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世界一のイワシ、能登の漁業が100年以上続く仕組みを目指す“藤田 聡”の挑戦

田川漁業

更新日:2025年5月19日

能登のイワシは世界一! 能登の漁業が100年以上続く仕組みを作りたい

 能登のイワシは世界一と確信しています。その背景には、立山連峰の恵みを受けた富山湾の水質、代々受け継がれてきた漁師たちの技術、そして経営努力が息づいています。鮮度と水質が最も重要とされるイワシを一口食べていただければ、その差を実感していただけるでしょう。  私、藤田 聡(ふじた・さとし)は2025年2月末まで東京の外資系IT企業に勤務していました。コロナ禍で一歩も家から出ず、オンライン会議続きだった際は、自分の役割を演じるロボットのようだと感じてしまうこともありました。しかし、田川漁業の田川長蔵(たがわ・ちょうぞう)さんと出会い、能登の暮らしに触れるうちに、自然とのつながりを再認識し、心の豊かさを取り戻すことができました。  近年、日本では、都市への一極集中が進み、規模の効率性ばかりを重視する社会システムになっています。かつて憧れの職業だった漁師も、今では「大変」「稼げない」といったイメージが先行し、地方の若者は都市へ“憧れ”を抱き流出しています。このような社会では、自然とのつながり、自然と共に生きる生産者とのつながりが感じづらくなると危惧しています。  漁業が大変で稼げないという誤解を解き、その本来の魅力を伝えることで、漁業を価値に見合った商売へとアップデートさせたい。そして、漁業をよりカッコよく、稼げる仕事に変えていきたいと考えています。そのために、まずは能登をモデルケースとして、人々を呼び込み、持続可能な漁業の仕組みを構築することを目指しています。

能登高校にて「水産データ✕Tableauハンズオン」についてゲスト講義する藤田さん “能登の高校生にも漁業の面白さを伝えたい” (撮影日:2025年5月)

漁師はかっこいい。そして儲かる。

 今後の事業立ち上げに向けて、現在は田川漁業に住み込みで、主に次の3つの課題に向き合っています。

1. 「担い手」の確保

 能登の漁業を持続可能なものにするためには、まず「担い手」が必要です。田川漁業では従業員15人のうち7人が外国人労働者であり、短期的な雇用形態です。また、中核を担うメンバーも将来的には金沢などへ転出するかもしれません。そのため、漁師の魅力を伝え広め、儲かる仕組みを作ることで、人材を確保していきたいと考えています。さらに、「ここなら長く働けると思える環境づくり」も併せて検討中です。

2艘の船で囲い込む定置網漁の様子。漁業では仲間同士の連携が不可欠

2. 高品質/高価格の販売戦略

 田川漁業では、陸上げしてから箱詰めするまでのスピードを重視し、自ら選別、箱詰めすることで鮮度を保ちます。さらに、自ら販売までを担当するため、鮮度に影響する氷の量やポンプでの水揚げなどにもこだわっています。なかなか鮮魚事業まで行う漁師は少なく、田川漁業のイワシは日本一の鮮度といえるのではないでしょうか。この品質の高さに見合う価格で販売しようとすると、市場より高価格での取引になります。そのため、この価格に納得してもらえるような売り方、例えば、魚が届くまでのストーリーを共有するなどの販売方法を検討していく必要があると考えています。

田川漁業が水揚げしたイワシ。夜中に漁獲し、帰港次第、鮮度を維持したまま箱詰め

3. 震災によるサプライチェーンの変化

 震災の影響で漁港から市場までのサプライチェーンに変動があり、それに伴い田川漁業の物流や在庫管理も影響を受けました。具体的には、蛸島(たこじま)から市場までの定期便が途絶え、個人によるチャーター便の手配が必要となっています。現在、日々の販売価格の予測、運賃などの原価計算、梱包資材の在庫管理などは田川さん個人に依存していますが、この田川さんの知見をシステム化することで、より効率的なオペレーションを目指し、業務効率化と災害へのレジリエンス向上に繋げたいと考えています。

共に能登の漁業を盛り上げてくれる仲間を募集!

能登の関係人口を増やしたい

 2025年夏ごろに新たな事業の立ち上げを目指しています。現在考えているのは、関係人口の増加を目的とした、企業もしくは個人向けの体験型プログラムです。このプログラムでは、能登の生業や食文化に触れてもらい、どこで暮らしながらも継続的に能登の生産者と繋がってもらうことが狙いです。また、能登の魚の高い品質を認めてもらえる販路の拡大にも取り組んでいきたいと考えています。  読者の皆様には、ぜひ体験型プログラムにご参加いただき、能登の魚を味わっていただきたいと思います。また、事業立ち上げに際し、研修プログラム策定の右腕となる方、Webサイトの制作・運用を手伝ってくださる方、日本の水産業に精通しているアドバイザーも募集しております。

田川漁業のここがすごい!「味に責任を持つ」

 私は震災後、株式会社雨風太陽の高橋博之(たかはし・ひろゆき)さんの紹介で田川さんと出会いました。当初は、ECサイトへの出店をプロボノとして支援していました。その後、田川さんの人柄と技術力に惹かれ、能登の漁業の課題に本格的に取り組むことを決意しました。2025年2月に外資系IT企業を辞め、現在は東京と能登で二拠点生活を送りながら、事業立ち上げの準備を進めています。   田川漁業は、魚を獲ることだけにとどまらず、獲った魚が消費者の食卓に上るまでの品質管理を徹底しています。通常、水産業の流通プロセスでは、仲卸業者や加工会社を介して全国各地の市場に出荷されますが、田川漁業では、漁獲、箱詰め、価格交渉、出荷を自社で完結しています。これにより、短時間で消費者に魚を届けられ、日本一、世界一のの鮮度を保つことができます。また、最先端技術を活用し、網に魚群探知機を取り付けることで効率的な漁獲を実現しています。

船上では網に取り付けた魚群探知機からデータを受信

 さらに、巨大な製氷機の導入により、船上から梱包まで常に氷を使い鮮度を保ち、また水揚げ時にフィッシュポンプを使うことで魚に傷をつけない工夫をしています。何より、自前の販路を持つことで、クレームを含めたお客さまの声を直接聞けるため、常に進化を続けることが大きな差別化につながっています。

獲ったイワシをすぐに氷漬けにする光景

事業者プロフィール

(準備中)

代表者:藤田聡


田川漁業

代表者:田川長蔵 所在地:石川県珠洲市

取材後記

 取材前に藤田さんと打ち合わせを行った際、「能登の魚は世界一、そして漁師がかっこいいんです」と漁師への尊敬の念を語ってくれました。東京のIT企業で働いていた藤田さんが、ここまで惚れ込んでいる理由が気になり、能登に向かいました。田川漁業の漁師の方々にもお会いしましたが、皆さん遊び心があり、気の利く方々で、突然訪問した私を温かく迎えてくださいました。  お土産に頂いたイワシは、とても脂がのっていて度肝を抜かれました。味が絶品であることはもちろん、藤田さんや田川さんの顔、能登の風景まで思い浮かび、何とも特別な感情が湧いてきます。この体験をぜひ皆さんにも味わっていただきたいと思います。  これまで、ふるさと納税の返礼品としてボタン1つで地方の美味しい特産品を頂いていました。しかし、その特産品を獲る人は年々減少しており、将来的には食卓から消えてしまうかもしれません。この先も自分や家族が美味しい魚を食べられるように、まずは自ら魚を獲る体験をしてみるのもよいと感じます。  あらためて、藤田さんは2025年夏ごろに体験型プログラム事業の立ち上げを目指していますが、立ち上げ前から相談は受け付けているそうです。住むところの手配は、藤田さんが「なんとかする」と力強くおっしゃっていましたので、能登の魚にご興味のある方、藤田さんの取り組みにご興味のある方は、ぜひ連絡してみてください。

取材の様子。田川さんのオフィスにて。左からライター、田川さん、藤田さん (撮影日:2025年5月)

みずさわゆうな(一般社団法人能登乃國百年之計 運営スタッフ)

 東京都出身・在住。東京のコンサル会社に勤務しながら、プロボノとして当社団の運営に関与。  能登へ来るたびに、季節の花・食べ物に癒されている。今年の楽しみは能登でブルーベリーや梅を採ること。

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