今回は、輪島市で「ごちゃまぜ」で「まるごと」の支え合いによって、子どもから高齢者まで自分らしく生きることを応援している〝ごちゃまるクリニック〟と〝NPO法人じっくらあと〟をご紹介します。
輪島で暮らす人々が「自分らしく」立ち直るために
日々の診療を通して、あるいは10代の子どもたちの居場所(運営はNPO法人じっくらあと)を訪れる子どもたちと接したり、いち住民として地域の方たちと接するなかで、最近気になっていることがいくつかあります。
一つは、発災直後から頑張って周囲を引っ張ってきた人たちに見られる「息切れ感」です。「疲れがとれない」「長い先を見ると悩みが尽きない」などの訴えを耳にします。
もう一つ気になるのが、子どもから大人までそうなのですが、「前に向かって進めている人」「元気を取り戻した人」と、「どうしても動けない、立ち止まったままでいる人」「うつうつとしてしまう人」の二極化です。とくに最近は、その差が開いてきたような気がします。
ただし、被災者の立ち直り方というのは個別性が高く、立ち直りが早いことが正解では決してありません。その人、その人の立ち直り方があるのです。
その時、その時の、その人の歩みに合わせて、細やかな配慮──その人が自分らしい生き方ができるよう、「ごちゃまぜ」で「まるごと」の支え合い──をすることが大事だと思っています。


「ごちゃまぜ」で「まるごと」の支え合い
「ごちゃまぜ」で「まるごと」の支え合い──これはプライマリケアを表す「ACCCC」(近接性・継続性・包括性・協働性・文脈性の頭文字)を、「ごちゃまるクリニック」院長の小浦友行が自身の言葉で、表現したものです。
生きづらさを感じている方や、病気や症状があって困っている方の背景には、生活環境、家族の歴史、地域との関り、地域が抱える課題など、さまざまな事柄が複雑に絡み合って存在し、それらが生きづらさや、病気・症状に影響を与えることが知られています。
人が「自分らしく、心健やかに過ごしている」と感じるようになるには、下記のようなことが大切です。
・医療職、介護や福祉、学校、行政など、あらゆる専門職との協働
・その人本人はもちろん、その人の暮らしに登場する人物や事柄などをまるごと見る
・どうしたら、その人が自分らしく健やかに暮らしていけるのかを探る
・継続的な支援
・いろんな人が気軽に集まり交流できる場所
・困ったことを相談できる人とのつながり
上記が、プライマリケアの「ACCCC」、すなわち「ごちゃまぜ」で「まるごと」の支え合いなのです。
私たちは、「ごちゃまるクリニック」が提供する医療・健康相談、行政が提供する介護・保健・福祉のサービス利用に関する相談の受付、さらに輪島の子どもたちが心健やかに育つように応援する「NPO法人じっくらあと」の各種事業を通して、「ごちゃまぜ」で「まるごと」の支え合いを実践。地域の皆さんの<自分らしさ>を応援しています。


子どもたちが勉強に集中したり、一人の時間を過ごせるようになっている。

アイデアを形にするマネージャーが不足
地域の皆さんは、地震と豪雨により、住まいや楽しみ、奥能登で受け継がれてきた日々の営みや生活文化などを失いました。
そして、これからも復興に向けた変化を受入れていかなくてはなりません。たとえば、避難所生活から仮設住宅に移った方は、災害公営住宅の整備が完了したら、そこへ入居するために住み慣れた地域から移動することになるでしょう。
そのなかで、かつて楽しみとしていたこと、人とのつながり、奥能登で受け継がれてきた日々の営み・豊かな生活文化を取り戻せるのかどうか、私は医師としてまた、同じ地域で暮らしてきた者として、気がかりでなりません。
慣れ親しんできた楽しみや日々の営み、人とのつながりは健康感に直結します。それらが失われることで、場合によっては、病を引き起こすこともあります。そのようなことがないよう、子どもたちから高齢者まで地域の皆さんが「元気に楽しく過ごせているな」という感覚を持てるような取り組みが必要だと思っています。
ただ、アイデアはぽんぽん思いつくのですが、アイデアを形にするために場や仕組み、やり方を整えるなどといったマネジメントがあまり得意ではありませんし、今すでに複数のプロジェクトが同時進行しているため、新たなアイデア実現のために時間を割くこともできない状況です。私たちと足並みそろえて一緒に歩いてくれるマネージャーがいてくれたら「いいな」と思います。


診察台は、段ボールベッドを活用(2025年4月3日現在の様子)。
過疎化が進む輪島で今までにない地域ケアと子どもたちの応援
富山市で、総合診療医、小児科医・学校医として、医療機関に勤めていた私たち夫婦は、2017年、夫の故郷・輪島に移住し、4世代8人で「朝市通り」と呼ばれる地域で暮らすことになりました。
そして、過疎化など、輪島という地域が抱える課題と、地域医療への思いから、2021年に〝ごちゃまるクリニック〟を開業。赤ちゃんから高齢者まで、「ごちゃまぜ」で「まるごと」の支援を行う、新しい地域医療を実践してきました。
また、輪島に限らず過疎化が進む地域では学校の統廃合により、子どもたちを応援するつながりが見えにくくなっています。生きづらさを抱えている子どもたちの声をキャッチし、また地域の子どもたちを応援したいと思い、共感する仲間たちとともに2022年にNPO法人じっくらあとを設立。
10代の子どもたちの居場所「わじまティーンラボ」の運営、子ども相談窓口として「ラボカフェ」や「保健室カフェ」を開催、各方面で活躍する先輩たちから学ぶ機会を提供する「わじま先輩バンク」などの事業を行っています。
取材後記
■医療者は診察室で患者さんに向き合う、というイメージを持っていたのですが、〝ごちゃまるクリニック〟では患者さんを一人の人間として見る、プラス、家族のなかでのその人、学校・地域のなかでのその人を見て「全体最適」を探るとのことでした。さらには、ご自身も地域の一員として、また親として地域と関わり、ご自身の職種や強みを活かして活動をされていることを知り、正直、「こういう医療者もいるんだ」って、すごい新鮮でした(M)
■「わじまティーンラボ」を訪れる子どもたちの成長を近くで見届けることや、患者さんやご家族から「録音して残しておきたくなる」ような言葉・家族の物語を聞けることに喜びを感じている小浦 詩さん。富山市で勤務医をされていたころは「こんなことはできなかった」のですが、ご主人と輪島でクリニックを開業したのがきっかけで「住民としての立ち位置、親としての立ち位置を大事にしながら、小児科医・プライマリケア医として貢献できることを行い、地域の皆さんと暮らす」ようになったのだそう。「まさに、ごちゃごちゃした暮らしなんですが、そこに豊かさを感じている私がいるんです」と語る小浦さんの笑顔が、とってもステキだなと思いました(S)

