逆境を乗り越え、能登の観光を牽引する──能登金剛遊覧船・木谷茂之さんの挑戦
今回取材をさせていただいたのは、志賀町富来(とぎ)の景勝地・巌門(がんもん)を巡る「能登金剛遊覧船」の木谷(きだに)さんご夫婦です。
戦後間もない1951(昭和26)年に創業し、70年以上の歴史を持つ遊覧船事業を率いる木谷さんに、震災からの復興、そしてこれからの能登の観光への思いを伺いました。
津波を経験し、それでも「やめるわけにはいかない」と決意

志賀町富来(とぎ)で、巌門クルーズを運営している能登金剛遊覧船の木谷茂之(きだに・しげゆき)です。
震災当時は家族で初詣に向かう車中だったんです。
しばらく避難所生活になると思い、荷物を取りにひとまず自宅に戻ったんです。
自宅に戻ると家中あちこちひっくり返っていて、とても住めない状態でした。
とにかく布団だけ持って行こうと布団を引っ張り出して、外に出たら、目の前に津波が押し寄せてきていたんです。
あれ以上の波が来ていたら、今生きていなかったかもしれませんね。
そこでは、九死に一生を得たものの、2隻の遊覧船は無事ではなかったんです。
50メートルも流されて「終わった」と思いましたね。
そんななか、私たちの支えになったのが全国の皆さんからの温かい言葉でした。
SNSでの応援の声や、「ここでやめさせるわけにはいかない」という皆さんの思いが、本当に嬉しかったです。
民間企業として資金繰りなどには苦労しましたし、できることは限られていましたが、多くの方々の気持ちに応えたいと強く思いました
震災後、遊覧船の再開できたのは2024年の7月ですが、直後の9月21日〜23日には能登が集中豪雨に見舞われるなど、まさに「散々たる状況」だったと思います。
それでも皆さんからいただいた声を支えとエネルギーにして365日休まず、二人で営業しているんです。
「震災を乗り越えた能登」をストーリーとして伝える
2024年1月の震災から1年半が経ち、能登は復興のフェーズに入っているところも多いんです。
私たちの目標は、能登金剛遊覧船はもちろん、能登全体の観光を盛り上げることなんです。
今、能登に来てくださるお客様は、やっぱり能登の地震について聞きたいという方も多いです。
私たちは、単に景勝地を案内するだけではなく、能登半島地震で何が起こり、どのように乗り越えてきたのかというストーリーも伝えています。
パネルなどを使って当時の状況を説明することももちろんあります。
でも、焦点はあくまで「これからの話」です。
震災を経験し、それでも前向きに歩む能登の人々の姿を通して皆さんに能登の現状と未来を感じてもらっています。
しかし、実際にお客様が戻ってきているかというと、震災前(年間約4万人)、コロナ前(年間約5万人)に比べると、まだ半分ほどの約2万人にとどまっているのが現状です。
それでも「止まっていてはいけない」と、さまざまな取り組みを進めて震災前の人数に戻そうとしているんですよ。

目標達成に向けた新たな挑戦:学習スタディツアーとインバウンド誘致
新たな取り組みとして学習スタディツアーを企画しています。
学研さんとのコラボで、首都圏の親子をターゲットに募集しています。
単に地震の状況を学習するだけではなく、震災と共に生きる能登の人々の、震災前から続く文化や暮らしを伝えることが目的です。
せっかく来てくださるので、能登の魅力である里山里海の素晴らしさも伝え、地震のイメージを払拭し、次のステップに繋げていきたいですね。
船上での語り部やお店でのパネルを使った説明も交えながら、能登の「今」と「これから」を伝えています。
もう一つの取り組みは、インバウンド(訪日外国人観光客)の受け入れ強化です。
金沢には多くのインバウンドの観光客が来ていますが、能登はまだまだ少ないのが現状です。
公共交通機関の不便さがネックなんです。
最寄りの駅から路線バスで1時間もかかりますし、言語の壁もあります。
現状は石川県の専門家派遣制度を活用し、海外の方が何に興味を持つのかを深く掘り下げながら、金沢からの動線づくりと魅力的なコンテンツづくりを進めています。
語り部として、能登の希望を次へ繋ぐ
私自身も「今行ける能登ツアー」で語り部活動を行っています。
県の代表として中部ブロック大会に出場したとき、私が被災当時の状況や、それでも前向きに頑張ろうとする能登の人々の姿や、女性部の皆さんが被災後もLINEで力強い言葉を送り合っていたことを語ると、会場全体がシーンとなり、一つになったように感じたんです。
この経験から、能登の状況や人々の思いを県外の人々に伝えることの重要性を再認識しましたね。
「私たちにしか分からないこと、私たちだから伝えられることがある」と思いこの活動を行っています。
復興を阻む壁と、新たな可能性
最近耳にした状況をお話すると、お客様は志賀町まで応援に来たいと思っていても、交通の便が悪くて足踏み状態になっているんです。
レンタカーで来られた外国人の方も、震災後だけでも10組ほどはいましたが、交通網が改善されれば、もっと多くのお客様を呼び込めるはずなんです。
また、「もう行って大丈夫なの?」「状況がまだ分からない」といった声も多く、能登全体の観光PR不足も課題だと感じています。
さらに、若い人材が少ない能登において、震災を機に新たな人材を発掘することも喫緊の課題です。
私たちも365日休みなしなので、助けてくれる人がいれば些細なことでも本当に助かります。
以下のような方にぜひ手伝っていただきたいです。
・能登金剛の魅力を再発見してくれる方
・売店周りのお客様の場所づくりを手伝ってくれる方
・売店のお手伝いをしてくれる方
・インバウンド向けの戦略を一緒に考えてくれる方
・英語での魅力的な商品説明を考えてくれる方
他にもやらなければならないことはたくさんあるので、気軽に「私はこれができるんですけど、何か役に立てないですか?」と言ってくれたら嬉しいです。

地震があったからこそ見えた「光」
地震があったことで、いろんな意味で全国から注目を浴びるようになりました。
取材や、外部の方々と繋がれる機会が増えたのは嬉しいことなんです。
報道関係の方々にも感謝していますし、私たちの思いを伝えることができていると感じています。
次の世代へ、能登への思いを繋ぐ
みなさんに1番お願いしたいのは、まずは能登へ来て、今の状況を直接見て、感じてほしいということです。
そして、もし可能であれば、私たちの活動を手伝ってくれる仲間になってほしいです。
能登の魅力を共に発掘し、次世代に伝えていくために、ぜひ力を貸してください。
いつでもご連絡をお待ちしております。
取材後記
透明度の高い巌門の海をバックに素敵なお店と素敵な木谷さんご夫婦にお会いできて、とても嬉しかったです。
震災で「もうダメだ」と思ってからの一歩を踏み出すには想像を超える苦労とお二人の努力があったのだなとお二人の声を聞いて改めて感じました。
震災後の女性部のLINEでのやり取りで女性の強さを知ったというお話を聞いて、地域の女性の強さはもちろん、逆にお二人の行動や言葉が地域の皆さんの支えになっているのだろうと感じました。
取材後に木谷さんに作っていただいた塩ソフトクリームは絶品でした。
皆さんも遊覧船に乗ったあとには必ず食べてくださいね!

改めまして取材にご協力いただいたお二人、本当にありがとうございました。
最後に皆さんにお願い。
読者の皆さん、最後まで読んでいただきありがとうございます。
「行動で応援すること」が何よりもお二人の助けになると思います。
木谷さんの助けになれることはないか探してみてください。
Instagramをフォローして、「自分はこれができるぞ」とDMしてみてください。よろしく頼みます。

