場を超えた、「ナナメの関係」を築くことです。こどもたちの純粋な笑顔、CFAスタッフの熱意、地域のおじいちゃんやおばあちゃんの温かい眼差し……、大学の講義室では決して学ぶことのできない、多様な価値観に触れることで、私の視野は大きく広がり、人として多くのことを学べているように感じています。

長期的な視点と、持続可能な仕組みづくりへの挑戦──能登らしい子育て環境を目指して

 能登の復興への道のりは、決して平坦ではありません。地震発生から1年以上が経過し、ニュースなどで取り上げられる機会も減少しつつあります。どうしても、能登への関心は薄れていきがちです。最初は多くの支援が寄せられても、時間が経つにつれて減少していくのは、過去の災害の例を見ても明らかです。CFAの活動も、例外ではありません。  だからこそ、今、私たちが真剣に取り組むべきは、地元の方々自身が主体となって、こどもたちのための活動を持続的に運営していけるような仕組みづくりです。こどもたちの笑顔は、地域にとって何よりも大切な宝物です。その宝物を守り続けるためには、外部からの支援に頼るだけではなく、地域のなかで自立した活動体制を築く必要があります。  もちろん、こどもたちや保護者の皆さんから直接お金をいただくというのは現実的ではありません。しかし、長期的な活動を続けるためには、何らかの形で収益を生み出す必要がある。そこで、CFAでは、さまざまな可能性を模索しています。例えば、地域企業との連携、イベントの企画・運営、あるいは、(後述するような)企業の研修プログラムの導入なども視野に入れています。 地元の方々のなかには、「2023年12月31日の元の状態に戻すだけでは意味がない。地震前の状態以上に、能登らしい、豊かな子育て環境をつくっていくんだ」という強い思いを持っている方がたくさんいます。その思いに共感し、CFAは「のと復耕ラボ」(*)と連携し、森のあそび場をつくる計画を具体的に進めています。豊かな自然のなかで、こどもたちが自由にのびのびとあそび、様々なことを学び、人と繋がることが出来る場所。それは、能登の未来を担うこどもたちの心を育む、希望の光となるはずです。 (*)一般社団法人のと復耕ラボ:輪島市三井(みい)町を中心に復興活動や、豊かな里山づくりの活動を行う。民間ボランンティアセンターの運営や古材レスキュープロジェクト、森づくりプロジェクトなどを実施。CFAと協働して、森のあそび場づくりプロジェクトも行っている。 https://sites.google.com/view/noto-fukko-labo/about  能登の皆さんには、これからも変わらぬ温かい眼差しで、こどもたちを見守り、私たちのような外部からの人間を受け入れていただけたら嬉しいです。皆さんの長年培ってきた知恵や経験、そして何よりもこの土地を愛する気持ちは、私たちの活動にとって、何よりも心強い支えとなります。私たちに皆さんの知識や経験をわけていただけたら、とてもありがたいことです。

学生の力、そして未来への共創──能登からのメッセージ“二つの関わりシロ”

 能登の復興には、多くの課題が山積しています。しかし、こどもたちの笑顔は、復興の大きな原動力となり、未来への希望を照らしてくれると信じています。私たちは、微力ながら、復興の力になりたいと心から願っています。  そして、能登のこどもたちの笑顔のために、持続可能な活動のために、私たちは二つの「関わりシロ」を望んでいます。  一つ目は、「学生のプレイワーカー」として、こどもたちのロールモデルになってくれる存在です。  こどもたちにとって、学校や家庭以外の、多様な大人との出会いは、視野を広げ、将来の選択肢を増やす大きなきっかけになります。「こんな大人もいるんだ」「将来、こんな大人になりたい」と思えるような、魅力的なロールモデルが多ければ多いほど、こどもたちの未来は豊かになるでしょう。私たち学生は、こどもたちにとって、少し年上の頼れるお兄さんやお姉さんとして、あそび相手になったり、勉強を教えたり、時には人生の先輩としてアドバイスを送ったりすることができます。  二つ目は、CFAの活動を持続可能なものとするための「企画づくり」に協力してくれる方です。  例えば、企業の研修の場としてプレイカーを活用することで、地域貢献と企業の社会的な責任(CSR)活動を結びつけ、新たな収益モデルを構築していくといったアイデアも考えられます。また、能登の豊かな自然や文化を活かした体験プログラムを開発し、都市部の親子連れなどを呼び込むことで、地域経済の活性化にも貢献できるかもしれません。こどもたちのための活動と、社会のさまざまなニーズを結びつけるような、斬新な発想を持つ方々の力を、私たちは必要としています。 私たち学生にとって、この活動は座学では決して味わえない「ゼロイチ」を生み出す貴重な経験の場です。何もないところから、こどもたちが喜ぶあそびを企画したり、イベントを運営したりする創造性。こどもたちのキラキラした笑顔を間近で見守る喜び。地域の方々との温かい繋がりを通して感じる地域社会の一員としての実感。「ナナメの関係」の中でのこれらの経験は、私たち自身の成長にとって、かけがえのない財産となり、将来社会に出る上での大きな糧となるはずです。  この地での貴重な経験を通して、自分自身を成長させ、能登のこどもたちの未来を一緒に創っていく。そんなかけがえのない時間を、私たちと一緒に過ごしてみませんか? 一歩踏み出す勇気が、きっとあなたの人生を豊かなものにしてくれるはずです。  能登で、皆さんとお会いできる日を心待ちにしています!

CFA職員の川合福太郎さん(右)と江花 恵さん(左)(2025年5月6日撮影)

CFA 学生ボランティア 江花 恵プロフィール

 日本女子大学人間社会学部社会福祉学科在学。大学の授業をきっかけにさまざまな場でボランティアをしていた際にCFAと出会う。東京都足立区の公園で学生ボランティアがこどもたちを見守りながら思いっきり遊ぶ「パークリーダー」事業の立ち上げなどを経験。  能登のあそび場活動には、2024年7月から月1回程度で参加。大学2年生の終わりから1年休学することを決め、2025年2月から能登で学生ボランティアとして活動中。多様な層の人と年齢差関係なく接する「ナナメの関係」を体験中。

事業者プロフィール

特定非営利活動法人Chance For All

代表者:代表理事 中山勇魚 所在地:東京都足立区関原3-15-4 設立:2013年4月 ビジョン:「生まれ育った家庭や環境に関わらず、だれもがしあわせに生きていける社会の実現」 活動目的:学童保育の運営、小学生の放課後に関する調査・研究、居場所づくりやあそび場の運営

取材後記

取材した場所は、まだ震災の爪痕が残っていた輪島市内のマリンタウン公園。ゴールデンウイーク最終日、隣接している仮設住宅から、こどもたちがやってくる。こどもたちは、江花さんたちを見つけると、照れ隠しで、憎まれ口をたたきながらも、一緒に遊んでほしそう。「すごい慕われているんだろうな」と感じるのに時間はかかりませんでした。  江花さんはしっかりした受け答えが印象的で、この能登でとてもいい経験をしているんだな、とすぐにわかりました。ご本人も自身の成長を感じているようでしたが、その姿を能登のこどもたちも見て育つ。こんな連鎖が続いていくことを願ってやみません。  児童・生徒の自殺者数の増加など、日本のこどもたちを取り巻く環境は厳しさを増しています。国際児童基金(unicef)が2025年5月に発表した「レポートカード19」では、先進国・新興国に住む「子どもの幸福度」をランキングしていて、日本のこどもの精神的幸福度は36ヵ国中32位とされています(身体的健康は1位、学力・社会的スキルは12位で総合14位)。  こどもたちの健全な成長における持続可能な支援の仕組みがつくられていくことで、能登のこどもたちの精神的幸福度が向上していく…  CFAそして江花さんの取り組みを応援しています!

和(ひとし)

 青森県出身。千葉大学卒業後、金融機関に勤めるかたわら、ソーシャルフリーランスとして活動。プロボノとしてさいたま市や市川市などでウォーカブルなまちづくりに関わる活動や、青森県でローカルの事業者と接していくなかで、まだ光が当たっていないプレーヤーに少しでも光を当てたいと願い、インタビューライターとしても活動を開始。

注目の記事