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カレーとキックボードと恋路の海──能登で挑む僕の物語“恋路アルバカレー”

恋路アルバカレー

更新日:2025年8月27日

 能登半島の静かな海辺にある恋路(こいじ)海岸。その名の通り、どこかロマンチックな響きを持つこの地に、遊び心と地域愛から生まれたユニークなご当地グルメがあります──その名も「恋路アルバカレー」。
 震災を乗り越え、地域を元気にしたいという思いから生まれたこのカレーは、能登町の新たな名物として注目を集めています。今回は、その誕生の背景や、思いを店主の三船涼圭(みふね・りょうけい)さんに聞いてきました。

「なんでカレー? なんで能登?」──キックボードでたどり着いた僕の居場所

 どうも、能登町の恋路(こいじ)海岸で「恋路アルバカレー」の店主をやってます、三船涼圭(みふね・りょうけい)です。
 出身は関東だけど、今は石川県・能登町で、カレー作りに全力を注いでます。

「えっ、なんでカレー? なんで能登?」
 よく聞かれます。だから今日は、その理由を話してみようと思います。
 僕自身のこと、震災と復興のこと、そしてこの町や海の魅力について。
 もし今、何かに迷っている人がいたら──この話が、ちょっとでも背中を押すきっかけになったら嬉しいです。

キックボードで日本一周──「まず行動する」が僕の流儀

 高校卒業後、僕は「キックボードで日本一周」に挑戦しました。
 そんな旅、周囲には驚かれるし、止められもしたけど、それでもやると決めたのは「やりたいことがあるなら、まず行動する」というポリシーがあったから。

 車じゃない、電車でもない。ただのキックボード。
 一日数キロしか進めないこともあるし、雨の日なんか本当にしんどい。だけど、旅の途中で出会った風景や人々、言葉のひとつひとつが僕の心に深く残っています。

 その旅で出会ったのが、今僕が暮らす能登町。
 キラキラ光る海、素朴で温かい人たち、そして地域に関わる活動をしていたAさんとのご縁で、ここに移住することを決めました。

 僕の人生は、「行動した結果」でできている。
 思い切って動いてみたからこそ、今があるんです。

キックボードの旅(実は日本一周した後、2023年にオーストラリアでも走ってました。メルボルンからケアンズまで大陸縦断。写真はオーストラリアでの1枚)

移住と震災──僕にできることは何か?

 能登に移住してすぐに、震災が起きました。
 インフラは止まり、商店も閉まり、町は沈黙に包まれました。そんな状況のなか、僕が考えたのは「ここで、自分にできることは何だろう?」ということ。

 地元の人も、復興支援で訪れた方々も、食事をする場所がなくて困っている──そんな姿を見て、「だったら僕がつくろう」と決めました。

 どうせやるなら、自分が一番好きなカレー屋にしたい。
 旅の途中で何度も食べた金沢カレー。濃厚なルーに、キャベツとサクサクのカツ。食べるだけで元気が出る、不思議な一皿。

 「僕が作るならアルバカレーだ」──そう思って、小松の本店に連絡し、その日のうちにお店へ向かいました。
 飲食業の経験はまったくなかったけど、勢いでお願いしたら「明日朝8時に来い」と言われ、気づいたら翌日には厨房に立っていました。

 修行は厳しかったけど、学ぶことはたくさんあった。
 カレーの作り方だけじゃない。人への向き合い方、店のあり方、地域とのつながり──全部が、今の僕をつくる大切な学びになりました。

 そして僕は、「能登でカレー屋を開こう」と決めたんです。

恋路海岸近くで営業する恋路アルバカレー。もとは喫茶店だった2階を改装して営業中

恋路アルバカレー──ただの食堂じゃない、“集まる”場所に

 2024年9月、能登町に「恋路アルバカレー」をオープンしました。
 金沢カレーをベースに、定番のカツカレーから、ちょっと変わった「ヤバい」カレー(現在は「ヤバかった」カレーに改名)まで、幅広く取りそろえています。

 でも僕が目指したのは、「ただの飲食店」ではなくて。ここに来た人同士がつながる場所。笑える場所。ちょっと歌える場所(カラオケもあります!)。そんな居場所にしたかった。

 お客さんの中には、震災で家を失った人もいるし、将来に不安を感じている人もいる。そんな人がカレーを食べて、少し元気になってくれたら──それだけで、やっている意味があると思えるんです。

 営業後の僕の習慣は、恋路の海へ足を運ぶこと。
 静かな波を見ながら、「今日もよくやったな」と思えるその時間が、何よりのご褒美です。
 この海に出会えたことが、僕にとって何よりの財産です。

夕日が沈む恋路海岸で、地名の由来にも関わる弁天島を背景にたたずむ三船さん

若者が集まって──アルバ団結成‼

 恋路アルバカレーには、地元の若者や移住してきた人が自然と集まってくる。
 「何かやってみたい」「この町を良くしたい」──そんな想いを持つ仲間たちと、僕は「アルバ団」というチームをつくりました。

 アルバ団では、地域の課題を「クエスト」に見立てて、一緒にチャレンジしています。

  • 空き家片づけクエスト
  • 海岸清掃クエスト
  • 町の案内所づくりクエスト

 ちょっとゲーム感覚ですが、本気です。楽しみながら地域に向き合って、真剣に挑戦しています。
 そして将来的には、この仕組みを「冒険者ギルド」として広げていきたい。誰もが参加できる、わくわくする町づくりを目指しています。

冒険者ギルドイメージをAIにて作成

僕の原点──「迷ったらまず行動する」

 人生には、選択と迷いがつきものです。
「都会に戻って、もっと安定した仕事を選ぶこともできたのでは?」と思ったことも正直、あります。

 でもそんなとき、僕はいつも「原点に戻る」ようにしています。
 その原点とは、「言い訳したくない」「まず行動する」という気持ち。
 そして、その気持ちを思い出させてくれるのが──恋路の海です。

 波の音と、澄んだ空の広がり。その風景に触れるだけで、「ああ、やっぱりこの道で良かった」と思えるんです。

能登ってどうなの? って思ったあなたへ──一緒に挑戦しませんか

 ここまで読んでくれてありがとう。
 きっと「なんか面白そう」「ちょっと気になる」と思ってくれた人もいるかもしれません。

 もしそうなら──一歩、能登へ踏み出してみませんか?

 僕たちアルバ団は、年齢も経験も関係なく、「動いてみたい」人を歓迎します。
「地域に関わりたい」「何かやってみたい」「カレーが好き」「海が好き」──理由はなんでもいい。

 まずは能登に来て、「恋路アルバカレー」で語り合いましょう。
 その日が、あなたの新しい冒険の始まりになるかもしれません。

 町も、僕たちも、あなたを待っています。

取材後記

 キックボードでの日本一周、オーストラリアへの旅、能登への移住、そしてカレー店の開業。すべてが一本のストーリーとして繋がっていて、しかも開店直後には豪雨災害という試練まで待ち受けていたというのだから、まるで一本の映画を観ているようでした。取材のために訪れたはずが、気づけばこちらが元気をもらっていた。スクリーン越しではなく、目の前で語られる「主人公」の物語に、心が揺さぶられる不思議な時間でした。
 能登町・恋路で話題の「恋路アルバカレー」。その看板店主・三船涼圭さんのドラマのような人生を伺い、彼の圧倒的なエネルギーと行動力にただただ驚かされました。
 常に前向きで、発する言葉のひとつひとつにしっかりとしたビジョンと想いが込められていて、聞いているこちらも自然と引き込まれてしまう。震災後の能登を「もっと面白く、もっと元気に」と語る姿は、まさに地域のムードメーカーです。
「やりたいことは全部やる。言い訳はしたくないし、やってみないとわからないから」と微笑む三船さん。その言葉に、能登の未来が少し明るく見えた気がしました。

事業者プロフィール

恋路アルバカレー

店主:三船涼圭 所在地:石川県鳳珠郡能登町恋路7-10

記者プロフィール

田村 亘

田村 亘

都内の金融機関向けITエンジニアとして勤務するかたわら、マラソンやトライアスロンに情熱を注ぐ。完走を目的に全国各地のレースへ参加し、旅先ではご当地グルメを楽しむのがライフワーク。なかでも、珠洲トライアスロン大会で泳いだ透明度の高い海は、今も心に残る特別な体験。  令和6年能登半島地震からの復旧・復興のために、「少しでも力になりたい」という思いから、ライターとして能登を訪問。現地の人々の声や風景、復興への歩みを丁寧に綴り、情報発信を通じて支援の輪を広げることを目指している。