今回は、能登の最北端、珠洲市で「ギフト館イマイ」を運営されている今井麻紀子(いまい・まきこ)さんにお話を伺いました。
珠洲の一次産業を復活させたい
珠洲の「珠」という漢字には、宝石や珠玉といった意味があります。
珠洲市は宝物のような食の宝庫、まさに「珠の州(たからのくに)」なんです。
ワカメ、岩のり、松茸、小豆、塩、椿──。
私が守りたいのは、そんな珠洲のたからものたち。
「珠洲の天然わかめといえば今井商店」と言われるくらい、春先にはわかめを仕入れて販売していたのですが、元々人口減少で担い手が少なくなってきたところに震災があり、津波で船が流されてしまったりして、わかめ漁を行う漁師さんも減少してしまいました。そのため一気にわかめの収穫量も取り扱い量も激減してしまいました。
どれだけそこに資源があっても、一次産業を担う方がいないとたからものは無くなってしまう。
珠洲の経済が回り、人が戻ってくれば、担い手になってくれる方もいらっしゃるのではないか、そんな思いで、悩みながらですが、活動を続けています。
珠洲のお菓子をつめた「珠手箱(たまてばこ)」
震災後、金沢の事業者さんから「能登のものでお中元をつくりたい」というご依頼をいただいたことをきっかけに、珠洲のさまざまなお菓子を詰めた「珠手箱(たまてばこ)」をギフトショップとインターネットで販売しています。
一軒一軒、お菓子屋さんを訪ね歩いて開拓して、珠洲、能登ならではのお菓子を仕入れ、箱に詰めています。
小さな事業者さんが多いので、どのお店も大量生産が難しく、珠手箱の中身は仕入先のお店や生産量次第で大きく変わります。どんなお菓子が入っているか、そこも『玉手箱』をあけるドキドキのように楽しんでいただければ嬉しいです。

ただ、ここに詰めるものはお菓子だけでなくていいと思っています。
塩や海産物……能登のモノや珠洲のモノを詰めれば何でも「珠手箱」なんですよね。珠洲の魅力を日本中に届けるツールになればと思っています。
被災見舞いのギフトを買いに来られた方にも「こんな時やからこそ、生産者さんのためにも能登の物を使いませんか?」とこちらをご提案しています。私たちにとっては売れれば何でもいいはずなのに、他のお菓子を見ている人がいらっしゃったら「こっちの方がおススメです!」と声をかけてしまいますね(笑)

他にも、地元の靴屋さんが被災され、近くで靴を買えるお店が無くなってしまったという声を聞き、被災により廃業された靴屋さんにノウハウを教えてもらい靴を販売したり、被災された衣料品店の在庫を処分するために閉店セールの場所としてギフト館イマイの一角をお貸ししたり。住民の生活が少しでも楽になること、珠洲の経済が少しでも回ることを願って活動しています。
ふるさとの一次産業を守りたい…何かいいアイデアをください!
やっぱり、冒頭のように、珠洲の一次産業を守っていくにはどうすればいいか、ということはずっと考えています。一次産業の価値がしっかり評価され、ちゃんとした対価を得られるような仕事にしたい。
私一人でなんとかできる問題ではないのですが……「収穫してくださる方がいれば、いくらでも私が買い取って売るのに!!」と、もどかしい気持ちです。何かいいアイデアがあればなと思っています。
皆さんは、「海ぞうめん」(うみぞうめん)という海藻をご存じですか?
奥能登でも特定の地域でしかとれない海藻で、今では珍しい「灰干し」で保存するんです。食べるときは灰を洗い流して、三杯酢やごまドレッシングなどで食べる。
それを収穫してくださる方がいないと、そんな貴重な食文化そのものも消えてしまう。
なんとかして、こんな食文化も守っていきたいんです。

能登の名産品を販売し、珠洲の生活も支えるギフトショップ
「今井商店」は江戸時代末期に創業した商家です。
時代時代に合わせて、生活必需品や、珠洲で採れた海藻や松茸を仕入れて販売していました。
なかでもギフトの売り上げが好調だったこともあり、30年前、私が地元に帰ってきた時にギフト部門だけを支店として独立させたのが「ギフト館イマイ」です。私はその時からずっと出世のない店長です(笑)
ギフト館イマイでは出産祝いや結婚祝いなど、冠婚葬祭のギフトと一部お土産品を取り扱い、本店はであり今井商店は6年ほど前にリニューアルして珠洲の海産物や農産物を主に取り扱っていました。

ただ、2024年1月1日の能登半島地震で本店は全壊。幸い、こちらの支店はなんとか残ってくれたので、被災して3ヶ月後からギフト館イマイを再開させました。
以来、先ほどご紹介した珠手箱や、生活用品、珠洲の特産品、復興支援のステッカーやお土産などを販売しています。

編集後記
珠洲市は能登半島の最北端。津波の被害も発生した地域です。半島の最奥ということもあり、ライフラインの復旧にもかなり時間がかかりました。2025年5月時点でも、復興以前の復旧作業が続いている地域もあります。
そんな珠洲で、被災後3ヶ月でお店を再開し、今でも道の駅などを巡って能登や珠洲のお菓子や名産品を探し歩いているという今井さん。その奥にあったのは、珠洲の一次産業、ふるさとを思う気持ちでした。
「子どものころ、珠洲は何もないとこだと思って育ったんですよ。でも、故郷に戻ってきてこの仕事を始めて、珠洲のモノに触れて、自分の住むまちの素晴らしさに気づいたんです。子どもたちにも、自分の故郷を誇りに思ってほしいと思っています。」
震災前は小学校で珠洲の海藻や能登大納言小豆について学ぶ授業も行っていたのだそう。
海ぞうめん、岩のり、松茸、塩、大納言小豆……その魅力をお話される今井さんのお顔はとてもキラキラしていて、聞いているだけで食べたくてうずうずしてしまう。
「伝統文化や産業は人間が諦めると無くなってしまう。でも、諦めなければ、人の手でいくらでも復活させることもできると思うんです。」
この発信が少しでもそんな珠洲のお役に立てればと願っています。
ああ、海ぞうめん、食べてみたい……!!

