今回は、能登町宇出津新村地区で活動する一般社団法人新村新友会(しむらしんゆうかい)の町端浩(まちばた・ひろし)さん、川端優介(かわばた・ゆうすけ)さんにお話を伺いました。
未来をになう子どもたちに「夢が叶えられる地元」を作ってあげたい
新村新友会(しむらしんゆうかい)は、能登町宇出津(うしつ)新村(しむら)地区の新村本町、昭和町、新村浜町の3町内会に属する有志の青年会です。もともとひとつの町内だったこれら3町内では、宇出津最大のイベント「あばれ祭り」では、今も一緒に活動しています。
この町内の青年会としての新村新友会とは別に、2024年の震災をきっかけに、石川県の内外からのご支援の受け皿として法人化されたのが一般社団法人新村新友会です。
一般社団法人を設立したことで、県外のNPO法人や企業からの提案を受けたり、ご支援をいただく際の窓口の役割を果たせるようになりつつあります。まだまだ試行錯誤中ではありますが、運営体制を整えて、地域の復興と活性化に貢献していきたいと思っています。
能登の未来をになう子どもたちに、ここから出て行かなくても夢が叶えられる環境を整えていきたい。この町にいながらにして、さまざまな体験ができる機会を用意していきたい。
そのために、新たに立ち上げた一般社団法人新村新友会の運営を軌道に乗せたい。そんな目標を持っています。
企業からのお招きの窓口となり、東京や関西へ──楽しい経験の機会を子どもたちに
震災以来、県外の支援団体や大企業から、さまざまなお話を持ちかけていただくようになりました。私たちの社団法人では、その窓口にもなり、子どもたちに、自分たちだけでは出来ない貴重な体験の機会を作っていきたいと思っています。
1. ダイワハウス工業のお招きで『みらい価値共創センター「コトクリエ」』へ

2024年11月には、ダイワハウス工業の招きで奈良県にある『みらい価値共創センター「コトクリエ」』を新村地区の4家族19名で訪問しました。コトクリエは、子どもから大人まで学ぶことができ、住まいの未来について夢を膨らませられる施設で、子どもたちはクイズに答えたりしながら、楽しく住まいの耐震構造や断熱技術、防音の仕組みなどを学びました。

未来に住みたいおうちをワークシートにそって書き出す学習では、「寝るとき星空が見えるおうち」「ブランコのあるおうち」「推し活できるおうち」などさまざまなアイデアが出ました。また、模型づくりでは、「あばれ祭り」のキリコがあるおうちを組み立てたりしました。
2. 楽天グループのお招きで東京ビックサイトで神輿をかつぐ
一般社団法人立ち上げ前の2024年8月のことですが、楽天グループ株式会社のイベント「Rakuten Optimism 2024」に招いていただき、東京ビックサイトにみんなで行ってきました。「地域創生エリア」という会場で「あばれ祭り」のパフォーマンスをしたことは、参加した子どもたちにとって忘れられない思い出になるとともに、自分たちの町に誇りを持てる経験になったでしょう。
神輿を担ぎながら会場を練り歩き、掛け声とともに神輿を地面に叩きつけ、痛めつける。それは神様に近づくこと。来場していた東京のお客さんは、その光景に惹きつけられて、手元のスマホで写真に収めていました。



3. Nintendo Switchで農業ゲームをプログラミング
こうした外に出て行く企画のほかに、宇出津にいながら、プログラミングの世界を学習できる取り組みもしています。
能登町教育委員会は、震災後、NTT西日本からの支援としてプログラミング教育に使えるNintendo Switchを35台寄贈されています。そこで私たちはこの端末を利用して、地元の農業をゲームにする取り組みをしています。
子どもたちには、まず能登町内の農家で農業体験をしてもらい、その経験を活かしたゲームのアイデアを考えています。まだ手探り段階ですが、どんなものができていくか楽しみです(Nintendo Switchは学習時のみ町から借受)。
支援団体のご提案を受け入れ、小型重機車両の講習会
一方で、私たちは、こうした子どもたちへの機会の提供以外に、能登町の復興支援に携わってくれている団体との窓口の役割も果たしています。
一般財団法人日本笑顔プロジェクトは、能登の復興を加速させるため、解体作業や復旧作業に当たる人がブルドーザーなどの小型重機の免許が取得できる研修講座を提供してくれました。
本来ならば重機の操縦資格を取得するには、金沢まで行かねばならず、能登町から金沢までは130キロの距離があります。この講習会は能登町にいながらにして資格や免許が取得できるもので、地元の人たちや支援団体の方々が参加しました。

元の新村新友会でも、以前からの身近な行事を続けていく
ハロウィンもクリスマスも笑顔で
3町内の有志の会、新村新友会では、これまでもハロウィンやクリスマスの時期にプレゼントを配ってきました。一般社団法人の設立後も、こうした行事は新村新友会で続けていきます。
震災のあった2024年も、10月にはハロウィンイベントを企画し、子どもたちがお菓子をもらいに家を訪ねて歩きました。また、12月のクリスマスには、大人たちがサンタに扮して子どもたちにプレゼントを配りました。
さらに震災を機に繋がりのできた方々のご希望で小学校にお菓子を配りに行ったり、鵜川保育所にはサンタの衣装で子どもたちにお菓子を配りに行きました。
地震のあと、子どもたちは少しの余震でも敏感に反応してしまい、笑顔を失っていた時期がありました。ようやく戻った笑顔を守っていきたいと思っています。
「子どもキリコ祭り」も元の新村新友会で 子ども神輿とキリコを製作
「あばれ祭り」は、この町に住んでいる以上、誰もが参加する町のアイデンティティです。2024年の震災では神輿の製作ノウハウをもつ町内唯一の製材所が被災し、町に住む多くの方の住まいが倒壊したため、350年の歴史あるこの祭りの開催が危ぶまれました。新村新友会では、クラウドファンディングを行い、全国の多くの方々にご支援いただきました。集まったお金は、被災した製材所を支援したり、祭礼費などに充てさせていただきました。

また、祭りの日に各家庭が親戚や友人を招き合って懇親を深める「よばれ」という慣わしも、ご支援いただいたお金を使わせてもらい、空き地に「合同よばれ」を設けることで、人を招けないほど自宅が損壊してしまった人たちも、一緒に楽しむことができました。こうして、なんとか祭の灯を消さずに続けることができました。

当初は、さまざまな事情で、祭りを開催することに賛成しない意見も少なくありませんでしたが、実施してみると、やはりやって良かったという気持ちでひとつになれたと思っています。
そして、今年2025年も「あばれ祭り」は開催されます。
この「あばれ祭り」の開幕前には、毎年、地元の小中学生による「子どもキリコ祭り」が行われます。震災から2年目となる今年2025年も、新村新友会が新村3町内から「子どもキリコ祭り」の運営を委託されています。子どもたちがかつぐキリコと子ども神輿も新村新友会が製作します。
やがて大人になり、祭りを支えていく子どもたちに、祭りの醍醐味を楽しんでもらいたいと思っています。

団体運営の課題解決、収入・マンパワー・継続性をどうやって
こうして、地震と一般社団法人設立から1年ほどでいくつもの企画を形にすることができたことは良かったと思っていますが、もちろん課題はたくさんあります。
安定した収入とマンパワーの問題
残念ながら、今の私たちは安定した収入を上げる体制が整っていない状態です。やはり、何かを企画し実行するには、どうしても出費があります。
今はいくつかの支援団体からいただいた資金の範囲で企画を立てている状態です。今後やりたいことを実現するには、活動資金を自ら得るための見通しを立て、企画・実行のノウハウを学び、団体の運営を安定させることが欠かせないと考えています。。
私たちのような一般社団法人の運営に知見をお持ちの方、ぜひご助言をいただければ有り難いです。継続的にご支援いただける団体や企業からのご提案もお待ちしています。
支援団体への恩返しでお手伝いしていきたい
震災以来、たくさんの支援団体の方々と交流させていただきました。なかには支援の枠を越えて親しくさせていただいている方々もいらして、私たちの法人としても、恩返しとして「支援団体への支援」をしていければと考えています。
事例をひとつご紹介します。2024年9月の奥能登豪雨によって、私たちの能登町よりも深刻な被害を受けた輪島市町野町へ、とある支援団体と一緒に炊き出しに行きました。

実は私たちは、支援団体の方から「たい焼き器」を寄贈いただき、関係者一同とても嬉しかったのです。金沢に近い野々市の人気店「たい焼き工房土九」(つちく)から、わざわざ土本勝洋社長が焼き方指南に来てくださり、材料も提供していただきました。
この経験をきっかけに、今度は私たちが、親しくなった支援団体の方と一緒に町野町に炊き出しに出向き、町野町でたい焼きを振るまったのです。
こうした取り組みも、もし人手と費用の捻出ができれば、もっとやっていきたいと思っています。
私たちの活動を継続的に進めていける方法について、知見をお持ちの方、一般社団法人新村新友会までご提案いただければありがたいです。
事業者紹介 一般社団法人新村新友会
あらためまして、一般社団法人新村新友会は能登町宇出津の新村3町内の有志でつくる「新村新友会」をベースに、2024年の震災と豪雨災害からの復興において役割を果たすために設立された一般社団法人です。
代表理事を町端浩(まちばた・ひろし)がつとめ、3町内の有志会である新村新友会代表の川端優介(かわばた・ゆうすけ)も社員となっています。
町端 浩
一般社団法人新村新友会代表理事。宇出津出身。
父の代から続く自動車板金塗装の会社を引き継いでいます。震災の後は、物流が滞って修理に来るお客さんへの対応が追いつかなかったり、津波でエンジンに水が入ってしまったお客さんには、修理をお断りせざるを得ない時期がありました。
今は、支援に来てくれた団体の車を修理することも増えてきました。それだけに、お世話になった支援団体のお手伝いをしていきたい気持ちを強く持っています。
この法人でやってみたいことに、除雪ホイールローダーといった「働くクルマ」の展示イベントなどがあります。
すべては子どもたちの笑顔のためです。そのために、一般社団法人の運営を軌道に乗せていきたいと考えています。

川端優介
新村3町内の会としての新村新友会代表。一般社団法人新村新友会社員。金沢市出身。父が宇出津出身だったため、子どものころから「あばれ祭り」には参加してきました。
高校を卒業した後、東京でエレベーターメーカーに勤務していましたが、22歳で宇出津に住むことにしました。
現在は、船の電気工事の仕事をしています。仕事を通じて、能登から人が流出してしまっていることを強く感じています。日本三大イカ漁港の小木でさえ、最盛期に80隻以上操業していたイカ漁船が2024年には9隻に、2025年にはさらに2隻が廃業し、7隻に減っています。
こうした中、未来をになう子どもたちに、地震の怖さを忘れてしまうほどの楽しい経験をさせてあげたい。夢を叶えられる地元を作ってあげたい。そんな気持ちを強く持っています。

取材後記
今回、一般社団法人新村新友会の取材で、代表理事の町端 浩さんと、3町内の会の代表をつとめる川端優介さんのお二人に話をうかがいました。
宇出津で生まれ育ち、ご自宅が「あばれ祭り」で神輿が最初に立ち寄る伝承の地に住む町端さん。金沢生まれで、東京で働いた経験もある川端さん。個性も年代も異なるお二人を強く結びつけているのは、ひとつの明確な目標「すべては子どもたちの未来のために」でした。別々にお話をうかがったのに、お二人はほぼ正確に同じ表現をなさっていました。それは「地震で子供たちが怖い思いをしてしまった」「それを忘れてしまうくらいの楽しい経験をしてほしい」、そういう表現でした。これは宇出津に住む多くの大人にとって、共通の思いなのだと思いました。
川端さんに、お願いして何枚かお写真を送っていただいたところ、そのなかにお二人が一緒に写っている「あばれ祭り」の写真がありました。それはこの町に住む人にとって「あばれ祭り」がどのような存在なのか、ひと目で分かる写真でした。
まだ始まったばかりのこの一般社団法人。毎年「あばれ祭り」で確かめ合う一体感で、この先いくつもの課題を乗り越え、きっと目標を達成されていくと信じています。
どうか子どもたちを想う大人たちの願いが叶い、子どもたちが笑顔でいられますように。


