ロゴ

能登のじいちゃん、ばあちゃんは宝だ! 若者・高齢者の可能性を解き放ち「奥能登モデル」構築を目指す“焼塩エイミー”

合同会社焼塩エイミー

更新日:2025年5月8日

 今回は、「若者・子育て世代の人口流出」、「人口の半分強は『65歳以上』」、「高齢者のみ世帯の増加」、「耕作放棄地の増加」等々、能登の現状課題を「若者・高齢者の可能性を解き放つ舞台」に転じるという、今までにない発想で課題解決を目指すインパクトスタートアップ“焼塩エイミー”をご紹介します。

地域衰退の象徴であるかのような表現に違和感

「高齢化」というワードは「喜ばしくない」という文脈で使われることが多いのではないでしょうか。実際に、喜ばしくないデータが集積されている以上、それは致し方ないことだと思います。
 ただ、能登のじいちゃん、ばあちゃんたちを、地域衰退の象徴みたいに言われると、ちょっと私たちは違和感を感じてしまいます。そのように感じる理由が、私たちにはあるのです。

理由 1. 能登のじいちゃん、ばあちゃんは知財である

 能登で連綿と受け継がれてきた、暮らしの知恵、生活を豊かにする技を、じいちゃん、ばあちゃんたちは持っています。
 そして、忘れはしません、あれは私・北村優斗(きたむら・ゆうと)が、発災後のボランティアとして、とあるばあちゃんの家の片づけをした時のことでした。ばあちゃんが「あら~、あんた、気の毒なぁ(感謝の気持ちを伝える能登の言葉です)」と、発災前に獲れたアワビを私にくれたのです。
 また、炊き出しのボランティアをやっていた時に出会ったばあちゃんは、自宅が被害にあったのに、みんなに食べさせようと、から揚げを大量に作ってきて配っている。
 そして、私たちがバイトをしている飲食店で、洗い場を請け負っているばあちゃんは、どんなに忙しくてもすべての洗い物を受け取ってくれる圧倒的な貫禄があり、スタッフたちに安心感を与えてくれます。
 私たちの世代ではとても真似できないであろう、ばあちゃんたちの佇まいと行動に、能登の精神性を見るような気がしてなりません。

みっちゃん(左の写真の右側)が、折り紙を折って作った
箸入れと便箋を「彼女にあげてね」って持ってきてくれました。
便箋には、右の写真のように鶴が折ってあるのですが、
別紙で作った折り鶴を付けたのではなく、すべて1枚の折り紙でできている便箋なのです

理由 2. 高齢者の需要に供給が追い付いていない

 震災前の2024年秋に「能登の現状を知りたいので、リサーチして報告書を提出してほしい」という依頼を受け、能登の事業者さんたちにヒアリングさせていただきました。
 ヒアリング先のひとつに老人ホームがあったのですが、100床以上が空いている状態。聞けば、人材不足で高齢者を受け入れられないため、空きが生じているとのこと。高齢者とその家族の需要はあるのに、供給が追い付いていない状態です。
 そして、震災と豪雨により、奥能登ではコミュニティや当たり前の日常生活など、さまざまなものが失われていくなかで、加速度的に伸び続けているのが、高齢者率です。
 既存の事業者・団体さんと競合しない新しい事業で高齢者の需要に応じることをしていけば高齢者はハッピー、雇用の創出・能登復興にもなり、地域の人もハッピー、そして私たち自身もハッピーなのではないかと考えました。

 上記に加えて、そのリサーチによって高齢者に「収入」と「生きがい」を提供するビジネスを展開している事業者の存在を知って勇気づけられたことも、「衰退の象徴にしてたまるか!」と感じた理由の一つです。
 この思いを事業という形に変換するにあたり、まず、私たちは「奥能登発、全世代主人公のワクワク戦国時代」をビジョンに掲げました。これは、若者も高齢者もワクワクして生きようよ、そのための事業を奥能登から創っていこうよ、という意味です。

合同会社焼塩エイミーCEO北村優斗(きたむら・ゆうと)。2003年長野県生まれ。
高2の時にゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清走中」を考案。
大手企業や自治体からCSRプロモーションとして依頼が殺到するも、2023年事業継承。
能登半島地震発生直後の2024年1月、友人らと「輪島朝市むすび」立ち上げ、炊き出しを行う。
その後、コワーキングスペース「奥能登ブリッジ」を運営する
“合同会社CとH”のインターンとなる。2025年珠洲市に移住
珠洲市上黒丸地区のばあちゃんたちと談笑する
合同会社焼塩エイミーCPO(Chief Play Officer)笠原美怜(かさはら・みれい)。
2004年福井県あわら市生まれ。日本航空高校石川卒業後、北九州市立大学に入学。
2024年、地域ベンチャー留学で珠洲市に訪れ、“合同会社CとH”のインターンとなる。
奥能登で出会った人々に惹かれ、「この人たちの役に立ちたい」と休学、起業を決意。
2025年珠洲市に住民票を移し、珠洲市民となる。
無心になって遊ぶその姿は、「全世代主人公ワクワク戦国時代」の象徴。
今後、会う人、会う人をみんな巻き込んでいくぞ! と、静かに心の灯を燃やしている

人口減少に向かう日本で「奥能登モデル」構築を目指し、世界に問う

 現在、奥能登では人口の半数以上を65歳以上の高齢者が占めています。
 高齢者が創出できる社会的・経済的価値を上げていくことこそ、最もインパクトがあるのではないか──と私たちは考え、2025年2月から2か月間、多くのばあちゃんたちと一緒に時間を過ごしてきました(じいちゃんは人見知りな方が多いため、まずは、ばあちゃんたちと仲よくなろうと考えました)。
 具体的な活動は下記の通りです。

・集会所のお茶会の常連になる
・地域のコミュニティの再構築を目指す
「さいはての谷内のおとうふ」の移動販売
・畑を教えてもらう
・旧上黒丸小学校で毎朝実施しているラジオ体操&ティータイムに参加
・仲良くなったばあちゃんの家に笠原と北村の妹がホームステイ

旧上黒丸小学校で実施しているラジオ体操&ティータイムは楽し過ぎて、現在も参加しています。写真はラジオ体操の前の、軽いウォーキング(2025年4月5日撮影)
ラジオ体操だけでなく、ペタンクや卓球などもして、いっしょに遊びます(2025年4月5日撮影)

 その結果、「あんたらもう孫みたいなもんや~また遊びにいらし!」などと、私たちの存在自体を「ささやかな生きがい」と思ってくれるばあちゃんたちが20~30人ほどできました。
 それと同時に、私たちもばあちゃんたちから癒され、励まされ、エネルギーをいただいており、エネルギーを補完する関係性のステキさに気づきました。
 そして、まだまだ模索中ではありますが、以下の事業をスタートさせようと考えています。

〇宿泊事業
1. 完全紹介制民泊/農家民泊
 完全紹介制の民泊/農家民泊事業です。顧客の信頼性を確保することで、ばあちゃんへの安心感を醸成します。
2. 異世界転生チケット
 メンタルヘルス不調者/休職者向けの福利厚生サービスとして企業様に導入いただく設計です。
3. 教育旅行の受け入れ
 2026年度以降、増加するであろう能登への教育旅行を「珠洲で実施する」という選択肢を提案、珠洲に滞在する契機を創ります。

〇企画・プロモーション事業
1. 「Ba-グランプリ」「絶飯フェス」の開催
 能登で一番うまい料理を作るのは誰なのか、料理上手なばあちゃんを発掘するイベント「Ba-グランプリ」(仮称)を開催。また、地震・豪雨の被害により、廃業を検討する飲食店が少なくないことから「絶飯(絶滅しそうな絶品飯)フェス」を開催。これにより、店の復活と町の活性化を目指します。
2. 食品系企業様とコラボレーション
 食品系企業様とのコラボで「Ba-グランプリ」を開催します。企業様にとっては、新商品開発のヒントが得られると同時に、奥能登でのイベント開催により企業イメージの向上、プロモーションにもつながります。
3. 都市部への宅配サービス
 都市部の若者へ、料理上手なばあちゃんか作るお弁当を届けます。ばあちゃんの特技を活かし、若者の「料理を作る時間がない」「料理が苦手」などの困りごとを解決します。

〇農業事業(二重被災で発生した大量の更地と耕作放棄地の有効活用)
1. 地元農家の技術・農地継承
 輪島市の株式会社サクシードの合間社長がさまざまな独自技術を保有しています。それらの技術ならびに農地を継承し、商業農業を進めていきます。
2. オーナー制度
 区画ごとのオーナー制度を設け、オーナーになった方には、農繁期に合わせて年2~3回能登に来ていただき、継続的に関わる機会を設けます。
3. 新商品/コンテンツ開発
 サバ✕ブロッコリーの缶詰「サバッコリー」(仮称)や、畑を耕す際にトレジャーハンティングのような体験イベントを設計します。

 上記以外にも、都市部に転出した働き手世代・子育て世代である実の子・孫に代わって、能登の若者が「ガチ孫」として、じいちゃん、ばあちゃんと過ごす孫代行等々、奥能登が直面している課題を若者も高齢者もワクワクしながら解決できる「奥能登モデル」の構築を目指し、さまざまな事業を検討しています。

“焼塩エイミー”に興味を持った方、一緒にワクワクしませんか?

 私たちが考えていること、計画している事業を紹介させていただきましたが、「なんか面白そう」と思ったら、奥能登ブリッジへ遊びに来てください。そして、私たちと一緒にワクワクするような時間を過ごしましょう。
 来ていただいた皆さんには、紹介した事業の実現や遂行に固執することなく、各々が感じたこと、できることを出し合って、新しいアイディアが生まれるワクワクを共有してもらえたら最高です。
 また、能登復興に関心があるけれど「能登に関わりシロがない」と思っている方も、どうぞ気軽に私たちに会いに来てください、楽しい時間を過ごしましょう。

さまざまな業界の、さまざまなおもろい人物が訪れる奥能登ブリッジは
24時間オープンの会員制コワーキングスペース。
話が盛り上がるとワクワクは止まらない(2025年4月4日撮影)

なぜ、“焼塩エイミー”なのか

 2024年の夏、私たちがまだ“CとH”のインターンだったころ、奥能登ブリッジに、ある女性がやってきてこう言いました。
「ボランティアをしに来たのに、ラーメン屋と旅館の営業再開のお手伝いをしていたらバイトリーダーみたいになってしまって……誰か、一緒にバイトしてくれる人はいないかな?」
 この女性は「エイミーさん」と言って、奥能登では知る人ぞ知るプロボランティアでした。
 このひと言がきっかけで、北村と笠原はラーメン店でバイトをすることになったのですが、そのお店は個性豊かな店員と、非合理なアナログオペレーションにあふれていました。
 そこで出会ったのが「焼塩さん」というばあちゃんです。
 前にも述べましたが、焼塩さんは洗い場を専門で担当し、どんなに忙しくて洗い物が多くても引き受けてくれる方です。私たちはこの焼塩さんの圧倒的貫禄に安心感を覚えつつ、楽しく働いていました。
 この焼塩さんと、プラボランティアのエイミーさん、2人の名前を組み合わせて、社名を“焼塩エイミー”としました。
 それは、私たちに大切な仲間が増えたこと、そして、仲間たちと一緒に時間を過ごすなかで「奥能登・珠洲でワクワクしながら暮らしを続けていける」という未来を創造したいと思うようになったのが、エイミーさんと焼塩さんのおかげだと思っているからです。
 “焼塩エイミー”はまだ生まれたばかりですが、能登のじいちゃん、ばあちゃんたちが持つ知財と若い世代の力で化学反応を起こし、「全世代主人公」の、ワクワクする能登を発信していきます!

取材後記

■上黒丸のラジオ体操&ティータイムに参加させていただいた時に、「ここはステキな所だな」と思いました。その理由としてまずあげられるのは、笠原さんや北村さんがおばあちゃんたちの身内のように馴染んでいる、ということが一つ。そして、私のような見ず知らずの者が入り込んできたのにもかかわらず、すぐ打ち解けて、一緒に遊んでくださったんです。笠原さんや北村さんが能登のおばあちゃんたちに魅せられたのはコレか! と思いました。
私自身、学生ですが、ビジネスなどに興味があり、彼らと同じような世界にいるので、2人と出会って、「あっ‼ 仲間見つけた。しかも、面白い! 最高‼」っていう、気の合う友だちが見つかった感じ。能登に来る理由が、また1つ増えました(M)
■“焼塩エイミー”を取材させていただくことが決まったとき、社名を見て、焼塩の販売会社かと思った。取材の前にいただいた資料に「奥能登発、全世代主人公のワクワク戦国時代」とあり、頭のなかで、まーるい輪っかがクルクルクルクル回る。さらにその後、入手した資料のなかに「能登のじいちゃんとばあちゃんは宝だ」というコメントを見た瞬間──この人たちには何が見えて、自分は何が見えていなかったんだろうか──とモヤっとした。こんな状態で“焼塩エイミー”のお二人とお会いしました。「8番花札」なんていう、ぶっとんだ話を聞いていくうちに、硬くなっていた目の毛様体筋がほぐれてゆき、お二人が見ている世界に魅せられていきました。この記事で、どれだけ彼らのことをお伝えできているでしょうか…。よくわからなかったら、それはライティングの問題です。どうぞ奥能登ブリッジまでお二人を訪ね、実際に話を聞いたり、いっしょに遊んだりしてみてください(S)

事業者プロフィール

合同会社焼塩エイミー

代表者:北村優斗(CEO)、笠原美怜(CPO) 所在地:石川県珠洲市飯田町15-20-1 奥能登ブリッジ内

記者プロフィール

チームまほみち

チームまほみち

〇入江真穂(学生ライター)学生をしながらライターをしています。現在、大学2年生で、大学では経営学と安全保障を専攻しています。能登の復興を目指す事業者・団体さんのお手伝いが少しでもできればと思い、シロシル能登の取材・執筆を担当。 〇道井さゆり(千里浜出身ライター)書籍の企画・取材・執筆・編集の他、本づくりで出合った著者のYouTubeチャンネルの構成などを担当したり、なんやかんややっています。